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第一〇話 「協力組織①」

 

 臨死体験なるものがどんなものか一度経験してみたいとは思ってはいた。

 だが、それはなかなか予想外過ぎた。


「汝、のぞみを言うがよい。」


 どっかで昔会った事があるような気もするが思い出せない人物が、これまた以前、おなじような問答をした事があるような台詞を言ってきた。


 この手の質問に対する答えに、私にブレは無い。


「地位。金。名誉。」


「それでいいのか?」


「ついでに女。特に美女のハーレム。」


 さて、答えはどうでるか?


「うむ、転生後にそれらをの望みをかなえるには、残念ながら君には『()点値』が足りない。」


 おいおい……

 『経験値』についてはこの手の、異世界転生物の定番だから判る。

 しかし!『()点値』というのは初めて聞いたぞ!?


「というわけで、再び私に会えるまでの間に、もっと功徳を積んで来なさい。」


 ちょっと待て……死んだ後に、どーやって功徳を積むんだ!?

 賽の河原で石でも積めばいいのか!?


「それではさらばだ。」


 そんな無責任な神の声を聞いたとたん、目の前の風景がボヤけた。

 視界には、壊れたブラウン管式テレビの如く、斜めな走査線が入ったかとおもえば、私の眼の前の風景は海辺の街中に変わり、私自身は白く塗られた家屋のオープンテラスで、腰掛けていた。

 眼の前のテーブルにはご丁寧に、飲み物まで置いてあった。


 目の前には、テーブルを挟み、まるでモザイクが掛かったように、顔もよく判らない男か女かも判別出来ない人物が、座っている。


 ……そして目の前の人物は、いきなりこう話を切り出した。


「貴方という人物を把握する為、”記憶”を確かめさせて貰いました。」


「えっ?」


「具体的に言えば、貴方という人物が、私達に利益となるか、不利益をなすか知るため、脳内の記憶と魂に刻まれた記憶を両方読み取らせて頂きました。」


「……ああ、じゃあ、あの碌でもない臨死体験は……?」


「我々が貴方の”身体”を回収してきた時も、現在ここに居るまでの間も、貴方はまだ一度も死んでおりません。」


「なるほど……じゃあ、あの神様相手の珍問答は単なる夢か……」


「いえ、記憶遡行の時漏れ出した”過去の記憶”です。もっとも過去に神が貴方と何のため接触したのかについては、情報不足のため不明です。」


「あの夢、現実だったのかよ!?」


「この世界における神々による世界間をまたいだ魂の誘引は、過去何度となく行われております。その事を鑑みると、その時の返答しだいで、この世界に転生させられていた可能性は充分あるでしょう。」


  なるほど、つまり私は、今回の『召喚』以外にも、危うく『転生』という”かたち”でこの世界へこさせられる可能性もあったという事なのか……


 しつこ過ぎるだろ!異世界!!


「だが何故なんだ?わざわざ異世界から人を召喚したり、魂呼んで転生させたりと、理由が判らない。」


「そのあたりについては、理由となる可能性が複数あり、確実な事は言えません。現在濃厚な可能性としては、神々の間でのパワーゲームの駒としての役割ではないかと思われます。」


「駒?」


「神々にも、それぞれ守護する種族があり、その繁栄を彼らはゲームとして競っています。勇者召喚はそのゲーム上のイベントの一つと思えば考えられます。」


 なるほど、この世界は神々にとっての『ゲームの盤上』。そして『勇者召喚』は人族を守護する神々が引いた”山札”の一枚。


 いうなれば『イベントカード』というわけだ。


「俗っぽすぎるだろ……。しかも人の命をチップや駒にゲームとは、悪趣味過ぎる!」


「彼らはかって『世界創造』を行ったような、古き高位階の神々ではありません。せいぜいここ数千年の間に生まれた『人格神』の幾つかに過ぎません。」


「じゃあ元は”人”だったり”エルフ”だったりするのか?」


「勿論、”ドワーフ”や”ダークエルフ”、”オーガ”や”ホブゴブリン”だったりもします。」


「そんなハタ迷惑な……」


 つまりどうやら神々のゲームに私以下、召喚された人々は確実に巻き込まれたということらしい。


「……じゃあココで確実に聞いておこう。私が元の世界へ帰れる可能性は?」


「『肉体を伴って』という事であれば、現状では可能性は低いでしょう。魂だけの存在であって、更に貴方の居た世界の神々の干渉があれば、可能性はかなり高まりますが、貴方の世界の神々に、貴方という存在が此方に”居る”という事を知覚させなければなりません。」


「私が居た世界の神々の?」


「少なくとも、貴方の居た世界では、魂の存在は神々にとっての子供のようなもの。取り返す為なら力を使おうとするでしょう。ただし、彼らも世界を超えて力を行使するのは並大抵ではありません。まして肉体を伴って取り返すというのは殆ど不可能に近いと推察されます。」


 つまりは……生きて帰れる可能性は無し。ってワケかぁ

 死して屍拾うものなしって……神奈川あたりの地方局で放送してそうな、どっかの時代劇みたいである。


「つまり、いずれにせよ私はこの世界で生きて行かなければならないというワケだな。死んだとしらどうなるか判らないけど。」


「貴方はこの世界で死んだとしても、元の世界の神々に見付けてもらわない限り、そのままこの世界での輪廻を繰り返す事になると思われます。つまり、魂は此方の世界の神々の管理下という事になります。」


 なんつー魂レベルな強制住所変更……!!

 しかも命の価値が軽そうな、一般生活レベルも低そうなこの世界で!?……

 そういえば教会でお世話になってた時気付いたが、どうもこの世界の住民、”風呂に入る”という習慣が無いようだった。

 教会へ通って来てた可愛い女性の頭に、”毛じらみ”が湧いているのを発見してしまった時はさすがに萎えた。


 ……だから私はファンタジーなんて大っ嫌いだ!

 ましてや、どっかのラノベやなろう系小説みたいな異世界転生やトリップを望む奴は気が狂ってるとしか思えない!!


 ……まぁ私はもう手遅れなんだろうが……。

 自分で言ってて虚しくなってきた。


「そこで私からの貴方への提案なのですが。」


 私からの提案?


「それはまた選択肢が有るようで無いようなモノじゃないだろうね?」


「いえ、そんな大した事じゃありません。ただ現在の私たちには行動の指標たるモノが存在しないのです。その役割を貴方に担って欲しいとの提案です。」


「……意味がサッパリ判らないだが……。」


「具体的には貴方に私達の”ご主人様”になって頂きたいという事です。」









 ……どうやら今度は、異世界でメイド喫茶の客となれという事なのか。


 とても財布の中身が危うそうな提案だ。


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