第九話 「危険を売る男達」
……さてさて。
この国の王様が勝手に行った勇者召喚のせいで、魔物暴れまわる危険な異世界へ連れて来られてしまった私は、安全を求め召喚場所である古神殿から近くの街まで必死の思いで逃げて来たワケだが、よりによってその場所が、いろいろ悪徳な陰謀渦巻くファットでバッドなシティだった。
街の廃鉱奥深くで、脱法ドラッグ的なハーブの栽培現場に踏み込んでしまった私達は、どーやらその栽培管理人達に見付かり追い掛けられ、現在絶賛逃亡中。
背中に私達を召喚する為生贄にされた、エルフ兵士の身体を背負い、これまた足手纏にしかならないような、チンチクリンの自称『756歳のエルフ』の手を牽き坑道中を必死で爆走中ってワケだ。
一難去ってまた一難って……どーして私、ココまで運が悪いのか?
……いや、今手を牽いてやってるこの子供のようなエルフが、ガンガンとバッドなフラグ立ているからに違いない。
もうそういう事に決めておこう!!
そして……
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「オイオイ!連中の足をにぶらせるような物、何か持ってないの!?例えば……その……足がらみ爆弾だとか!?」
「……そっそんな見たことも聞いた事もないようなモノあるわけないでしょっ!?ハァッハァッ……」
「じゃあベーコンのフライ音出して壁に穴開けするとかは!?」
「何それ!?巨大女郎蜘蛛じゃあるまいし、そんなの出来るわけないでしょ!!」
さすがに出来ないか……
というかこの世界にも壁抜けする巨大蜘蛛っているのか!?
いろいろツッコミたいところもあるが、この短い時間で判った事だが、どうやらこの”自称756歳”は全く頼りになりそうにない。
「エルフなのに、弓矢の一つも持ってないのか……」
「私は頭脳派でインドア派なんだよ~。外で弓射ってるヒマがあったら部屋に籠もって研究してるか、新しい魔法の開発してるよぉ~!」
なぬ?魔法!?
「だったら魔法で足止めの一つも出来ないの!?」
「アレ!?そういえばその手があったっけ!!」
オイオイ、自分の出来る事忘れるなよ、この非常事態に!(怒)
「じゃあ使いなさい!命掛かってる事忘れないで!」
「……あー、といっても私の魔法って薬や物作る為の錬金術系の物が多いから……」
「”魔法の矢”や”炎の爆裂球体”みたいな攻撃魔法使えないや……アハハ!」
普段の私は英国紳士ばりに温厚なつもりだが、この時ばかりは紅茶がキレた時並に”キレ”そうだった。
今がワールドカップの期間中だったら、立派にサッカー場で大暴れしてたであろう。
「だったら連中の足元を土魔法で沼地にでも変えてみなさい!そしたら貴方に『泥沼の悪夢』の二つ名を付けてあげるザマス!!」
「なに!それ?全然嬉しくないよ!!そんな二つ名!!それにその口調なによ!?」
そういえばむこうで読んだ異世界転生モノでそんな技を使う主人公居たなぁ……
もっともコッチは”異世界来てからずっと本気出してないと、泳いでるマグロ並にマジ死んじゃう件!”
「でも奴らの足元を沼地にするってのは良いアイデアだね!よし!やってみる!!」
出来るのかよ!?
私に手を牽かれ走りながらリーテシアが、後ろを向きぶつぶつと魔法の詠唱らしきものを唱えると、坑道のあちらこちらから水が湧き出し、たしかに連中の足元を泥沼化しだした。
おお!これは凄い!!っとその時は思ったのだが……
「オイオイちょっと待って。」
「なに?」
「ちょっちょっと吹き出して来る水!多過ぎやでは!?」
なんと流れ出して来た水は、大量の濁流となって、よりによって私達を追い掛けて来る!!
「しまったぁああ!この地下坑道、なまじっか地下水が豊富だから、水の精霊の力も強いんだっけぇえええ!!ガポッ」
加減というものを知らんのかコイツは!!
遂には濁流に追い付かれ、私達は坑道内を下へ下へと押し流され続ける。
水の量は一向に引くどころか、まるで増加の一途をたどり続けるようで、もはや地面まで足も届かず、ひたすら坑道内を高速で流されてるようだ。
時折、流されてる坑道の天井を、地上の光のようなものが、高速で通り過ぎてる。
「これ多分まずいことになっちゃったよ!」
「これ以上にまずい事なんてあるんかい!?」
「時折通り過ぎる地上の光は『地下水路』の取水口だよ!私たち廃鉱最下層を通ってる『地下水路』まで流されちゃったんだよ!水路の長さはどれだけ続いてるか判らない程長いし、流され続けた先に上り口が存在するのかも判らないんだよ!!」
「なんだってぇええええ!?」
「もしかしたらそのまんま海まで流されちゃうかも!?」
ぎぇえええ!?
たしかにそれはマズい!
いまはまだ水面と天井との間に、隙間あるから水面からさえ顔を出せれば息継ぎ出来るが、この先隙間があるとは限らない。
そうとなれば海まで窒息し流され身元不明な水死体3つの出来上がりだ!
そうなる前に生存チャンスを掴むしか無い!!
流される先に再び地上の光が視えてきた!
まずは”第一”のチャンス!!
私は一度、自ら深くまで潜り、ほぼ真上の水面を通り過ぎようとしている地上の光に向かって、浮力も推進力に変え、『自称756歳エルフ』の脇を掴んで光に向かって投げつけた!
バシャァアア!
「あれぇえええええ!」
水面から投げ出されたリーテシアは、そのまま水路の取水口の壁面に、顔面を強打しながらも張り付く事が出来た。
悪いが後は自分で這い上がるなり、なんとかするだろう!(希望的観測)
これで私をことごとくバッドな方向に導いてくれた、チンチクリンな方のエルフは引き剥がす事が出来た。
後は次の取水口の縦穴が現れた時は、今度こそバッドフラグ無しで、私達も縦穴へ取り付く事がきっと出来る筈!!
さあ来い!”第二”のチャンス!!
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
何時まで経っても、”第二”のチャンスは現れなかった……。
そのうち、冷たい水に揺られているうちに段々と身体が冷えてきた……
そして私は……再び昏い底に意識を沈ませていったのだ……。




