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前編


 ――――――――――――そう、全ては、計画通りのはずだった。


「おまえとの婚約は破棄だ、オリヴィア。理由は、言わずともわかっているだろうな?」


 王太子エドムントの宣告に、周囲は水を打ったように静まり返った。

 舞踏会の参加者たちの視線が、吸い寄せられるように一点に集中していく。


 そこに佇んでいたのは炎のような赤い髪をした、美人だが気の強そうな令嬢だ。

 公爵令嬢オリヴィア。

 彼女と相対する形で、王太子エドムントとその取り巻きが、険しい表情で立っていた。

 親の仇でも見るように睨みつけてくる彼らに、オリヴィアは優雅な笑みを返す。

 

「理由? それはつまり、エドムント殿下が王族の責務より、私情を優先なさるということでしょう?」

「無礼だぞ!! 口を慎め!!」


 怒鳴りつけてきたのは、王太子の横にいた金髪の美青年だ。

 将軍の息子であるオルトは、オリヴィアへの敵意を隠す気も無いようだった。

 彼以外にも、天才魔術師でありオリヴィアの幼馴染でもあるアスレイといった豪華な顔ぶれが、王太子の横に立っている。


 取り巻きの中心、王太子の腕の中には、小さく震える可憐な令嬢の姿があった。

 桃色の髪をした、繊細かつ愛らしく整った顔立ちの彼女は、子爵令嬢のチェルシーだ。


 この場の誰よりも王太子に密着したチェルシーの姿に、王太子の婚約者であるオリヴィアは乾いた視線を送った。


「私、何か間違ったことを口にしましたか? 私という婚約者がある身で、堂々と別の女性を侍らせるなど、私利私欲に塗れた非礼な行いだと思いませんこと?」

「俺の宣告を聞いていなかったのか? オリヴィア、おまえはもう俺の婚約者でもなんでもない、ただの薄汚い女だ」


 王太子の罵倒に、事の成り行きを見守っていた観客たちがどよめいた。

 にわかに騒がしくなる周囲からチェルシーを守るように、王太子が強くその身を抱き寄せた。


「今日この日をもって、おまえとの婚約は破棄させてもらおう。チェルシーに嫉妬し嫌がらせを行ったおまえに、王太子の婚約者である資格は無いと知れ!!」

「それで私の代わりに、チェルシーを婚約者に据えるということですか? 彼女は子爵令嬢ですわよ?」

「黙れ! 身分で人を差別する浅ましいおまえに、王太子である俺の前で口を開く権利は無い!!」


 叩きつけるように叫ぶ王太子に、オリヴィアは冷ややかな目を向ける。

 身分で人を差別するなと言った直後に、王太子の位を振りかざす命令を口にしては、まるで説得力が無いのではないだろうか?


 ここまで迂闊な人だったなんて、と。

 オリヴィアは王太子と出会った日のことを思い出した。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「初めまして、エドムント殿下。殿下の婚約者となった、オルドナ公爵家のオリヴィアです」


 9歳の時に王太子と初めて顔を合わせた時から、オリヴィアとの婚約は結ばれていた。

 政略結婚だから、それも当然のことだった。

 恋と言った感情はまだわからなかったけれど、婚約者として、王太子に尽くしていかねばと思ったのを覚えている。


「あぁ、よろしく頼む。俺の後ろにいるのは、乳兄弟のアスレイだ。引っ込み思案な奴だが、俺と一緒にいることが多いから、仲良くしてやってくれ」

「ア、アスレイです。よろしくお願いします…………」


 消え入りそうな声を出したのは、黒髪の小柄な少年だ。

 まばゆい金髪のエドムントの陰に、隠れるようにして体を小さくしていた。


「はい。こちらこそお願いいたします。共に殿下を支える者として、力を合わせていきましょうね?」

 

 笑って挨拶を返すと、アスレイが赤くなり顔をうつむけた。


 オリヴィアの言葉通り、その後も三人は、定期的な交流を続けることになる。 

 最初は弱気だったアスレイも、成長するにつれ背筋が伸び、寡黙だが落ち着いた青年になった。

 魔術師としての才能も開花し、その美しく整った顔立ちは令嬢たちの噂の的になっている。


 そんなアスレイとは反対に、王太子の変化は歓迎できるものだけではなかった。

 気が強い彼は、王太子という位を窮屈に感じていたようで、親に用意された婚約者であるオリヴィアにも、不満を表すようになったのである。 

 

 オリヴィアだってもちろん、ただ傍観していたわけでは無かった。

 王太子の仕事を助け重圧を和らげられるよう、お妃修行に打ち込んだ。

 幼馴染であるアスレイとも協力し、少しでも王太子の力になりたいと努力してきたのだが―――――――――


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