豹変
「おお、こりゃ中々の規模だなぁ」
フレト藩王国の簒奪を企むツクグに対抗して、大臣のヒョウさんが結集させた反ツクグ派陣営の面々が、ヒョウさんの別邸にて一堂に会していた。
俺とサキが直接説得した人以上に、多くの人でごった返している。中々に壮観な眺めだ。
「これはすごいご馳走なのじゃ!」
ウィンディはそんな周囲には気も止めず、一心不乱にバイキング形式の食事を堪能している。
両手の皿の上に料理を山と抱えて、大口を開けて格闘しているのだった。
まぁ、こいつは放っておこう。あまり関係者と思われたくないし。
「おお、アルベルト殿。今日はいつもの男の姿なのだな」
背後から気軽に声をかけられる。声の主は最近よく会うアザミさんだった。
アザミさんはいつもの忍者装束から、背中を大胆に大きく開いた紫を基調としたシックなドレスを着ており、とってもセクシーな感じだ。
「アザミさん、お疲れさま。その格好凄く似合っているよ」
俺がそう褒めてやると、アザミさんの白い頬に赤みが差した。
「ば、バカ、年上をからかうもんじゃない」
「本気なんだけどなぁ……あ、そう言えばサキの準備の方はどうなのかな? 由緒ある伝統装束を着るとかで部屋から追い出されちゃったんだよね」
サキが「私から離れるなんて、護衛失格です!」とか言っていたが、あれだけ女性に囲まれている中で、流石に男一人はしんどい。
大体、サキの強大な魔力を考えたならば、普通の刺客なんて瞬殺だろうが。
「おお、アルベルト殿。よく来てくれた!」
「あ、ヒョウさん、お疲れさんです」
今回のイベントの立役者であるヒョウさんだ。色々な人に挨拶をしているな。
まぁ、実際この人が反ツクグ派陣営の旗頭みたいなもんだし、知名度は随一だろう。
「アルベルト殿、本当に感謝する。君達のこれまでの尽力が無ければ、今日のように反ツクグ派の面々が一堂に集められるような機会はなかったと思うよ」
「いやぁ、俺達の努力なんてほんの些細なもんですから」
普段あまり人に褒められていないため、背中がこそばゆい。報酬も結構貰ってしまったし、俺はヒョウさんに足を向けて眠れないぜ。
「ふー。これで俺の仕事は大体終わったかな」
これだけの規模の反ツクグ派陣営がいるんだ。早々にツクグの野望が成就するとは思えない。
これでフレトの歴史は変わる。今回は裏方に徹したため、血を流さずに済んだことを俺は密かに安堵していた。
───誰かの掌の上で動いて、本当に歴史が変わると思うのかい?
「え?」
今の声、誰だ?
「皆様、お待たせしました! ククリ姫の登場です!」
俺は司会の声で現実に引き戻される。
ククリ姫。それが偽りのサキの名前であり、フレト藩王の喪われた娘の名前だ。
ワァァァァッ!!
部屋中大歓声だ。だが、きらびやかに着飾ったサキの姿を見た瞬間、高揚していた俺の心は、逆に冷え切ったものとなった。
サキの衣装に目が釘付けになる。
黒と白を基調とした清楚なフレト流のドレス。丁寧に編み込まれた豪奢な長髪。アクセントとして飾り付けたれたきらびやかな宝飾類。
しかし俺の視線はある一つの部分にだけ注がれる。
サキのつけている黒水晶のような美しい指輪。
俺はこの指輪を知っている。
それは呪われたアイテム。
ゲーム時代にも登場したアイテムであり、名を”戒めの指輪”と呼ばれる、魔力封じの魔道具だった。
「サキ! その指輪をすぐに外せぇぇぇぇぇッ!!」
「───もう、遅い」
キィィィィィン……
黒水晶から伸びる黒い触手のような影が、サキを包み込む。
「え、えぇ……? ……きゃあぁぁぁぁッ!!」
そしてそれと同時に、ヒョウさんはサキに何かを投げつける。
「あ……ご、ご主───」
一瞬でサキの周囲に見覚えのある魔法陣が展開され、サキの姿がかき消えていく。
シュバッ!
間違いない。ヒョウさん、いやヒョウは、転移石をサキに投げつけやがった。
魔力がほとんど使えないサキを転移石で他所に飛ばす。目的は明確だ。
「ヒョウ、テメェ。始めからサキを拉致るつもりだったんだな……」
俺はヒョウを睨みつける。ヒョウは今まで見せなかった顔を俺に見せてきた。そう、嘲笑の顔だ。
「ひょ、ヒョウ様……? い、一体何を……?」
周囲はザワついている。アザミさんも状況についていけず困惑顔だ。
つまりヒョウは───
ドンッ!!
四方八方のドアから数多の兵士がなだれ込んでくる。
やはりそうか。こいつ始めからこれが目的だったんだな。
「ふ、ふふふ……あはは……アーッハッハ!! やったぞ! 全て上手くいった!!」
「ひょ、ヒョウ様……? なぜ、兵士がこのような場所に……?」
戸惑うアザミさんはそれでも健気にヒョウを問いただしている。
答えはもう分かっているだろうに。
「知れたことよ、アザミ。これより、ツクグ様に逆らった賊徒共を、一人残らず捕えるためよッ!」
今までの理性的な面差しをかなぐり捨てて、下卑た笑みを浮かべるヒョウ。
こいつは始めから、反ツクグ派を一網打尽にするために、その勢力を一箇所に集める事が狙いだったんだな。
「いやぁ、こんなに上手くいくとは思わなかったよ! ツクグ様に歯向かう鬱陶しいクズ共を一掃できるなんて、私は本当に幸せ者だ!」
「貴様、我々を今まで謀っていたのか!」
状況を理解したアザミさんが、憤怒の表情でヒョウを睨みつける。
「ふん、騙される方が悪いわ」
「この下郎ォォォォッ!!」
怒りのアザミさんが、刃をヒョウに向ける。だが、ヒョウの周りにはすでに護衛が固めており、アザミさんは多勢に無勢で手も足もでず、逆に早々に取り押さえられてしまう。
「おい、ヒョウ」
俺はヒョウに声をかける。
「なんだ、小僧」
心底バカにした顔で俺を見るヒョウ。
「サキをどこにやった?」
「ふん、そんなこと儂が知るか。全てはツクグ様の思し召しよ。全ての計画はツクグ様だけが知っておれば良いのよ」
「つまりお前に聞くだけ無駄なのか。……だったらツクグに直接聞きに行くとするか」
俺は踵を返し、外に出ていこうとする。
そしてそんな俺の行く手を塞ぐように、兵士が一人近づいてくる。
「お前はバカか? お前はミモミケとフレイン王国が戦争をするための生贄になってもらうぞ。
ボンボンの貴族とは言え、あのサルト家のガキだからな。お前が死ねば、良い開戦理由になるわい!」
「そうか。じゃあこちらも遠慮はいらないな」
俺は無造作に近くにいた兵士に近づくと、掌底を腹に当てる。
ドンッ!
火薬が破裂したような炸薬音を響かせて、一瞬で兵士が遠くに吹っ飛んでいく。
「「「え?」」」
壁にめり込んで意識を手放した兵士を見て、周囲の者がみな呆気にとられている。
……ダメだな。感情のコントロールが、上手く利かない。
「……俺は今からツクグのところに直接乗り込むつもりだ。あと俺は今、感情のコントロールができない。死にたくなかったら俺に近づくんじゃねぇよ」
激昂しそうになる感情を抑え、俺は平坦な声で周囲に告げる。
ムダな犠牲は好むところじゃないしな。
「な、何を言っておる! たかが学生一人で何ができるものか! ……ええい兵士ども、さっさとそいつを殺せいッ!!」
俺の意外な強さに及び腰だったヒョウは、数を頼みに俺を殺すよう周囲の兵士に命令する。
「「「う……うわぁぁぁぁぁッ!!」」」
兵士達は破れかぶれに俺へと殺到してくる。俺はため息を一つつくと、機械的に対応していく。
兵士の数は圧倒的だったが所詮は雑兵の群れ。
以前戦った共和国の特殊部隊員レベルならいざ知らず、こんな素人レベルの敵なんて何人いても俺の脅威にはなり得ない。
バキッ! ドカッ! ドゴンッ!
ある者は掌底で吹き飛ばされ、ある者は剣ごと腕を折られ、ある者は盾ごと顔面を殴打される。
「ば、化け物だぁッ! に、逃げろぉぉぉぉッ!!」
兵士の一角が潰乱したら、あとは総崩れだった。
俺を取り囲んでいた兵士達は、我先にと出口から逃げ出していく。何人かは恐慌を起こした仲間の兵士に踏み潰され、大怪我を負っているようだった。
そしてぽつんと取り残されるヒョウ。
何が起きているのか、理解できていない様子だった。
俺は怯えて動けないヒョウの首根っこを掴み、宙釣りにする。
「……もう一度聞く。サキは、どこだ?」
「……す、すいません。ほ、本当に知らないんです! ゆ、赦してください!」
急に怯えて涙を流して助けを懇願するヒョウを見て、気勢が削がれた。
「チッ」
俺はそのままヒョウを壁へと叩きつける。手足が多少変な方向に曲がり、泡を吹いて気絶しているようだが、まぁ、生きてはいるだろう。
「アザミさん、ここの後始末を頼みます」
一連の出来事に追いついていないアザミさんは、一瞬ぼぉーっとした感じだったが、すぐにハッと意識を取り戻し、首をブンブンと勢いよく縦に振る。
「ウィンディ、行くぞ」
「ガッテンじゃ」
俺は”飛行”の魔法を使い、まずは手近にあったツクグ派の拠点へと殴り込みをかけに行った。
ヒョウ→豹→狩猟豹→チーター→cheater→騙し屋という連想ゲームでした。
話変わりますが、けも○みち良いですよね。今期のイチオシアニメです。俺もああいった話を作りたいわ。




