アルベルトくん14歳。サル・ロディアス遺跡(3)
まさかのジャンル間違え。
ハイファンタジーのつもりで投稿していたらまさかの異世界恋愛でした。
まぁ、あながち間違ってはいないんですが。
12層は基本的に静かだ。
何故ならここまで探索に降りてこられる冒険者は、おそらく冒険者評価で一等級にあたる金等級以上が必要だからだ。
それくらいここは探索難易度が高い。
しかしその金等級冒険者も恐らくいないだろう。
そもそも金等級冒険者はあまり探索活動をしない。
彼らへの依頼は大抵予約待ちの状況であり、殆どの金等級の奴らは最大手の商店や国家機関から何かしらの重要なミッションを帯びて活動していることが多い(という設定があった)からだ。
だから聞こえてくる音は必然俺達の周辺に集中する。
「”極氷弾丸”乱れ撃ち!……あ、すみませんご主人様。一匹討ち漏らしちゃいましたっ!」
迂闊にも罠を作動させてしまった俺達を排除しようと続々と現れるガーディアンゴーレムを、氷の弾丸でサクサクと粉々にしていくサキ。
この無慈悲な光景を見ていると、本当にここが難関で知られるサル・ロディアス遺跡なのかとちょっとした疑問が湧いてくる。
俺はとりあえず先日手に入れた日本刀もどきを振り上げると、その撃ち漏らしたゴーレムへと叩きつける。
通常、ゴーレムには斬撃武器は効果が発揮し難いのだが、持っているだけで鬼のような身体強化魔法が付与される魔剣のお陰で、ズンバラリンとゴーレムを両断することができた。
「いやぁその剣凄いですねぇ。硬いゴーレムが一刀両断じゃないですか。
さっきのチンピラ達も簡単に無力化されましたし、本当に体術や剣技ではご主人様に敵う気がしませんね」
汗一つかかずに大量のゴーレムを無力化した後、サキはニコニコと俺におべっかを言い始めた。
だが俺には分かる。これはこいつなりの俺への阿りだ。
何故ならば苦労して長く魔法の勉強を続けてきた結果、魔法の制御技術自体はこちらが圧倒的に上回っているにもかかわらず、才能の違いによるその魔法強度の差はすでに覆せないレベルで隔絶したものとなってしまっていたからだった。
こちらは剣技や魔法技術を駆使して”柔よく剛制す”を狙うが、このまま行くと確実にサキの魔法強度を背景とした”剛よく柔を断つ”という無慈悲な現実が俺を打ちのめすことだろう。
こいつはこれからも俺を護っていられると内心喜んでいるっぽいんだが、ゲームの結末を知っている俺から言わせると、常に対処できない地雷が横に置いてある気分になり憂鬱だ。
まぁ才能の差は最初から分かっていたことだ。俺の目標はこいつに勝つことではなく、あくまでも生き残ること。
そこを履き違えてはいけない。
そんなわけで気を取り直してめぼしいお宝がないかゴソゴソ遺跡を漁りながら、俺達は奧へ奧へと進むのだった。
─────
「ん?」
暫く何事も無く歩みを進めていた時、基本的に音があまり聞こえてこない12層の奥から、なにやらあまり聞き慣れない音が聞こえてきた。
「何でしょうこの音? 剣戟とか破砕音でもないような……」
物騒な単語しか出てこないサキは置いといて、俺は耳をそばだてる。
ゴォォォォォッ……ゴォォォォォッ……
予想以上に早い速度で段々と音の大きさが膨らんでくることに嫌な想像が膨らんでくる。
「この音……水?」
そう気がついたときには目の前には通路一杯の水の奔流が迫ってきていた。
「サキッ!水呼吸を!」
「は、はいっ!”水呼吸”」
咄嗟に”水呼吸”の魔法を掛けて貰い、俺はサキ共々水の奔流に呑み込まれた。
上下感覚が分からなくなるほどの強い流れに身を任せながら、ひたすらに耐える。
どれくらい長い間流されていたのだろうか。意識を取り戻した俺はとりあえず”光球”の魔法を掛けて周囲を眺めてみた。
既に水は流れた後のようで、身体は水浸しではあったもののもう流水に流される心配は無さそうだった。
俺の隣では意識を失ったままのサキが横たわっていた。
だが胸は上下に動いているしその表情には穏やかなものがあったのでとりあえず心配はなさそうだ。
そして更にその周囲を見てみると他にも何人か人影があったがこちらはぴくりとも動いていなかった。
装備はそれなりに立派なので多分金等級の冒険者だったのだろう。
俺はその冒険者らしき連中の素性を確認しようと、立ち上がって近づこうとした。
「動かないで」
その時、突然に闇の向こうから硬い女の声が聞こえてきた。
俺は両手を上に挙げながらゆっくりと振り返る。
魔法の灯りに照らされた赤い髪の眼鏡の女は、髪から滴る水滴を拭おうともせずにキツい眼差しでこちらに片手を突きつけている。
「私は魔法使いよ。もし何かおかしな動きをしたらこれで真っ黒の炭にしてあげるから」
こちらが何もしていないにもかかわらず、物騒な言葉を次々とぶつけてくる女。
「あなた達……こんな階層まで侵入しているって事は腕利きの冒険者なのかしら?
だったら緊急で私のクエストを受けて頂戴。内容は私の護衛をしながら一緒にある部屋まで行ってほしいの。
成功報酬は金貨で10枚即金。どう?」
悪くない条件だった。金貨10枚もあれば贅沢をしなければ1年間は楽に暮らせる金額だ。
それになんか普通に冒険者っぽい依頼だ。滾る。
「俺の相棒にも相談してみるが、俺の答えはとりあえずイエスだ。ところでまだ依頼主の名前を聞いてない。あんたの名前は?」
「ん……私の名前は……そう、シアよ。よろしく」
俺への返答から考えるとちょっと偽名っぽい気もするが、まぁ金を払ってくれるならどっちでもいい。
俺が依頼を受けてくれそうなので、女はその表情を最初の頃に較べれば大分柔らかくしていた。
しかしこいつの顔どっかで見たことある気がするんだよな?
うーん、分からん。
とりあえず俺は、サキを叩き起こして依頼を了承させると(一悶着あったが割愛)、やはり死んでいた金等級冒険者の皆さん(元々の彼女の護衛だったらしい)から持ち運べそうな代物を回収して(お嬢さんがすげーイヤそうな顔をしていた)、俺達3人は目的の部屋を目指して歩き始めた。




