ナノハ・ミコヤ
祝。50万PV達成!皆さんありがとうございます。
「おぉっ!ここがフレトの首都『ナノハ・ミコヤ』ですか!」
村から移動すること数日。俺達は江戸時代の日本文化とファンタジーをごちゃまぜにしたような大きな街に到着していた。
今、俺の目の前で大声を出して田舎者感丸出しではしゃいでいるのは、俺達を監視するためについてきたオトハだ。
「……なぁ、オトハ。もうそろそろ監視は要らないんじゃないかな?」
「何を言っているんですかアルベルトさん!折角このような大きな街まで来れたのに、どうしてすぐにあのような何もない田舎におめおめと帰れと言うのですか。
絶対にイヤです。まだまだ私はあなた方の監視を続けますからね!」
両手に団子の串を持って叫ぶオトハ。
仮面があるから完全に感情が読み取れるわけではないが、絶対にオトハが俺達についてきた目的は、監視じゃなくて物見遊山だと思う。
旅の途中でなんとなしにオトハの事を聞いてみたら、数年前に亡くなった薬師の師匠に育てられた孤児とのことだ。
乳児の頃に森に捨てられていたとの事で、年齢はおそらく俺達より1、2歳若い。
まぁ、ある程度仲良くなってしまったので、今更監視が邪魔だと追い出すのもどうかと思うし、飽きるまで付き合ってやることにしよう。
「アルベルトさん、ここは凄いですね。私、こんなに多くの獣人さん達が暮らしているところを初めて見ました!」
リーゼは街の様子を熱心にキョロキョロと眺めている。驚きと好奇心でいっぱいみたいだ。
「ミモミケは大陸で唯一、獣人の方が人間よりも比率が高い国だからな。
だから亜人種を奴隷とする法律を持つフレイン王国出身者に対する風当たりは相当強い。俺達はあくまでもヴェルサリア魔法学園出身の冒険者という事にしておいた方が無難だ」
「わ、分かりました!」
そんなわけで、今の俺達は華美な服装を避けて冒険者風の格好をしていた。
そしてその格好は意外とサマになっている。
俺やサキは実際に長く冒険者に身をやつしていたし、フェリシアも短いながらも異世界で充分に冒険者としての経験を積んでいる。
クリスは田舎出身なので、特段質素な格好でも違和感はないし、リーゼは大きな商家出身とはいえ、かなり現場で鍛えた商人でもあるので冒険者に身をやつすのに特段不都合はなかった。
「いやぁ、まさか私がみんなの足を引っ張る事になるとは思うてなかったなぁ」
そんなメンバーの中で唯一、貴族的な部分を隠せなかったのがメアリーだった。
考えてもみればサキとフェリシアは、そのシナリオの関係上、主な敵となるアルベルトとの接点が多かったため、何年も前から2人は俺に影響されて通常ではありえないような経験ができていたのだが、学園に入る前では俺との関係が希薄なリーゼとメアリーは、そういった機会が中々なかったのだ。
よくよく考えれば2学期からはリーゼ、メアリールートの主な敵である"悪役令嬢"も入学してくる予定のため、あまりこの2人に俺との接点を増やす事が、今後のシナリオ的に良い事なのか悪い事なのか俺には判断がつかなかった。
まぁ、色々な経験を積ませることと、クリスとの親密度を上げることは無駄にはならないと思うので、そこらへんは出たとこ勝負だな。
……ぶっちゃけ、悪役令嬢の動きが俺のシナリオの方の死亡フラグに直結する部分があるため、なるべく関わりたくないというのが本音ではあるのだが、こればかりは神ならぬ俺にはどうしようもできない。
「ご主人様、何難しそうな顔をしているのですか?」
「おい、サキ、止めろ。ミモミケで俺の事をご主人様なんて呼ぶんじゃない」
亜人であるサキが、俺の事をご主人様と呼んでいる。フレイン王国内ならばともかく、このミモミケでそれを言うのはリスクが高過ぎるぞ。
「……え?では、何と呼べば……あ、それでは旦那様にしましょうか?」
てれてれと頬に手を添えて赤くなるサキ。一見するととても可愛いらしいのだが、こいつの俺にベタベタする行動は獣人至上主義のミモミケでは大層危険だし、やっぱり俺の死亡フラグなんじゃないかと疑ってしまう。
「普通にアルベルトでいい。俺達は対等な学園出身の冒険者、という設定だからな」
「えぇ〜」
結局俺達の設定は、物見遊山の貴族の令嬢であるメアリーを護衛する冒険者パーティーという事で落ち着いたのだった。
─────
「アルベルトくん、あれなんだと思う?」
隠密達との合流場所に向かって街を歩いていた時、クリスが何かに気づいて立ち止まった。
クリスが指差す方向を見てみると、人だかりができていた。
「んー、怒声が聞こえてくるから何かしらの揉め事っぽいけどな」
「ちょっと気になるから行ってみよう!」
「あっ!」
俺が静止する暇もなく、はやぶさのようにあっという間に人混みへと突撃していくクリス。
なんだろうこの行動力。これが主人公補正というヤツなのだろうか。
「いてっ!このアマ!何しやがるッ!!」
おぉ、早速トラブル発生。
やはりゲーム主人公様は一味違うぜ。
ため息を一つつき、俺もクリスの後を追って人混みの中へと突撃するのだった。




