旅の道連れ
久しぶりに一度全ボツしてしまった。
でもなんかあまりこなれてない感じで……気に入らなかったら修正するかもしれません。
「……思えば遠くに来たもんだ」
「全部ご主人様が悪いんですけどね」
「でも本当に、ここはどこなんかねぇ?」
「メアリーさん、どさくさ紛れにその大きな脂肪の塊を私の顔に押し付けないでください。とっても不快です!」
「リーゼ、この非常時に遊んでいてはダメよ」
「フェリシアさん、リーゼさんは絶対に遊んでいないと思うんだけどなぁ……」
俺達が今いる場所は、ミモミケ獣人帝国内の端っこにある、名前も分からない辺境の村だった。
もっと具体的に言うと、我がフレイン王国サルト伯爵領の旧イラト皇国地域に隣接している、フレト藩王国の領内のどこかだ。
ここで少しフレト藩王国について説明しよう。
ミモミケ獣人帝国は、いくつかの藩王国の連合からなる獣人族を中心とした国家だ。
各藩王国にはそれぞれの太守である藩王が君臨し、地域の政治と軍事の実権を握っている。
今いるフレト藩王国もその1つであり、数百年前にイラトから分離独立した過去があるイラト皇国の、言うなれば兄弟国だった。
「やっぱりフレトはあんまりイラトと変わらない感じだなぁ」
「はぁ!?ちょっといくらご主人様でもその発言は聞き捨てなりませんねぇ。
フレトのような料理の味付けが出鱈目な国なんかと、繊細な私のイラトを一緒にしてほしくありませんよ!」
「あ〜、さいですか」
普段はあまりイラトの話題に触れないサキが密かにキレていた。地元の人ってちょっとした違いに敏感になるよね。
「でも、本当にびっくりね。まさかサキの亡くなった母親が、フレト藩王の妹だったなんて」
「遺憾ながら、過去にはイラトの皇室とフレトの王族との間には定期的な政略結婚があったのですよ。
まぁ、フレトは嫌いですが、お母さまは大変に美しく、とても優しい人でした」
サキが在りし日の母親を思ってか、しんみりとしている。
「サキさん、私びっくりだよ!サキさんが元はお姫様だったなんて、本当にびっくり!
……でも、どうしてその事を私に教えてくれなかったの?」
「私が生まれてきた時にはすでにどうでもいい話でしたので、話す必要がないと思ってました。
それに私があなたにこの話をする必要性、何かあります?」
「うわ、サキさんって私にちょっと冷たくない?」
「この鈍感むすめ、やっと気がついたのですか!」
サキとクリスが仲良さそうにじゃれ合っている。
ああ、今日も平和だな。
「……アルベルトさん。そろそろ現実逃避してないで目の前の問題を解決しましょうよ」
「リーゼ。人がせっかく不都合な記憶を忘却しようと努力していたのに、どうして邪魔をするんだ」
「それでは何の問題も解決しませんから。この目の前にいる方々も、それでは納得してくれそうもありませんしね」
そうなのだ。今、俺達はフレト藩王国の村民達に取り囲まれて、遠巻きに鍬や鋤を突きつけられている。
一体どうしてこんなことになってしまったのか。
それを説明するためには、話を少し遡らなければならない。
─────
「隠密のお前達と行動した場合、お前達の身が露呈するリスクがある。
俺達は独自のルートでフレトに密入国するからあまり心配すんな」
こう言って俺達は、黒装束の連中と一時的に別れ、藩王国の首都で落ち合う事を約束した。
黒装束の連中の正体は、フレト藩王国の御庭番であり、進み出てきたくノ一は、自らをアザミと名乗った。
なんでも彼女達の上司が現在のフレトの現状を危惧しており、その打開案として俺 (というよりもサキ)に協力を求めてきたのだ。
断る事は簡単だった。しかし、転生前のゲーム知識から、この後に起こるフレトの惨状を知る俺としては、ゲームでは『失敗した』事になっている彼らのクーデターに関われるチャンスを活かし、起こりうる悲劇を事前に回避できるチャンスがあるのではないかと考えたわけだ。
とりあえず依頼を受けるかどうかは、サキがどの程度のリスクを負うことになるか分からないので一旦保留とし、改めて黒装束連中を俺達に遣わしたヤツと直接会うために、俺達はフレトに密入国する事となった。
今回の仕事は俺とサキで事足りるので、みんなにはサルト家で待っているよう話をしたら、みんな連れてけと反対された。
皆さん、ちょっと物見遊山すぎない?
まぁ、実際に彼等の実力ならば、そうそう足手まといにはならないだろうと思うので、そこには目をつぶった。
彼等にも経験を積んでもらい、行く行くはゲームのラスボスとかと戦ってもらう必要があるわけだしな。
「さて、ご主人様。大見得切ったのはよろしいのですが、どうやってフレト藩王国に侵入しますか?
見張りを含めた国境警備の連中を皆殺しにして、一時的に敵の哨戒網を無力化するのが一番リスクが無くて良いんじゃないかと私は思うんですが、ご主人様のご意見を頂戴したいと思います」
どのようにしてフレトに入国しようかとサキに少し相談をしたら、サキは淡々と上記のような提案を俺に伝えてきた。心なしか、ドヤ顔だ。
「ねぇ、なんでそんな過激な意見が推奨なの?却下だ却下。俺達は高空を飛んでフレトの奥深くに直接空中機動するぞ」
「あ、魔法ですか。それだと────」
俺はサキの言い分を無視して、いつもと同じように、”高速飛行”の魔法を人数分かけて移動を開始する。
「ん、何だ!?魔法のコントロールが一瞬離れ───?」
その刹那、魔法が暴走し俺達は中途半端な上空で”高速飛行”がキャンセルされてしまう。
「────という感じで、リヴァイアサンの影響で、フレトでは長時間維持する魔法が唱えにくいんですよ」
「言うのおせーっ!!」
空に投げ出されながら、今更ながら解説をするサキ。
「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」
俺達は重力の法則に従って、自由落下していく。
「間に合えッ!”重力中和"!!」
俺の魔法が間一髪間に合い、全員の落下速度が緩やかになる。
あとはパラシュートのようにふわりふわりと空を漂いながら、ゆっくりと地面に降着した。
そしてそんな空から降りてきた俺達を、見知らぬフレトの村の方々が、鍬や鋤を持って出迎えてくれた訳だ。
「貴様ら、空から現れやがって。何者だッ!」
ここは穏便に事を運ぼう。
「えーと、俺達は────」
「あ、この女の顔、昔見た覚えがあるぞ!確か、イラトの皇女様だ!元はフレトの藩王様の妹だったはず!
昔と全く変わっていねぇな。妖怪の類に間違いねぇや!」
どうやらサキと、彼女の母親を勘違いしているみたいだ。つーか、イラトの皇族嫌われすぎだろ。
「待て待て。俺達は別にあんたらと争いに来たわけじゃない。たまたま、ここに不時着しただけなんだ」
「そんな言い分、信じられるか!ここはイラトの民の隠れ里だ。ここの存在はイラトにもフレトにも秘密。おめぇさん達をただで帰らせる訳にはいかねぇぞ!」
────という顛末があり、冒頭に至る訳だ。
「しかし、彼等とずっと対峙して時間を潰すのも、ちょっと考えものじゃないかしら?」
フェリシアが言うのももっともだ。俺達は先を急ぐ身だ。だけど、うーん、困ったな。村民達を無力化するのは簡単だけど、俺達が事の元凶なんだからあまり事を大きくしたくはないんだよなぁ。
俺がうんうん悩んでいたそんな時、取り囲んでいた群衆の中から、1人の女性が俺達の前に進み出てきた。
「旅の方でしょうか。私はこの村の薬師であるオトハと申します」
フレトの民らしく、サキのような小さな獣耳がチャーミングな小柄な少女のように思えた。なぜ確定できないかと言えば、その少女は顔の上半分に白い仮面を付けていたからだ。
彼女はどうやら俺の疑問に気づいたらしい。
「ああ、この仮面ですか。何かの魔法道具みたいで顔から外れないんですよ。物心つく頃から付いているので、私はあまり気にしていませんが」
流石はファンタジー。訳のわからない魔法道具があるな。
「……さて、村の皆さん。私の見立てでは彼らには特段悪い精霊はついていないように感じられます。
もし彼らが信用ができないのでしたら、私が責任を持って彼らと暫く行動を共にして、彼らが信頼に足るのかどうか見極めようかと思うのですが如何でしょう?」
くるりと村の人々の方を向いて説得を開始するオトハ嬢。
「……まぁ、薬師のあんたがそこまでしてくれるんなら、信用するよ。でもちゃんと監視してくれよ!」
「はい。皆さんありがとうございます。
……と、言うわけで暫く皆さんと行動させていただこうかと思うのですが、よろしいですね?」
くるりと俺達の方を向いたオトハ嬢が、確認を取ってくる。
その瞬間、仲間のみんなが一斉に俺の方を見る。胡散臭い少女ではあったが、ここで拗れると折角のお膳立てが無駄になってしまう。
「……分かった。君の意見に従おう。暫くよろしく頼む」
「期限がどれくらいになるかは皆さんの心掛け次第だと思いますよ」
そういってオトハと互いに握手をした。
偶然の結果、一時的に新たな旅の道連れができてしまった。
彼女の存在が、今後の展開に大きな影響を与えることになるとも知らずに。




