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夕餉の時間

 台風でえらい目に遭いましたが、命あっての物種だと考え直すようにしました。

 プラス思考が大事!

 お風呂の後は、部屋で夕食だった。

 目の前の大きな台一杯に、様々なイラトの食材が色鮮やかに並んでいる。


「フェリシア、悪いがその横にあるショーユを取ってくれ」


「ショーユって確かこの筒ので良かったかしら?」


「ああ、それで問題ない。リーゼ、もうそれ火が充分に通っているから食べられるぞ」


「あ、本当ですか?ではすいませんが、お先にいただきます」


 俺達は和気藹々(あいあい)とイラトの郷土料理に舌鼓を打っていた。


「……う〜」


「ウィンディちゃん、イラトでは立ちながら食べるのはお行儀が悪いみたいですよぉ〜?」


「メアリー、心配するでない。ワシはすでに立派な"れでぃ"じゃから、どんなスタイルでも行儀良く見えるのじゃよ」


「お前、どこからどう見ても行儀の悪いお子様にしかみえねぇぞ」


 俺はベチャベチャに汚していたウィンディの口元を、ハンカチで拭ってやった。


「うぅぅぅ〜!」


「サキ、うるさい」


「だってだって、私を除け者にしてみんなで美味しそうにご飯を食べているから悪いんです!」


 サキは俺達の食事場所から少し離れた所に正座して、首から木札を下げていた。


 その木札には流麗な文字で『私はお風呂場の垣根を壊して、破廉恥な振る舞いをしました。』と書かれていた。


「見えない所にお前を行かせたら、どうせ黙って何か食べるか悪巧みするだろうが。

 ……それにもう本当はこっそり夕飯食ったんだろ?」


「えっ!……鏡でちゃんとご飯粒が口元についていないかを確認したのに、どうしてご主人様は分かったんですか!?」


 鎌をかけただけなんだが、正解だったらしい。


「……なぁ、サキ。お前本当に俺の奴隷なの?実は自称奴隷で俺をからかって遊んでいるだけなんじゃないの?」


 俺は半ば本気で、ついついサキに聞いてしまった。


「ふっ。私はご主人様の忠実なる下僕(しもべ)ですよ。ですから、ご主人様が誤った道へフラフラしないようにお近くで監視する使命があるのです。

 そんな重責を担う私が、もしもお腹を空かせてしまったら、ご主人様を見守る万全な態勢が組めなくなっちゃうかもしれないじゃないですか!」


「わかったわかった。とりあえずサキ、ステイ」


 凄い目力と勢いでサキの中での正論をこちらにぶつけられてしまい、その勢いに負けてなんとなくなぁなぁにしてしまう俺。


「……アルベルト、ちょっと押しに弱すぎない?」


 フェリシアが半眼でこちらに呟いてくる。分かってはいるんだが、サキに強引に迫られると弱いのだ。


「ふふっ、愛の力ですよ」


「それは違うんじゃないかなぁ」


 横で俺とサキの漫才を見ていたクリスが、小声でツッコミを入れた。


 どうでもいい余談だが、今後のゲーム展開としては、ミモミケ獣人帝国とフレイン王国の政治的な動きによって、このイラト皇国は後に復活するのが既定路線だったりする。


 そしてもしもゲーム主人公がサキシナリオを選んでいた場合、男だったらサキと結婚してイラト皇国の王様になり、女だったらサキの親友としてイラトの宰相になるわけだ。


 俺はちらりとゲーム主人公(クリス)を見る。


「あ〜、この玉子焼き本当に美味しいね!絶妙な焼き加減と固さ、そしてほんのりとした甘み。作った人を尊敬しちゃうな! 

 あ、アルベルトくんもこの玉子焼き食べる?」


「あ、ああ」


「じゃあ、あーん」


 クリスは器用に箸を使って、俺の口元まで玉子焼きを持ってくる。


 俺は何も考えずに、それをパクリ。


「んー、確かに美味いな」


「でしょ!」


 クリスは満面の笑顔だ。

 俺はもぐもぐと玉子焼きを咀嚼し、充分にその出汁を味わう。


 ふと横から強い視線を感じ、おや?と思いつつそちらを見ると、驚愕に固まったサキがこちらを凝視していた。


「く、く、クリスさん!あ、あ、あなたなんて事をしてくれたんですか!」


「え?サキさんどうしたの?」


「どうしたもヘチマもありませんよ!私の将来のお仕事である『あーん』を何さり気なくやっているんですか!

 そしてご主人様!私だとなんとなく警戒する時があるのに、どうしてクリスさんに対してはそんなに無防備なんですか!

 そんなですと、いきなりクリスさんにキスとかされちゃった時に拒めませんよ!」


 サキの言動が支離滅裂過ぎて怖い。

 しかしなぜか隣のクリスが顔を真っ赤にしている。なぜだ?


ーーーーー


 騒がしい夕食が終わり、各自部屋に戻った。

 部屋は、サキとフェリシアとウィンディ組と、リーゼとメアリーとクリス組に分かれており、男である俺は1人部屋だ。


 まぁ、ウィンディはいつでも呼び出せるが、たまには女子会というものに参加してみたいという事で好きにさせている。


 俺の割り当てられた部屋は庭に面しており、縁側から外に出られるようになっていた。


 さてする事もないからいつもの鍛錬でもしておくか。


 俺は上半身裸になって、実家から持ってきた長剣を片手に庭に出る。


 軽い準備体操の後、基本の型を繰り返しなぞる。休憩を入れずに繰り返し繰り返しそれだけを続ける。


 初めはゆっくりと正確に型をなぞる。そしてそれを維持しながら、休むことなく速度を上げていく。

 激しい動きを休みなく続けているため、終いには汗が滝のように流れるようになっていた。


「……まぁ、こんなもんだろ」


 俺は誰に見せるでもなく続けていた修練を取り止め、縁側に置いておいたタオルで汗を拭う。


 そして、ちらりと庭先の方に目を向けた。


「おい。いつまでも人の訓練を覗き見してないで姿を見せたらどうだ?」


 その直後、ガサガサと木をかき分ける音と共に、黒装束に身を包んだ5名の人間が闇夜に姿を表した。


 その中から一人が進み出てくる。背格好や身体つきから女だと分かる。


「失礼した。自分はさる高貴な御方に仕える者だ。アルベルト・ディ・サルト殿とお見受けする」


「ああ、そのアルベルトだ。んで、こんな夜分になんのようだ?」


 俺がそう問いただすと、いきなり目の前の黒装束の女が土下座をしてきた。


「お願いがある。どうかサキ殿と一緒に我が領地の危機を救ってはくれないだろうか!」


「……はい?」


 ただの物見遊山のイラトの旅が、新たな厄介事へと変わった瞬間だった。

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