エピローグ(4)そして夏休みへ
祝20万文字達成!
クリスの家にお邪魔してから数日後。
クラスでは、いよいよ一学期末を締めくくる臨時終業式が始まろうとしていた。
教壇に立つシミラー教授が、微妙な顔を浮かべて話し出す。
「あー、えーと……なんだ。臨時終業式の前に、連絡事項が2つある。
1つ目の連絡事項だが。……クリスティン・ソシュールが、学校を辞める事になった」
シミラー教授の歯切れの悪い言葉を聞いて、どよめくクラスメイト達。クラスにはクリスが居なかったのだ。
「そして、2つ目なんだが……その……実は季節外れではあるが新入生が入ってきた。
……みんなが知っているヤツなんだが……まぁ、その……ええい、説明するのが面倒だ。入ってこい!」
「失礼します!」
教授の合図で、ガラガラと扉が開く。
「「「「ハァァァッッ!!??」」」」
廊下から、藍色のショートの髪が美しい、美少女に見える美少年改め、美少女に見える美少女が、女子の制服を着て入ってきた。
「皆さんはじめまして!クリスタベル・ソシュールです!また、よろしくお願いしますね♪」
クリスの自己紹介で、クラス中が蜂の巣を突いたような大騒ぎになった。
何故、クリスが女性として再入学できたのか。まぁ、簡単に言えば、宰相殿に借りを返してもらっただけなんだが。
流石に命を助けたのだから、これくらいは便宜を図ってもらわないとな。
「クリスきゅんが美少女にクラスチェンジしてる!」「美形の男が嫌いだったから敬遠していたのに、見た目どおりの女だったとは!」「アルベルトの野郎にまた女が加わった!」
クラス中が阿鼻叫喚だ。暫くは興奮が冷めそうもない。
「しかし不思議でござるな〜。クリス氏が女性なら、どうしてあの日はアルベルト氏とクリス氏が一緒のお風呂に入っていたのでござろうか?」
特段声の抑揚もないエドワードの小さな呟きが、なぜかこの喧騒の中、通り良く聞こえてきた。
「「「…………エ、エエェェェェェッッ!!」」」
一瞬の静寂のあと、クラス中にさらなる狂騒が巻き起こる。もう、しっちゃかめっちゃかだ。
ダンッ!
シミラー教授がその拳を教壇の堅い木製の机に打ち付ける。
教室が一気に静かになった。
「お前らいい加減、静かにしろ……
そしてアルベルト、クリス。お前らは、後で生活指導室に来い」
「「あ、ハイ」」
俺とクリスは神妙に頷いた。
ーーーーー
「あはは、すっごく怒られたね!」
「笑い事じゃねーよ!シミラー教授、すっげー怖かったぞ!」
臨時終業式が終わった後、俺とクリスは生活指導室にてシミラー教授にこっぴどく絞られた。
長い叱責を耐えた後、ほうほうの体で、俺達はいつものように屋上へと集まっていた。
時刻はお昼頃。
とてもうららかな陽気だ。
俺はぐるりと屋上の面子を眺める。
今日はいつもよりも若干メンバーが多かった。
いつものサキとフェリシアだけではなく、クリス、リーゼ、メアリーが加わっていたからだ。
「ご主人様が珍しくサルト家の連中と連絡をとっていたかと思ったら、クリスさんのためだったんですね。
……クリスさん、やっぱり女性の方でしたか」
サキが無表情な眼差しでクリスを見つめている。あ、これはゲームでよくアルベルトに向けていた眼差しだな。
「あはは、サキさん今まで隠していてゴメンね。
あと、今度の夏休みは、ぼくの再入学の交換条件としてアルベルトくんのところでアルバイトする事になったから、サキさんもよろしくね!」
邪気のなさそうな爽やかな笑顔をサキに向けるクリス。
「くっ、こんなに素早く私の聖域に踏み込んでくるとは!クリスさん、侮れません!」
サキとクリスが親密そうに会話をしている。良かった。以前は何か噛み合っていない感じだったが、今はお互い対等な感じで仲が良さそうだな。
「あれって逆に、お互いが牽制しあっているだけみたいに私には見えるんだけどねぇ」
フェリシアが苦笑して2人を論評している。
いや、仲が良いんだよ。そういう事にしておいてくれよ。
「……ふふふ、あなたも大変ね。
あ、私も夏休みはあなたのところに遊びに行くわ。一応、許婚だし、実家にいると色々な男性からの誘いが多すぎて、断るのが大変なのよね」
さらっとフェリシアからのお誘いが来た。つーか、お前去年もずっとうちに居ただろうが。
「くっ、まさかクリスさんが女の人だったとは。しかも私よりおっぱいが全然大きいですし、すっごく悔しいのです……」
リーゼが自分の胸を制服の上から触りながら、ぐぬぬとクリスを睨んでいた。
「リーゼ、人にはそれぞれ持って生まれたものがあるのだから、無い物ねだりをしてもしょうがないぞ」
俺は、教師が聞き分けのない生徒に優しく道理を諭す気分で、リーゼに説法してあげた。
「あなたみたいに色々と恵まれた人が言っても嫌味にしか聞こえませんよっ!
……まぁ、それはどうでも良いんですけど、まだ色々とあなたの秘密を、私は教えてもらってないです!
だから私も、夏休みはあなたについていくことにしました。拒否は認めませんよ!」
頬を赤くしながら噛み付くように一気に喋るリーゼ。別に拒否したりなんてしないっつーの。
「いや、それは構わんのだが、家業の手伝いとかはいいのか?」
「よく、私が家業の手伝いをしている事を知っていましたね。でも別にうちの商会は私がいなくてもきちんと仕事が回っておりますから、あまりお気になさらずに」
リーゼが良いと言っているのだから、まぁ問題はないのかな。
「しかし、びっくりやなー。クリスちゃんが女の子だったなんて。
でもこれからは一緒にお風呂に入って身体の洗いっことかもできるし、いい事づくめやねぇ」
メアリーはニコニコ笑いながら、クリスに抱きついていた。
メアリーの過剰なスキンシップに、クリスもたじたじだ。
「め、メアリーさん、例え女の子同士でもあまりベタベタ触るのはどうかと……。
それにどうせ触られるのなら、私は恋人とかの方がいいと思います……」
そう言って頬を染めながら、ちらりとこちらを見るクリス。
その仕草を目聡く発見し、クリスを睨むサキ。
「あ、アルベルト君、私だけ除け者にしちゃいやだからねぇ〜。私もアルベルト君のとこについていくよ〜」
「さいですか」
メアリーの申告に、頷きマシーンになって返事をする俺。
あのヘルメス達の襲撃以来、この面子でつるむ事が増えてきたな。
なお、以前話した表彰に関しては、俺の説得も虚しく結局全員が辞退しやがった。
これでまた一つ俺の知っているシナリオから逸脱してしまったな。
まぁ、この夏休みを上手く利用して、クリスとリーゼorメアリーを仲良くさせて、そっちのルートに進んでもらえるようなるべく頑張ってみよう。
なんかもう大分本来の俺の運命から逸脱しているので、そんな事をしても大して意味がないような気もしないではないが、当面代わりとなるような他の指針もないしな。
所詮俺は、多少戦闘能力があるだけの、しがない悪役貴族に過ぎないのだ。
俺には、能動的に世界を操るような術なんてない。
不器用な俺にできる事は、ただ一つ。
俺の手の届く範囲にいる人を助ける事。ただそれだけだ。
俺はそれだけできればいい。
「ご主人様、夏休みを満喫しましょうね!」
「アルベルトくん!ぼく、頑張るよ!」
「新しい水着買っておかないといけないわねぇ」
「私はまだまだ成長期のハズ!頑張るのです、私のボディライン!」
「楽しくなりそうやねぇ〜」
「……まぁ、なるようにしかならないか」
俺は空を見上げる。
俺の悩みなんて知らんとばかりに、空は綺麗に晴れ渡っていた。
【学園一学期編・完】
これにて学園一学期編終了です。ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
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今後の予定ですが、夏休み編のプロット作成のため、本編は2、3週間お休みさせていただきます。
その間に、閑話を少しだけ投下するかと思います。
それでは、また。




