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エピローグ(2)その後の話とクリスの下宿

 気がつくと、エクスバーツ共和国の襲撃事件から2週間ほどが過ぎていた。

 とりあえず今回の事件のその後の顛末について簡単に話しておこうか。


 まずは俺とリーゼの試合でストップしてしまった今年の学園トーナメントは、正式に中止のアナウンスが流れた。

 まぁ、これだけ大規模な事件が起こったのだから中止は仕方あるまい。

 来年は開催できるか微妙だそうだ。落ち着くまではそれなりに時間がかかるんだろうな。


 そしてエクスバーツ共和国とのいざこざだが、我がフレイン王国は多くの証拠を土産に外交ラインを通じて、正式に共和国へと抗議を行ったみたいだ。


 共和国側の反応としては、一部部隊が勝手に暴走したという主張(シナリオ)を譲らなかったらしい。

 それでも、被害を与えた事実関係は認め、共和国大統領名での正式な謝罪文と少々の見舞金は払ったそうだ。


 見舞金は実害に較べれば端金(はしたがね)ではあったけれども、共和国に謝罪させて事件が正式に終わったことの方が重要だと宰相(親父)殿が言っていた。


 なお共和国艦隊の壊滅については、共和国サイドは伏せているようだ。


 それでも無視できない損害があったことから、周辺国の諜報機関が躍起になって内情の調査を行っているとの事。


 俺としてはこの事についてはなるべく調べないようにしていた。あれだけの規模の艦隊を壊滅させたのだから、それなりに人的損害は免れえないだろうが、知って気分が良くなるわけではないしな。


 あと、親父とエリカ王女から、学園あてに自身の救出に関する感謝状が届けられたそうだ。


 けれども学園としては誰が助けたのかも分からない状況であったため、かなり困惑したらしい。まぁ、俺が今更名乗り出ても面倒な事にしかならなさそうなので、俺はこの件にはノータッチだ。


 そして俺に関わる一番大きな出来事は、学園の臨時休校だろう。


 今回の事件で学園設備に大きな損害が出てしまった。

 その修繕作業のため、夏休みを前倒しし、水陰月(6月)中旬から風陰月(8月)までの2ヶ月半の間を休みにするそうだ。


 ゲームよりもひと足早く夏休みに入る事となってしまったが、どう過ごすべきか悩むところだな。


ーーーーー


「アルベルト(うじ)〜、本当に行くでござるかぁ〜?」


「勿論だ。クリスは水臭すぎる。俺達は友達なんだから、表彰をお祝いするのは当然だろう」


「クリス殿は辞退しようとしているみたいでござるがな〜」


「細かい事はどうでもいいんだよ」


 俺とエドワードは、一路クリスの下宿先であるビストロ・フラッテに向かっている。


 今回の事件で活躍したクリスと4人のゲームヒロイン達は、学園から表彰される運びとなった。


 彼女達は、俺が表彰に含まれていない事を強く学園側に抗議したらしいが、俺の関与を示す証拠が出てこない以上、認めることができないと言われたそうだ。


 そうしたら、今度は表彰を全員が辞退すると言い出してしまった。


 それはまずい。なぜならば、ゲーム展開的にはここで表彰される事によって、クリス達は生徒会や風紀委員といった学園の中枢に入るきっかけとなり、やがては学園から様々な便宜を図ってもらえるようになっていくのだから、自分達からそれを断るのは今後の展開的に非常にまずい。


 だから俺は、彼女達を個別に説得し、なんとか受彰してもらおうと考えていた。


 そんな時、ふとクリスの家に行ったことがない事に気づいたのだ。


 ちょうどウィンディにケーキをご馳走しようと思っていたので、説得がてらケーキを食べに行こうという運びになったわけだ。


 なお、エドワードを呼んだのは保険だ。

 あれだけ下宿先に俺達が来るのを嫌がっていたクリスだから、もしクリス(あいつ)が怒った場合、エドワードを差し出して逃げ切る腹積もりだった。


 くくく、俺は悪役貴族だから卑怯な真似も造作ないのさ。


ーーーーー


「こんばんわ!クリスの友人のアルベルトと言うもんです!」


 俺は店を切り盛りしている、恰幅の良いおばちゃんに声をかける。


「アルベルト?……あっ!あんたがアルベルトって言うのかい!うちのクリスがよくあんたの事を話しているよ!

 いやぁ、話どおりの良い男だね!おばちゃんもあと30若かったら口説いていたよ!」


 ハッハッハッと豪快に笑ってこっちの背中をばしばし叩いてくるおばちゃん。地味に痛い。


「えーと、それでですねぇ……」


「ちょっとアンタ!こっち来なよ!噂のアルベルト坊やが来てるよ!」


 俺の言葉を遮って厨房の奥に声をかけるおばちゃん。

 するとドタドタと音がして、厨房の奥から熊みたいに大きなおっさんが、ぬぼっと現れた。


 プロレスラーのようなガタイに花柄のエプロン、手には猪モドキの巨大な肉と大きなのこぎりを持っており、迫力満点だった。


「……あんたが……アルベルト…さんか」


 寡黙な山男にしか見えないおっさんだった。


「あ、ハイ」


「いつも…クリスが……世話になっている……礼を……言いたかった……」


 朴訥とした喋りだが誠意が伝わってくる話し方だった。


 すると更に奥から、ガチャンガチャン音を鳴らしながら誰かが駆け寄ってくる。


「え〜、この子があの王子サマ?すっご〜いイケメンじゃ〜ん!」


 と、何やらテンション高く近寄ってくる。俺より何歳か年上のお姉さんだが、この子が例のパティシエかな?


「ちょっとマリー!そんなに走ると……」


「あっ!」


 マリーと呼ばれたその女性は、両手にジョッキやグラスを大量に持っていた。


 そしてそれを抱えながらこっちに突進してきて、転けたのだ。


 避けるのは簡単だった。だがそうすると彼女は変な体勢で地面に倒れ込みそうだ。


 そしてつい先日の騒動の関係で、庶民の目の前で魔法を使うのも(はばか)られる。


 だから俺は最も簡単な手段をとった。


 じゃぱっ!パリーン、ガシャガシャーン!


「あ……ありがと……」


 俺の頭や服に、大量のアルコールを浴びてしまった。だがしかし、マリーと呼ばれた女性は怪我する事もなく助ける事ができた。


「マリー何やっているんだいっ!

 坊や、済まないね!この廊下を真っ直ぐ行くと脱衣所と風呂場があるから、使っておくれ!」


「いや、そんなに大した事では……」


「何遠慮してるんだい!あんたはクリスの仲良しさんなんだろ?だったらうちらの身内みたいなもんさ!さっさと風呂入ってくるんだよッ!」


「あ、ハイ」


 固辞しようとする俺に対して、おばちゃんはマシンガントークで強引に風呂へ入るように勧めてくる。


 根負けした俺は、廊下を走って脱衣所へと向かうのだった。


ーーーーー


(確か籠の中に洗い物を入れてくれって話だったな)


 ポイポイと籠の中へ濡れた衣服を投げ込む。


 間取りを見ると、元は旅人宿をやっていたような造りだ。


(こういった風呂に入るのは1年前の冒険者をやっていた時以来かなぁ)


バタン、キィィィィ。


 風呂場の大きな扉を開く。


「あれ?」


「えっ?」


 風呂場に入った瞬間、目の前に風呂上がりのクリスが、中腰の姿勢で髪の毛をタオルで拭いていた。


 その瞬間、風呂場から湯気がモアッと出てくる。


「あっ」


「えっ」


 風呂場の扉を開けた事で、中の湯気がかなり外へと出ていった。


 結果、顔しか見えていなかったクリスの全身がハッキリと見えてしまう。


 なるほど、顔はいつも通りのクリスだ。

 だが首から下がおかしい。


 まず腰回り。

 細い手足に相応しく、ゴツゴツしたものがない滑らかな丸みを帯びた美しい曲線を描いていた。


 次に胸。

 異常に発達した、というよりも無駄に脂肪のついたといった方が学術的に正しい気がするが、二つの胸の双丘が、激しくその存在を自己主張していたのだった。

 ……というよりもコレ、去年見たフェリシアさんのよりも大きいですヨ?


 そして最後に下腹部の下。

 そこには男なら当然あるべきものが見当たらなかった。サイズの問題ではなく、純粋にその存在がない(・・)


「…………」


「…………」


 俺とクリス、お互いに無言で見つめ合う。


 ここは一つ小粋なジョークでも入れてクリスを和ませるべきか。


「よぉ、クリス。なかなか良い胸の筋肉をしてるな。あっはっは」


 瞬間、クリスは自分の胸をちらりと見て、またこちらを見る。顔は茹で蛸のように真っ赤になり、ついに決壊した。


「キャァァァァァァァッッ!!」


「わわわわわ!」


 するとドタドタと外から音がして、誰かが脱衣所に入ってくる。


 俺は咄嗟に背中にクリスを庇い、相手と相対する。


「何か凄い声がしたけれども、アルベルト氏、大丈夫でござるか?」


 エドワードが風呂場をひょっこりと覗いてくる。


「いや、別に大した事では……」


 俺は心臓をバクバク言わせながら、なるべく冷静になれと念じながらエドワードと会話する。


 なぜならばーーーー


「あ、エドワードくん、こんばんわ」


 俺の背中から顔だけひょっこりと出してエドワードに挨拶するクリス。


「あ、クリス殿もこんばんわなのだぜぇ〜」


「あはは……」


 クリスのポーカーフェイスには恐れ入る。クリスの心音もドキドキだ。


「クリス殿は何故にアルベルト氏の後ろにいるのであるか?」


 するとギューッと何かが更に背中を圧迫してくる。

 死ぬ!精神的に俺が死ぬ!


「あはは……ぼくちょっと身体が細いからあんまり見せたくないんだよね」


「そうでござるか!まぁ、問題なさそうであるから拙者は先に帰らせてもらうでござるよ。

 今日はアルベルト氏も濡れネズミなので親睦会はまた今度で!」


「お、おう……」「う、うん……」


 風のように去っていくエドワードを俺とクリスは見送った。


 暫く背中に柔らかい物を押し付けられた姿勢で固まっていたが、スッと離れていく。


「あ〜、え〜と……済まなかったなクリス。まずは謝罪させてくれ」


 俺はクリスに背を向けたままの姿勢で、とりあえず謝る。

 女性の裸を無断で見てしまったのだ。男としては謝罪の言葉しか言えない。


「え……いや、別に謝ることじゃないよ……不注意だったのはぼくも同じだったし……」


「それでも謝罪させてくれ」


「……う、うん、分かった。……謝罪を受け入れます」


「ありがとよ」


「ふふっ……」


「へへっ……」


 お互いまだ、心音の高鳴りが止まらない。


「アルベルトくん……ちょっと仕事があるから先に上がらせてもらうよ。

 ……だからあと2時間くらい、ぼくの部屋で待っていてくれないかな?」


「ひ、日を改めても別にいいんだぜ……」


「ううん……今日、全て話したいんだ」


「……分かった。待っている」


 やがてバタン、と風呂場の扉が閉まる音が聞こえてきた。


 俺はヘナヘナと腰砕けに風呂床へと腰を落としてしまう。


「ははは……まさか女だった……とはなぁ」


 未だ背中に押し付けられた感触が残っている。


「クソ……無防備すぎんだよ……」


 暫くは顔の火照りが取れそうもない。


 俺はいつもよりも長く風呂に入り、その顔の火照りを誤魔化すのだった。

 ついに書けましたクリスの肌色回!

 今章はこれが書きたかったから作られたと言っても過言ではありません(言い過ぎ)。

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