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戦略魔法

(クソ、舐めやがって!)


 副長のジャン・ルクレール中佐は内心で毒づく。


 フレイン王国の若い魔法使いによる不意の挑発を受けて、今回の作戦に不満を持っていた者も、今ではやる気に満ち溢れていた。


「防護障壁班より連絡。全班員第一級戦闘体制へ移行済。繰り返す、全班員第一級戦闘体制へ移行済!」


「索敵班より連絡。全空中索敵班員、艦上に展開済。繰り返す、全空中索敵班員、艦上に展開済!」


 各班より、続々と連絡が入る。これでこの艦は完全な臨戦状態になった。

 あの若い魔法使いは、自分から喧嘩を売る事で、不意打ちのチャンスをみすみす棒に振ったのだ。


「何だ、艦橋に戻って来てみれば、皆やる気に満ち溢れているではないか!」


 背丈が低く、付け髭の噂がある立派な髭を除いては、小狡い印象しかない艦長が、艦橋に戻ってきた。


「艦長。先程フレイン王国の魔法使いを名乗る若い男から、我が艦隊への挑発行動がありました」


「何ッ!?」


 フレイン王国がこちらの動向を追っていると知った艦長は、途端に狼狽しだす。


「お、王国はどこかで罠を張っているんじゃないのか?作戦を中止した方がいいんじゃないのか?」


 オロオロする艦長に、次第に冷静さを取り戻した副長が説明をする。


「艦長。フレイン王国海軍の戦力は、多く見積もってもこちらの4割に過ぎません。

 そしてその魔法使いに王国海軍を動かす力は、おそらくない、と断言できます。

 彼は、何かしらの偶然でこちらの動きを知り、虚勢を張って我々を食い止めようとしたのでしょう」


 そう、虚勢だ。


 もしあの魔法使いが、真に王国海軍と繋がっていたのならば、彼一人が魔法を使って挑発行為をこちらにすることはなかっただろう。


 つまり力無き故の、愚かしくも滑稽でありながら、精一杯のいじましさを感じさせる彼なりの示威行為だったのだ。


「……そう考えると、哀れなものだな」


 力無き行為は、蟷螂(とうろう)の斧に過ぎない。


 副長は、ついぞ姿を見せなかった若い魔法使いに対して、憐憫の情を覚えるのだった。


ーーーーー


「……えーと、前回の実験で減衰した箇所はココだったんで、そこを封印する魔法式を加えて……と」


 俺は急ピッチで積層型の魔法陣を組み上げていく。

 前回一度だけ実験をしており、その時の反省を踏まえて改良した魔法式だった。


「よし、こんなもんだろ!」


 俺は出来上がった魔法式を見て悦に浸る。魔法開発において一番楽しい、理論から実践フェーズに移る瞬間だ。


《ウィンディ、そちらの様子はどうだ?》


 俺は現場で艦隊を監視しているウィンディに連絡する。


《こちら現場のウィンディちゃんじゃ。天候は……晴れ。所により波が高いじゃろう……。

 そんで、艦隊の周りに、蚊とんぼのようにブンブンと魔法使いどもが飛んでおるようじゃよ。

 あと、真ん中の船はそこらじゅうでぶっとい魔法障壁を張っているみたいじゃな》


《ふーん、あっそう。……とりあえず感覚をリンクするが準備はいいか?》


《あっ……お前様よぅ……優しくぅ……優しくしておくれぇ……》


 ウィンディが、くねくねした変な演技を加えて、こちらにOKサインを出してきた。


《アホやってないでさっさと繫げ》


《あいあーい、なのじゃ!》


 そして一瞬のラグがあり、俺の視界が、ウィンディと連動される。


 敵艦隊を真ん中に捉える。

 移動方向、距離、相対速度等の詳細な情報を調べる。


《よし、これで全ての準備が整った。

 ……これより戦略魔法、”魔弾ノ射手”の射撃フェイズに入る》


《のじゃ!》


 すー……はー。


 俺は深呼吸をする。


 俺は今、ウィンディがいる地点より更に上空の、空気も重力もないような成層圏にて魔法の準備をしていた。


 ここまで登って来ると、”飛行”以外にも様々な魔法を使って補助をしないと、人間が生存することすら許されない。

 まさに科学無き人類にとっては神域となる、禁忌のエリアだった。


「第一魔法式”隕石召喚”……起動」


 俺の魔法が発動し、比較的サイズの小さな(とは言っても重機がなければ持ち運べないような)隕石が虚空に出現する。


「第二魔法式から第五魔法式”空間障壁”……続けて起動」


 通常ならば重力に従い落下が始まるその隕石の周りに半透明な障壁が現れ、細長い筒状の状態を形成して空間に固定されていく。


「第六魔法式”雷撃”……起動」


 その瞬間、激しい紫電のプラズマが半透明な障壁の中で荒れ狂った。


「設定条軌上の通電を確認……各種パラメター正常……続けて、第七魔法式から第十二魔法式”加速”……起動」


 筒状の障壁より先に、一定の間隔で六個のリング状のものが並んだ。


 そのさまは、滑走路の先に浮かぶ誘導灯のようでもあった。


射撃管制員(ウィンディ)とのデータリンクを確認……射撃位置微調整……完了。全確認行程……クリア!」


 俺は片目をウィンディにリンクさせて、目標である敵艦隊の旗艦を目視し、指を向ける。


「第十三魔法式”電磁投射砲”……起動!

 …………積層型戦略魔法、”魔弾ノ射手”……射出ッッ!!」


 筒状の障壁の中で、条軌(レール)に沿って電磁的に隕石が加速されていく。


 そして、筒から射出された隕石は、六個のリングを通過する毎にさらなる加速を加えられていき、最終的には一条の光そのものとなっていた。


 魔法的に再現された電磁投射砲(マスドライバー)によって、光輝く神罰の砲弾へと改変されたその隕石は、瞬く間に地上との長大な距離をゼロに縮め、宇宙から見ればノロノロと地べたを這いつくばっているようにしか見えない共和国艦隊に対して、無慈悲な神の鉄槌を降すのだった。

 必殺技は漢の浪漫。

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[良い点] 隕石マスドライバーは漢の浪漫~
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