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共和国渡洋艦隊の来襲

 今回は難産でしたが、その理由が「共和国の設定がなかったから」というしょうもない理由。

 皆さん、小説を書くときは事前に設定くらい決めておきましょうね(やけっぱち)。

「無事に2人を近くの村に送り届けてきたぞい。

 お〜、しかしお前様はえらく疲れておる感じじゃのぉ〜」


 回復魔法で脚の怪我を癒やしていると、丁度ウィンディが帰ってきた。

 あれだけの激闘を知ることもなく、能天気に声をかけてくるウィンディに、ちょっとだけイラッと来たが、それはただの八つ当たりに過ぎないと分かっているのでここはグッ、と我慢する。


「ウィンディ、緊急事態だ。洋上で敵国の渡洋艦隊を撃滅しなければならなくなった」


 俺の緊迫した話にも、ウィンディはピンときていない感じだ。


「なんじゃ、その『とよーかんたい』とゆーのは?

 ……ハッ!それは前に作ってくれた羊羹(ようかん)の仲間じゃな!あれは本当に美味(びみ)じゃったのぉ〜。お前様よ、また作ってくれい♪」


 嬉しそうにスイーツの催促をしてくるウィンディと話していると、本当に今が緊迫した事態なのか、ちょっとあやふやな気分になってくる。


「それも今の面倒事が終わったら作ってやるから……今はとにかく俺の話を聞け。

 いいか、ウィンディ。艦隊って言うのはな、海に浮かぶでっかい軍艦の集まりだ。そしてそいつらは海から町に、たくさんの砲弾やら魔法やら兵隊やらを送り込んで……あー、例えばお前の大好きなお菓子を無理やり分捕っていくとか……まぁそういう悪い事をしに来るんだよ!」


 途中で真面目に説明するのが面倒くさくなって適当な例え話をウィンディにした瞬間、ウィンディの目の色が変わった。


「……それは許せん!許せんのじゃあッ!!

 みんなの大好きなお菓子を独り占めにしようとするとは、なんたるひどーのおこない!ごんごどーだん、なのじゃ!!」


 コブシを握りしめ、たまたま覚えていた難しい言葉を使ってまで自分の怒りを真っ直ぐに表現するウィンディ。

 まぁ、お菓子の部分が効いたんだろうな、多分。


「そんなわけで、共和国の艦隊をブッ倒すぞ、ウィンディ。

 丁度今回みたいなケースに上手く利用できそうな戦略魔法を、先週一緒に実験したじゃないか。

 あれを使おう」


 俺の提案に対して、ウィンディはキョドリながら返事をする。


「……ん〜、あ、アレじゃな!分かっておる、分かっておるぞい!」


 ……嘘だ。絶対に分かってねぇな。


「まぁ、いいや。道すがらおいおい説明してやる。

 とりあえず、共和国には今までの落とし前をきっちりつけさせてもらおう。

 今回は、奴等がこちらに勝手な攻撃を仕掛けてきたんだ。

 ……だったら、そろそろこちらからもガツンと一発くれてやるのが礼儀ってもんだろ?」


「じゃな」


 そして俺とウィンディは、空から目的の海域へと接近することにした。


─────


 波穏やかな大洋を、大小合わせて20隻あまりの大艦隊が、威風堂々と突き進んでいる。


 その艦隊の中心に、一際巨大な軍艦が威風堂々と波をかき分け進んでいた。

 エクスバーツ共和国海軍が誇る旗艦、『ソレイユ・レピュブリク』である。


 ソレイユ・レピュブリクは、エクスバーツ共和国が世界に誇る最新鋭の装甲戦艦であり、魔法を効率的に利用した独自技術の帆船推進システムや、最新鋭の火薬を用いた砲百門等を有する、この時代の最先端技術の粋を集めた戦艦だった。


 その旗艦の広い長官室にて、二人の男が寛いでいた。


「いやぁ〜しかし、まさか我が軍の最精鋭特殊部隊である、五〇一中隊が壊滅させられるとは、議会はフレイン王国の戦力を完全に見誤っておりましたですなぁ、長官」


 髭だけは立派な小男が、身なりだけは良さそうなデブの中年に(おもね)っている。


「うむ艦長。如何に噂の中隊が一騎当千の強者揃いだと言っても、やはり寡兵では不測の事態は起こるものよ」


 長官と呼ばれた男は、昼間であるにもかかわらず度数の高い高級酒をたらふく飲んでいた。


 出っ張ったお腹にそってパンパンに伸びきっている着慣れない制服は、艦隊の最高責任者である

艦隊長官だけが着ることを赦されたデザインだった。


「確かに。我々貴族が民衆どもによって多くの特権を奪われたのも、やはり数の力が少なかったからかも知れませぬなぁ、長官」


 ねちっこく(おもね)るように長官に媚びる艦長。どうやら旧貴族としての階位は長官の方が上のようだ。


「お話し中、失礼いたします!」


 きっちりとしたリーファージャケットを着込んだ、中佐の階級章を着けた男が室内に入ってくる。


「副官、事前の許可を得ずに、急にこの部屋に入ってくるとはどういう了見か!

 私が艦橋(ブリッジ)に戻るまで待っていられなかったのかねッ!?」


 さっきまでの長官に対する気持ち悪い猫なで声が嘘のように、甲高い声で厳しく部下を叱責する艦長。


「失礼しました!ですがやはり命令書の撤回を再度お願いしたいと思い、部下を代表して参った次第であります!」


「副官、貴様誰に物を言っておるのかね?長官の命令は絶対だ!君は自分の階級と出自をもっと考えたまえッ!」


 この副官は、市民階級出自の士官学校卒業組だった。

 近代化を成し遂げた共和国海軍においても、残念ながらこのような出自による差別が未だ存在していたのだ。


「ですが、無差別に一般都市に対して艦砲射撃をすることや、陸戦隊を使ってまで王国の女性市民を拉致する事に一体どんな正義があるのでしょうか!

 ……せめて共和国の精鋭艦隊らしく、王国の海軍と海戦を行えるように今からでも作戦書の変更をお願いいたします!」


 毅然とした副官の直言に対して鼻白む艦長。

 

 艦長を通していては(らち)が明かないと考えた長官は、不快ながらも直接副官に声をかけることにした。


「……副官。もし王国の艦隊と海戦をした場合、我々の勝率はどれくらいかね?」


「はっ、長官!限りなく100%に近い勝率をお約束いたします!」


 艦隊長官直々の質問に対して、緊張しながらも淀みなく答える副官。


「ふむ。……ではこの旗艦が敵に攻撃される確率はどうかね?」


「はっ、長官!当然旗艦として陣頭指揮を取るため、ほぼ100%の確率で被弾する事になるかと思われます。

 しかし、ご安心ください。重装甲の当艦でしたら、余程の箇所に敵主砲を命中されない限り、戦闘の続行は可能であります!」


 溌剌(はつらつ)と答える副官に対して、長官は不快げに眉根を寄せる。


「違う。私はそんな事を聞きたいんじゃない。

 私の船が撃たれたら、私が怪我をして(・・・・・)しまうかもしれないじゃないか。それでは困るのだよ」


「はっ、……はっ?長官の仰っている意味がよく分からないのですが……?」


 戦闘艦に乗っているのだから戦闘は当たり前で、最悪戦死する事だってありうる。

 しかしそんな事は騎士として叙勲されて以来当然の起こるべき事だと考えてきたため、長官の言っている意味が副官には本気で分からなかったのだ。


「副官。私はね、今回の件が済んだならば艦隊長官の席を後進に譲り、元老院の一員として共和国と王国との戦争指導に当たるつもりなのだよ。

 そんな大事な身をわざわざこのような些事で危険に晒すなど愚かしいにもほどがある。

 よって貴官の提案は却下。大人しく私の命令に従いたまえ」


「……アイ、サー。失礼しました」


 拳をきつく握りしめながら部屋をあとにする副官。

 去り際の部屋の中から、フレイン王国の女性の特徴について、卑猥な話を続ける長官と艦長の耳障りな声が聞こえてきたが、副官は聞こえないふりをして足早に廊下を歩く。


(普段は旗艦に乗座することのない長官が、今時の作戦に限って乗船してきた理由は、今回の作戦では『海戦』がないからか……)


 知らず知らずのうちに溜息が出てしまった。

 情けない。これが栄光ある共和国海軍の姿なのか。


 全てはあの白髪の魔女”ヴリエーミア”が、共和国大統領の最高顧問に納まってからおかしくなった。


 あの魔女は、我が共和国の永久大統領でもある建国の父『アルフォンス・ド・エクスバーツ』のもとに約15年前にふらりと現れた。


 それ以前は名君として国政運営を行っていた大統領が、気がつくとその全てのまつりごとを魔女に委ね、暗君として国政を蔑ろにするようになっていった。


 この降って湧いたように現れた災厄の魔女に反発して、議会や司法の心ある者が続々と魔女を排除しようと戦いを挑んだ。


 しかし結果は全て敗北に終わり、いつの間にか誰も魔女に逆らおうとはしなくなっていた。


 そして徐々におかしくなってきた共和国は、段々と周囲の国々との間に摩擦が増えていき、気がつけば周辺国家全てが仮想敵になるような状況に陥ってしまったのだ。


(此度の作戦、上手く行っても行かなくても、共和国の名声は地に落ちる。どうにかならないものか)


 副官は暗澹たる気持ちを抱えたまま、艦橋(ブリッジ)へと戻るのだった。

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