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仲間

 テロリスト(障害)を排除した後は、負傷者を速やかに救助する必要があった。


 俺は早速サキとフェリシアに接触する。


「あ、ご主人様!ご無事で何よりです」


 俺の無事な姿を確認して安堵の表情を浮かべるサキ。


「はぁい、アルベルト。とりあえず今はどうなっているの?現状が全く分からないのだけど」


 挨拶もそこそこに現状の説明を求めるフェリシア。頼もしいやつだ。


「強襲してきたテロリストどもは俺が排除した。

 次の行程として、奴等によって被害を受けた一般市民を救助したい」


「……流石ね。でも今までずーっとコソコソしていたのに、こんなに目立つ真似をするだなんて、一体どんな心境の変化があったの?」


「そうだなぁ……。強いて言えば、俺は俺にしかなりえないってことを自覚した、かなぁ?」


 そうだ。俺は俺にしかなりえない。人が不幸になるシナリオを、黙って見過ごすことなんて決してできない。


 例えその結果、俺の運命が全く見通せなくなったとしても、だ。


「あは。なにそれ?」


 フェリシアが微笑む。


「さてね。とりあえずは被害者の救助に邪魔なこの霧を、今から俺が何とかしようと思う。

 ……んだが少々魔力量が心許ない。2人とも、すまんが魔力を少し融通してくれ」


「了解です」「おっけーよ」


 俺の頼みに2人は二つ返事で了承してくれた。”魔力譲渡”は相手の同意がないと成立しない魔法であり、事前に同意を取り付けておく必要があった。


「では……”魔力譲渡”」


「んっ……」「あっ……」


 一瞬、身体が暖かい光に包まれる。


 そして目には見えないが、確かにそこにある”力”が、俺の中に流れ込んでくるのを感じる。


「よし準備OKだ。それではいくぞ!

 ……”完全解呪”ッ!!」


 ”完全解呪”。

 この”対抗魔術”系統の最高位魔法は、俺の持つ切り札の一つであり、現世では失伝している遺失魔法の一つだ。


 この魔法は、魔法道具といった常態化している魔法の効果ですら打ち消すことができる凶悪な効力があり、使い方を誤ると、過去の魔法文明の遺構をそのまま使っている都市を、機能不全に追いやることができたりと結構凶悪だったりするのだ。


 サァァァァ……


 俺を中心に翡翠色の魔力の粒子が放出されていく。そしてその粒子が細かくあたり一面に拡がっていき、視界が徐々にクリアになっていった。


 暫くすると霧は晴れ、悲惨な状況が露わになってくる。


「こ、これは……」


 流石のサキも顔が真っ青になっている。


 辺りには負傷している多数の市民。だが、まだ救える。


「サキとフェリシアは自分のクラスの連中をまとめて、一般市民の治療に当たれ。途中で先生達の指示があればそちらにも気を配ってくれ」


「分かったわ。……で、アルベルト(あんた)はどうするの?」


 俺はちらりと貴賓席の方を見た。


 護衛の騎士達がことごとく地に伏して絶命していた。


 しかし来賓の連中は多少の怪我はありそうだがほとんどが無事なようだ。


 ……もっとも2人ほど人数が欠けているようだったが。


「ちょいと宰相(親父)と姫さんが攫われたみたいなんでな。

 助けに行ってくるわ」


「!!では私もお供します!」


 前のめりで挙手をしてくるサキを俺はなだめ透かす。


「いや、サキは一般市民の救助に当たってくれ」


「ですがご主人様。賊がどこに2人を連れて行ったのかも分かりませんし、ある程度人海戦術が必要かと思われるのですが?」


「お前の指摘はもっともだ。だが俺が行き先を知っているとしたらどうする?」


 サキが不思議そうな顔をしている。当たり前だ。なぜ俺が会ったばかりのアイツらの行き先を知っているのか。


 これはチート(ずる)だ。だが知らないはずの知識を知っている事で助けられる命があるのならば、俺は堂々と有効活用させてもらう。


 サキやフェリシアと打ち合わせをしていたら、クリスやメアリー、リーゼが走り寄ってきた。


「アルくん!無事でなによりだよ!

 ……でも周りは凄い有様だね。どうしようか」


 クリスの眼力(めぢから)が凄い。ヤル気スイッチが入っているぞ。


「クリスは……サキの指示に従ってくれ。光属性に目覚めて大して日が経ってはいないが、それでも光属性の回復魔法は強力だ」


「分かったよ。サキさんよろしくね!」


「……ドウモヨロシク」


 ちょっとサキの返事がぎこちなかった気もするが、まぁいい。


「うちらはどうしましょうかぁ〜?」


 リーゼに抱きつきながらメアリーが質問してくる。この娘はこんな状況下でもマイペースなんだな……


「2人はフェリシアの補佐についてくれ。

 特にリーゼは元々そういうポジションだろ?

 学生で、下手でもいいから回復魔法を使える奴を集めて組織してくれ!」


「はいは〜い」「…………」


 さっきまでだったならば、キャンキャンと噛み付いてくるリーゼが今は異様に大人しい。


「リーゼ、どうした?」


「あ、貴方は一体何者なのですか?

 ……今まで隠しておりましたが、実は私も少々特殊な”目”を持っておりまして、さっきの霧の中の光景がぼんやりとだけ見えておりました。

 ……貴方の動きは、とてもではないですが普通の学生レベルではありえない、凄まじいものでした」


 泣きそうな表情を浮かべてリーゼが訥々と語る。


「どうして貴方はあれだけの実力があったのに、今まで隠していたのですか?

 いつもみんなからバカにされて……悔しくなかったのですか?

 ……なんだか、他の有象無象の連中と一緒になって貴方を馬鹿にしていた自分が、とてもとても惨めな気持ちになるのです……ぐすっ。自分の見る目のなさが……本当に不甲斐ないのです……」


 泣き出すリーゼ。

 いや、別に俺はバカにされても気にしていなかったんだが、何がリーゼの琴線に触れたのか全くわからんぞ。


「……今は詳しく説明している暇はない。だけど、この騒動が終わったら色々と教えてやる。

 つーか、みんなにも教えるわ。だから……今は目の前の人命救助(仕事)に集中してくれ!!」


「はい!」「もちろんよ」「うん!」「おっけ〜」「……(ゴシゴシ)はいッ!」


 みんなの気合いの入った返事に満足し、俺は空を見据える。


 この場は仲間に任せた。だったら俺は仲間を信じて、自分の仕事を貫徹させるだけだ。


(敵を船に到着する前に捉え、2人を助ける!)


 俺は”飛翔”の魔法を使い、抜けるような群青の空へと駆け上がっていった。

 アルベルトはいつか後ろから刺されそうですね。

 あと完全解呪は、『パーフェクトキャンセレーション』とルビを振ります。

 これがわかる人は相当なマニアックですね。

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[一言] 呪われた島か剣の国かどっちだったかなぁ
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