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全力

 白い霧を切り裂いて、疾風が駆け抜ける。


「謎の高速物体が接っき……ぐはっ!」


『おい、ブラヴォー・トゥ!どうした!?』


「ぎゃあッ!!」


『クソっ!一体なんだ!何が起こっているッ!』


 限界まで高めた身体強化の影響なのか、奴等が使っている通信用の魔道具からの音声が聴こえてくる。


 敵は魔法道具を使って霧の中でもこちらの動きを捉えられるそうだ。

 だが、『捉えられる』事と『対処できる』事との間には、無限に等しい乖離が存在する。


 テロリスト側だけではなく”精霊の眼”を使っている俺にとっても、この障害物()は無きに等しいものだ。


 索敵の条件がイーブンであるならば、彼我(ひが)の勝敗を決定づけるのは、ただただ単純に暴力装置としての質の差のみである。


 手近な敵2人を一瞬で(ほふ)った俺は、次の獲物を探す。

 いた。右前方2時の方向、距離150に、新たな敵影2人を捕捉。空を駆け抜け、その距離を一瞬で詰める。


 敵は俺が肉薄する事でようやくこちらの姿を捉えることができたようだ。


「グッ!」


 先程の敵は俺の姿を見た瞬間に驚愕し、何も行動を起こせずに一方的に俺によって斬られていた。

 だが、こいつはベテランらしく反射的に剣を抜いて俺のダガーを受け止めることができたようだ。


 ───だが、俺の剣を受けてはダメなんだがな。


「……は?」


 ゴフッ、と血を流しながら呆然とするテロリスト()

 何故ならば敵は俺のダガーをきちんと受け止めている筈なのに、自分が斬られていたのだから。


「俺の剣術は少々特殊でな。ただ単純に硬いものを斬るだけではなく、強力な魔獣の外骨格越しに、いかに中の柔らかい部分を効率よく斬るのかなんかも追求して……」


 話している途中で勝手にこと切れた敵を横目に、俺はさっさと踵を返し、次の獲物に襲いかかる。


 今度の敵は近くで俺の剣技を見ていたからか、不用意に接近せずに魔法武器で俺を狙ってきた。


「チャーリー・ワンも殺られた!

 この化物め、これでも喰らえッ!」


 前世で見たフリントロック式の拳銃みたいな形の武器をこちらに向けて、叫びながら引き金を引く。


 どうやらあらかじめ”爆発”の魔法式が込められている魔弾を相手にぶつけて、殺傷を行う武器のようだ。


「ウィンディ」


 俺の呼びかけで察したのだろう。俺の体内から翡翠色の鎖が飛び出し、魔弾に絡みつく。


《ほうほう。こりゃまた原始的な構成をした魔法式じゃわい。これだけの希少材料を用意しておきながら、この程度の魔法しか封入しないとは勿体無い限りじゃが》


 ウィンディは基本お子様思考なおバカキャラではあるが、こと魔法に関する知識にかけては現世で並ぶ者はいないだろう。


「返すぞ」 


 俺は鎖をコントロールし、魔弾ごと相手の胸部に突き刺す。


 ドンッ!


 ぶつかった衝撃で魔弾が暴発する。一瞬でテロリストの上半身が消し飛んでしまった。


「ちっ、”風障壁”ッ!」


 派手に爆発してしまい、破片が客席にまで散ってしまう。それを防ぐために、俺は咄嗟に障壁を張った。


 脚を止めて客席に障壁を張ったため、俺は会場の舞台の上に立ち止まっている。


『敵影固定!デルタ班ほか残存メンバーは、該当マーカーに全力射撃ッ!』


 無線音が飛び交った刹那、俺に向かって数多の魔法弾が撃ち込まれる。


 ドガン!ドガン!ドガガガガッ!!


 乱射乱撃雨霰。あまりに多くの爆発が俺を中心に一箇所で発生したため、一時的に俺の周囲には魔力渦の滞留が発生していた。


「やったか!?」


 敵の指揮官っぽい奴が警戒しながらこちらに近づいてくる。


「…………なにっ!?」


 魔力渦が収まり、粉塵が漂う空間から、突如俺が飛び出てくる。

 そして、一瞬で正面の指揮官のような奴に手を伸ばし、魔鎖で串刺しにする。


「ぐはっ、バカなッ!」


 勢いを止めずに前進し、串刺しにしている敵は、他の敵からの攻撃の盾に利用する。


(”完全障壁”は、強力な防御結界を張れるが、一度使用すると暫く使用不能になる事と消費魔力が大きい事が欠点だな……)


 俺は鎖をしならせ、ボールのように敵に向かって男を投げつける。


 投げつけられた側は、受け止めるか無視すべきか逡巡してしまっており、俺はその隙を逃さずにダガーで一人づつ切り捨てていった。


「チックショウッ!!」


 次々と消えていく仲間に恐慌をきたしたのか、少し離れたところで無差別に周囲へと攻撃しようとするヤツが現れた。


 俺はそいつに向かって腕を伸ばす。


「”誘導爆裂風刃”ッ!」


 俺の掌から発生した、死の気配をまとわりつかせた黒い風は、ウィンディによって解析が済んでいる霧の中を『相手に感知されにくい』ような軌道を描いて対象者へと素早く接近していく。


「ギャァァァァァッッ!!」


 風が無防備な対象に接触した直後、そいつは全身を容赦なく切り刻まれ、もがき苦しみながら死んでいった。


 あまりにも無惨な光景に、近くにいた敵の仲間は呆然と立ちすくんでいる。


『これは警告だ。無様な事をするようならば苦しめてから、殺す。

 抵抗はしろ。お前達が騎士を名乗るならば』


 俺は風魔法を使って、遠距離にいるテロリスト達に警告の”声”を送った。


 敵の動きに動揺が見て取れる。


 これで無駄にプライドの高いアイツらは、逃げる事が許されなくなったわけだ。


 ───この後は、ただの作業に過ぎなかった。


 俺のような相手とやり合う場合、事前の対応訓練が必須だ。そしてそれを行えなかった段階で奴等の敗北は必然だった。


 俺は相手()が連携できないように巧く立ち回り、丁寧に各個撃破で敵戦力を刈り取っていく。


 結局、会場にいた全ての敵を殺し切るのに、10分もかからなかった。


 この主人公ってかなりの初見殺しですよね。

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