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ゲーム感覚

 黒ずくめの謎の武装集団の奇襲により、会場は一瞬にして地獄絵図の様相を見せていた。


 最初にあった上空からの攻撃は、何らかの魔法道具を使って土魔法”石弾”を一定の範囲内にばら撒くものだった。


 この魔法の殺傷能力は決して高いものではないが、『衝撃と畏怖』による場を制圧する効果は抜群に高く、その容赦のない猛火に曝された一般市民達は、身を縮こめて怯えきっており、嵐が過ぎ去るのを待つことしかできなかった。


 会場のそこかしこから、痛みに苦しんでいる人々のうめき声や泣き声が聞こえてくるのだが、受けた衝撃が強すぎて、逃げ出そうという意欲を持つ者はまだ現れていない。


 そんな中、俺達の試合を近くで観戦していた学校の警備担当や戦闘経験のある教師等は、いち早く立ち直ってテロリスト達に反撃する機会がないか模索しているようだったが、立ち込める白い霧のような煙幕と、学園に対してテロを仕掛けてきた連中の目的が分からない状況下では、多くの一般市民を巻き込むリスクを負ってまで攻撃を強行する事ができないようであった。


 俺のゲーム知識が正しければ、この突如攻撃を仕掛けてきた集団は、おそらく隣国のエクスバーツ共和国に所属する特殊部隊である『第一機動騎士団・第五〇一機動強襲騎士中隊』の精鋭達だろう。


 彼等は大国であるエクスバーツ共和国の中でも少数精鋭主義で知られており、その選抜試験では各原隊であらかじめ優秀との推薦を受けた希望者であっても、その合格率は1割に満たないものであるらしい。


 実際にゲーム時でも、彼等の凄まじいプロフェッショナルな仕事ぶりが遺憾なく発揮され、主人公や学園側の対応が後手後手に回ってしまい、敵の集団を学園から取り逃がす失態を犯してしまっている。


 結局は、精霊の助力を得て辛うじて船で海に脱出しようとしていた敵を港にて捕捉することができて、王女をギリギリで奪還するというイベントだったはずだ。


 俺はふと、先程庇ったリーゼをチラリと見てみた。

 そこには、先程までの威勢のよさが嘘みたいになりを潜め、震える指先で必死に俺へとしがみついている小さな少女がいるだけだった。


 ゲームでは、主人公達は数多(あまた)の修羅場を踏んでこのテロイベントを迎えていたため、ゲーム主人公(クリス)やリーゼ、メアリーも充分に戦うことができた。


 しかし、学園に入学したばかりの現段階では、素人に毛が生えた程度の実力しかなく、まともに戦えるのは修羅場経験が豊富な俺、サキ、フェリシアの3名だけだろう。


 俺は自分の採るべき選択肢を検討する。


 事を荒立てず、黙って王女が誘拐されるのを見過ごすというのも、立派な選択肢の一つだと思う。


 自ら進んで火中の栗を拾う行為は、賢い選択肢とは言えない。


 なぜならば王国には騎士団もあるし、交渉で身代金を払う事で王女をエクスバーツから取り戻す事もできるかもしれない。


 だが、そうすると確実に学園の権威は失墜し、王国の学園への介入は強まるだろう。


 そしてそんな中で俺の死亡フラグイベントが起こった場合どうなるのか。


 ……イベント発生後に、王国の騎士団によって軍法会議にかけられてしまうかもしれない。

 すると同じ罪状でも学園追放ではなく死刑になる可能性もあるぞ。


 むむむ、こいつはマズい。俺は脳をフル活用してゲームでの詳細イベントを思い出す。


 まぁ、現状では霧のせいで何も見えないので、とりあえず視界の確保を何とかするしかないな。


《ウィンディ、いるか?》


《もちろんじゃぞ、お前様》


 打てば響く感じでウィンディが即答する。


《この霧じゃ何も見えない。なんとか視界を確保したいんだが、できるか?》


《ふむ……この霧は魔法的にできた霧じゃから、風で散らすのは難しいのう。というよりも多分この霧に触れると相手からこっちの行動がバレそうじゃな》


《そうなのか……だったらウィンディ、”眼”を貸してくれ。それなら魔法的な霧の中でも有効そうだ》


《”妖精眼”はちと脳に負担がかかると思うが、良いかのう?》


《構わないからやってくれ》


《了解じゃ》


 瞬間、頭痛がして目がチカチカする。

 最初は輪郭もあやふやだった視界が、段々とピントが合い、周囲がハッキリと見えてきた。


「……!!」


 正直言うと、俺はこの時まで、まだ自分が不意のイベントに遭遇してしまったようなゲーム感覚(他人事)でいた。


 そんな自分に腹が立つ。


 ───そこはまさに地獄だった。


 頭から血を流してグッタリしている子供。


 その子供を抱えながらも何もできずに悲嘆に暮れている若い母親。


 痛みに苦しむ友達に必死に寄り添う若い学生。


 動かない母親に縋りつく小さな幼児。


 ……


 …………



 死亡フラグとかもう、どうでもいい。


 俺は一刻も早く、この茶番を終わりにし、助かる命には速やかなる救助を、惨劇を招いた招かれざる客には、然るべき報いを与えることを決めた。


 すっくと立ち上がった俺を、呆然とリーゼが見上げている。


「ウィンディ、やるぞ。力を寄越せ」


 すぐに俺とウィンディとの魔力バイパスを通じて、強烈な力の流入を感じる。


 手加減なしの全力だ。


「ほいほい……で、何をするのじゃ?」


  背中の隠しバッグから魔法の短剣(ダガー)を抜き放ちながら、ウィンディの質問に簡単に答える。


「ゴミ掃除だ」


 刹那、残影だけをその場に置き去りにし、俺は獲物に向かって疾駆した。

 次回へ続く〜。

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