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陰謀の始まり

 学園トーナメントの一般公開試合は、一試合づつ行われているようで、すでに第二試合まで終わっていた。


 第一試合は、我が校きっての才女との評判が定着したサキと、うちのクラスのもう一人のクラス代表者である少年との試合だった。


 試合内容は……もう一方的としか言えないものだった。


 サキは水魔法カテゴリの上級魔法である”創造:雪人”で巨大な雪だるま型のゴーレムを作り出し、対戦相手が涙を流して懇願するまで一方的にタコ殴りにしていた。


確かに”創造:雪人”は、殺傷度Cカテゴリ以下の魔法に該当されるのでルール上は使用に問題ないわけだが、元々が戦術系に分類される対軍魔法のカテゴリに足を突っ込む大魔法であるため、ただの学生相手にぶつけるには、あまりにも大人気(おとなげ)なさすぎた。


 なぜそこまで執拗に相手に対して屈辱を与えたのか後で聞いたところ、どうやら彼はサキの眼前で俺の悪口を言ったらしい。そしてその上でサキを口説こうとしたようだ。


 更に間の悪いことに「あいつはエドワードやクリスと仲良くしていればいい」と、サキを煽ったらしい。なぜか知らんが、サキは俺とクリスが仲良くしているのを物凄く嫌う。これでもかと嫌っている。


 つまり役満だ。こうして哀れな彼は、公衆の面前で要らぬ恥をかかされる事になってしまった。


 それだけ一方的にやられれば、さぞかし屈辱に打ち震え、サキに対する憎悪を滾らせているのだろうと思っていたが、あにはからんや、負けた後の彼の顔は、幸福に包まれていたらしい。

 そっちの方が怖いわ。


 なお、その後に行われた第二試合もすぐに終わってしまった。今度はフェリシアが登場し、相手はよく知らない別のクラス代表の男だった。


 男は試合前に、勝ったらフェリシアに交際を申し込むと宣言していた。

 それに対して、フェリシア親衛隊の面々(特にリーゼ)が怒り狂っていたが、フェリシアは快諾。

 そして試合が開始された早々に、フェリシアの焔の乱舞で男はキリキリ舞にさせられてしまった。

 強烈なノーの返事だった。


「すまないな。私は自分よりも弱い相手と付き合うつもりはないんだ。

 ……腕を磨いて出直してくれ」


 おい。なぜそこで意味深にこちらへと流し目を送るんだ。親衛隊や周りの連中からの殺気が増えたぞ!


 サキにしろフェリシアにしろ俺の心労を増やすんじゃない。


─────


 そうして迎えた第三試合。俺の出番だった。


「くっくっく。いきなりあなたが相手とは私は実に運がいい。

 親衛隊の第一の仮想敵であるあなたと戦えるのはまことに僥倖ですよ!」


 俺の相手は”狂犬”リーゼだった。


 適当に負けるつもりではあったのだが、リーゼが相手だと俺の降伏を認めずに、ねちねちと追加攻撃をしてきそうだった。


「私はあなたが憎かったのです、アルベルトさん!お姉様の愛を一身に受けて!

 ……きっと私の知らないところで、フェリシアお姉様といちゃいちゃ淫らな行為に耽って!あんなことやこんなことや!

 ちっくしょう!メッチャ羨ましいですッ!!」


 こいつヤベーな。向こうの方でフェリシアが頭抱えているぞ。


 こいつのペースで遣り合うと、要らん怪我をしてしまいそうだ。

 仕方がないのでここは俺主導で速攻を仕掛け、相手ががむしゃらに対応しているうちに、気がついたら俺が負けていた、というかっこいい演出を実行しよう。


 俺マジで策士だな。ククク。


「では行きますよ!」


「え?」


 俺が策を考えようと思った矢先に、せっかちなリーゼが速攻で仕掛けてきた。


「”身体強化”!……”精神高揚”!」


「ちょッ、早……」


 地味ではあるが効果的な魔法だ。”身体強化”はその名のとおり、魔法で基礎的な身体能力を底上げする魔法であり、近接戦スタイルを考えた場合使用は必須だろう。


 そして”精神高揚”は強制的にアドレナリンを分泌させて、戦闘時の疲労を感じにくくさせたり、打撲や打身程度だと痛みを感じさせなくしたりできる地味に使い勝手の良い魔法だったりする。


 ……小柄な美少女が使うにはあまりにも違和感のある魔法の組み合わせではあるが、元気に小太刀(こだち)型の木刀を腰だめに構えて吶喊(とっかん)してくるリーゼの姿には迷いが感じられなかった。


「クソがッ!」


 俺は闘牛の突進を避ける闘牛士(マタドール)の心持ちで、リーゼの吶喊を横ステップでぎりぎり避ける。


 しかしリーゼもさるもの。俺の素早いサイドステップに反応しようと、地面に前脚を打ち付けて強引にベクトルを回頭させてこちらに肉薄しようとしてくる。


「ぬぉぉぉぉッ!愛の、チカラッ!」


 吼えるリーゼ!


「アホかッ!」


 俺は無理な体勢から強引に打ち込んできたリーゼの小太刀を、自身の木刀で横払いに打ち据えた。


 結果、無理な体勢が祟って、リーゼは手から小太刀を放してしまう。

 しかも俺は小太刀を打ち払う方に集中してしまい、リーゼが無理な体勢で突っ込んでくる事には意識が向いてなかった。


「……あっ」


 まずい。このままだとリーゼは変な体勢で地面に転びそうだ。

 そう思った時、俺は無意識のうちにリーゼを抱き止めてしまっていた。


 俺の胸にすっぽりと収まってしまうほど小さくて華奢なリーゼ。


 なお、突進のベクトルは生きているため、俺はその力を逃すためにリーゼを抱えながら後ろへと吹っ飛んでいく。


 まぁ、慣性の法則だよね。


 ズザザザザザッ!


 背中の革鎧を地面と擦らせて、なんとか勢いを止めることができた。


「……真っ当な戦闘服を着込んでいて良かったな」


 俺は胸にリーゼを抱きしめながら呟く。

 ふとリーゼを見ると、林檎のように顔を真っ赤にしてこちらを睨んでいる。


「にゃ、にゃ、にゃんてふしだらにゃ……」


 ぶつかった衝撃が、あまりに強かったのだろうか。呂律が廻ってないぞ。


「おい、とりあえず早く降り───」


 その時、場の空気が急速に変化したのを俺は感じとった。


 俺は咄嗟にリーゼを庇う。


「な!え!ちょっ!心の準備がッ!」


 瞬間。質量が会場に襲いかかった。


 ドガガガガガガガガガッ!!


「キャアアアアアッ!」「うぁあああああッ!」「な、なんだっ?」


 周囲から阿鼻叫喚の悲鳴や怒号が上がる。


 俺の展開している魔法障壁にも衝撃が走る。


「地点Aクリア」「地点Bクリア」「地点Cクリア」……


 上空からラペリングで降下してきた黒塗りの揃いの革鎧を着込んだ連中が、連携しながら魔法道具を展開している。


 シューッ……


 そして間を置かずに、会場が急速に白い煙で覆われていく。


 俺はこの光景に覚えがあった。


 黒服の特殊部隊員達が見せる、高度に訓練された組織的な動き。


 緻密な状況シナリオ通りの、秒刻みの進行スケジュール。


 ゲームでの開始予定よりも数カ月ほど早いけれども。


 『第二王女拉致』のイベントにとても酷似したオープニングだった。

 リーゼかわかわ。

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