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学園トーナメント(8)

 とんかん、とんかん、とんかん。


「アルベルト(うじ)〜、そこの板も釘打ちしてほしいでござるよ〜」


「あいよ」


 カンカンカンカン。

 俺は無心で立て掛けてある木の板に釘を打ち付けていく。

 忍耐のいる作業ではあるが、こういった作業は得意だ。修行とダブるからな。


「……うーん。これで大体、ぼく達の割り当て分は終わりかなぁ?

 アルくん、お疲れ。はい、これ冷たいお茶だよ」


「さんきゅー、クリス」


 クリスから受け取った冷たいお茶が、俺の喉を潤す。とても気持ちがいい。


 俺が不本意にもクラス代表へ選出されてからすでに数日が経過し、学園トーナメントの一般公開は目前に迫っていた。


 しかしこの数日間は、本当に目まぐるしく忙しい日々だったな。


 なぜならば、学園トーナメントの一般公開に向けて、学園関係者総出でその準備に追われていたからだ。


 そしてその準備には、平等が売り物の我らが学園の校風がきっちりと反映されており、有力貴族の子弟である俺も、当然のように分け隔てなくこき使われていたのであった。


 うちの教室にいる貴族出身の中には反発するヤツもいたみたいだが、俺やロベルトが文句を言わずに働いていたので、内心はともかく皆良く働いていたようだ。


 だが解せぬ。


 クラス代表になり、仕事も文句言わずに働いているにもかかわらず、俺の評判が一向に上がる気配がない。これは一体なぜなんだろうか。


「それは簡単な理屈でござるよアルベルト(うじ)


 俺の疑問に訳知り顔で答えるエドワード。


「サキ嬢とフェリシア嬢という学園屈指の綺麗どころを侍らせておきながら、更にクリス氏という男女両方から好かれている逸材をキープしておるのですからな。それは嫌われて当然でござるよ。フヒヒ」


「クリスって、そんなに人気があったのか」


「あはは、どうだろうね」


 俺がちらりと見ると、クリスは苦笑を浮かべている。

 女がクリスを狙うのはまぁ分かるが、男がクリスを狙うとは、うちの学校の連中、マジで終わっているな。


「ま、とりあえず責任者に仕事完了の連絡を入れてくるが……追加のオーダーがくるやも知れんから、お前ら逃げるんじゃないぞ」


「アハハ、そんな事しないよ」


「そうでござるよ。アルベルト氏ならいざ知らず」


 いい根性してるな!


 ……まぁその後、やっぱり追加の仕事があって更にくたくたになるわけだが、なんとかトーナメントの準備は期日までに間に合ったのだった。


ーーーーー


 そして迎えた学園トーナメントの一般公開日当日。


 一般公開では、メインのトーナメントだけではなく、模擬店の出店や文化部のイベント等、様々な趣向を凝らすことで、市井の方々にも広く魔法というものに触れてもらい、その有り様を理解してもらおうと様々な取り組みがなされていた。


 ありがたい事に、俺、サキ、フェリシアはクラス代表としてトーナメントに出る関係で、当日のクラスの出し物に関しては手伝い免除の特典があった。


「正直面倒ごとが多くてくだらないイベントだと思っていたのですが、こうして御主人様とデートができるのでしたら、毎日開催されてもいいくらいですね!」


「……ねぇ、サキ?一応アルベルトの許婚になっている私もここに居るのだけれども」


 フェリシアのツッコミに、サキは答えない。サキは本当に強い娘だな。


 半分サキに引っ張られながら、俺とフェリシアは方々(ほうぼう)に顔を出していく。


 露店の一角に、大変に賑わったブースがあった。


「わぁ、凄い!くまさんが踊っているよ!」


「すご〜い!」「か〜わいい〜!」


 町の住民と思しき子供達が、ぬいぐるみの動物達が踊っている姿に拍手喝采を送っている。


 小さなセットの上でぬいぐるみ達がちょこちょこと動く姿は大変に愛らしく、女子供が喜びそうな光景だった。


 こんなファンシーな光景にも拘らず、俺達は醒めた目を向けてしまう。


「御主人様。これってあの(・・)人形楽団のブースですよね?」


「それしか考えられないだろう」


 俺達はひょいっと、学生しか入れないセットの裏側を覗き込んだ。


 ……


 …………


 地獄を見た。


 そこではエドワードみたいなむくつけき男達が、必死の形相でぬいぐるみ達を魔法でコントロールしている姿があった。


 彼らは学園でも有名な人形楽団の面々だ。


 彼らは本当に子供が好きだった。


 子供が好きすぎて、たまに官憲に拘束される事もあるくらいに極まった子供好きだった。


「良いか、同士達よ。我らは影。決して姿を見られることのなきように!」


「闇に隠れて生きる、俺たちゃロリコン人間なのさ!」「子供達()に姿を見せられぬ、子供が好きなこの身体!」


 ”防音”の魔法がかかっていて本当に良かった。うちの学園の評判が大変な事になるところだった。


「うわぁ……これはなんとかしないとダメね」


 さすがのフェリシアもこの光景にはドン引きだ。きっとフェリシア(女王様)の意を組んだ親衛隊が、数日以内にしかるべき措置を取るんだろうな。


 そんな地獄絵図を後にしつつ、俺達は次の模擬店へと向かう。


 お、店に見知った顔がいるぞ。


「よう、クリス」


「あれ、アルくん?トーナメントの準備はいいのかい?」


 クリスがうちの教室で出しているクレープの模擬店にて、売り子をしていたのだった。


 その格好はなぜかもこもことした魔法使い風であり、屋台とのミスマッチにコンセプトの混乱を感じさせるものがあった。


「俺は参加することに意義を見出す男でな。トーナメントでの成果は大して期待していない」


 俺はキリッとした表情を作って答える。


「普通はクラス代表として頑張るとか、格好良く言うところなんじゃないかなぁ」


 クリスは、俺の後ろ向きの方向に前向きな発言を聞いて苦笑している。


「御主人様はいつでも格好いいのですよ!」


 サキが憤慨して会話に割り込んでくる。ええい、面倒くさい娘め!


「俺の事はどうでもいい。ところで、なんでお前一人で売り子をしているんだ?」


「アハハ……実は色々とあったけど、ちょっと理由は言いたくないなぁ」


 愁いを帯びたアンニュイな顔。ひょっとして虐められている、とかか?


「そうか。……もし何か手伝いがほしければ言ってくれ。いつでも力になる」


 そう言ってキリッとした表情で気遣いを見せる俺。できた男だぜ。


「……あー、何か凄い勘違いしているみたいだけど、別にぼくが虐められているとかそういうのじゃないからね?

 かなり当人達以外にはどうでもいい事で他の売り子のみんなが喧嘩しちゃって、ぼくが残っているだけだよ?」


「分かった。そういう事にしといてやる」


「もう!いいから注文してよ!」


 プンプンと怒るクリス。怒っていてもほんわかオーラは健在だ。

 俺達は適当にクレープを頼み、クリスに別れを告げて模擬店を後にした。


「ああ、私は幸せですね」


 ぱくりとクレープを食べつつ、ポツリとつぶやくようにサキが言葉をこぼす。


「外敵に怯えることもなく、好きな人と好きな物を食べて毎日を過ごせる。私はとっても果報者です」


「サキ……」


 フェリシアが優しい眼差しをサキに向けている。


 毎日が幸せ……かぁ。まぁ確かに、学園生活が始まってからは穏やかな毎日だしな。


 だが俺は知っている。今はゲームで言うところのチュートリアル期間に過ぎない事を。

 今後この学園や俺達に襲いかかる数々の困難を。


 そして今はまだ、隣国においても水面下でだけ計画が動いている、今年度末に起こる俺の運命を決める重大イベントについても、いつかこいつ等に話さなければならない時が来るだろう事を。


「さて……そろそろ会場に足を運ぶか」


「はい」「そうね」


 俺達は、束の間の休息を満喫したあと、サキとフェリシアを伴って会場へと向かうのだった。


 俺の予想よりもずっと早く、運命がすでに動き始めていることも知らずに。

 ちなみに売り子達の喧嘩の原因は「アル×クリ」と「クリ×アル」の派閥対立です。どうでもよかったんで本編では割愛しましたが。

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