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学園トーナメント(6)

(前話のあらすじ)

アル:上手いことクリス相手に降参してやったぜ!

教授:試合続行な。

「え、教授?試合見てましたよね?」


「ああ、見ていた。『上手い演技』だったな」


 俺は困惑してしまう。シミラー教授に演技を見破られていたのは正直意外だったが、それでも充分に負けを認めてもよいと思えるくらい、クリスの攻撃は素晴らしいものだったと思うのだが。


 その旨を教授に伝えたところ、「それは俺も認めるところだが……本人が全く勝ちを認めていなさそうだからな」との反応が返ってきた。


 俺はハッとして、目をクリスに向ける。


 クリスは……悲しそうにも悔しそうにも見える表情を浮かべ、目尻に涙を浮かべていた。


「アルくん、少しはぼくに本気を見せてくれよぉ……

 それとも……ぼくはそんなにも信頼できない弱い相手なのかなぁ……」


 別に何も悪い事はやっていないはずなんだが、なぜだか罪悪感を覚えてしまう。


「…………」


 それ以降、お互いに無言のまま時間だけが過ぎていった。


 ちらりと武術教室の柱時計を見る。残り時間が3分を切っていた。


「はぁぁぁぁ……しゃーねぇーなぁ……」


 ガシガシと右手で髪を掻きむしった後、俺は吐き捨てるようにそう言った。

 クリスの無言の圧力に根負けした俺は、腹筋の力だけで、よっと起き上がる。

 そして身体についた埃を適当に払い、身だしなみを最低限整える。


「おい、ウィンディ。ちょっと周りの連中の目を誤魔化せ」


 ガッテンじゃ、との声が風に乗って聞こえた瞬間、ギャラリー達の周辺で強風が吹き荒れた。


「キャッ!」「な、なんだ、なんだ!?」「誰か風の魔法使ったのかッ!?」


 周囲は騒然としている。よし、これでこちらに注目しているヤツは皆無になっただろう。


「クリス、お望みどおりちょっとだけ揉んでやる」


 根負けした俺は、クリスに苦笑いを向ける。


「うんっ、ありがとう!!」


 ぱぁぁぁぁっと、花が咲くように表情が明るくなるクリス。

 チッ、相変わらず男のくせに可愛い顔しやがって!


 俺は一度深呼吸する。そして体内の魔力(マナ)を練り上げるため、意識を集中する。


 俺の魔力の高まりに呼応するように、クリスの方も精神集中し、身体中の魔力を高めていく。


 俺は練り上げた魔力を拳に集約し、半身(はんみ)の姿勢で腰を落とし、正中線を正す。


「……一撃だ。一撃だけ本気を見せてやる。死にたくなかったら全力で防げ」 


 無言で頷くクリス。俺の一撃を受け止めるべく、両手を重ねて正面に突き出し、障壁を張る準備をしている。


 俺が正面から攻撃することを疑わないその純粋な信頼に、俺は思わずニヤけてしまう。


「往くぞッ!」


 俺は火薬が炸裂するような爆音を伴って地面を蹴り、瞬時にクリスとの距離を詰める。


「”天奏羽盾壁”ッッ!!!!」


 クリスの天にも届かんばかりの高らかな叫びと同時に、立体状に幾層も重なった、天使の羽があしらわれた眩く光る金色の円盾がクリスの前面に現れた。


「”暴風穿拳”ッッ!!」


 俺はクリスの作り出した障壁のド真ん中に、風の穿孔(ドリル)を纏った右拳を撃ち込む。


 キィィィィィィンッッッ!!


 音速を超える風の螺旋が、天使の防壁群を穿(うが)つべく、突き進む。


 ギャインッッ!!


 俺の拳から放たれた螺旋の暴風が、クリスの防壁を1つ撃ち抜いた。


 そしてすぐさま次の光の盾に阻まれて、再び甲高いスキール音が聞こえてくる。


 キュイィィィィン!ギャインッッ!……キュイィィィィン!ギャインッッ!!


 風の穿孔(ドリル)は、丁寧に1つずつクリスの光の盾を撃ち抜いていき、どんどんクリス自身に肉薄していく。


 風の螺旋は、盾を穿つ毎に、当初の勢いは無くなっていくものの、それでも勢いに翳りは見えず、ついに光の盾はあと一つを残すのみとなってしまった。


(まぁ、こんなところだろうな)


 想定よりもクリスはよく頑張ったと思う。だが、彼の魔力はもう限界だろう。


 俺はクリスにそろそろギブアップするか声をかけようとしたのだが、どうもクリスの様子がおかしい。


「……まだ……」


 ん?


「……まだ、終わらないッ!」


 クリスは更に己の魔法力を高め、防壁の強度を高めていく。


「おいおいおい!」


 今まで手を抜いていたのか、という位の凄まじい魔力の奔流だった。

 一体どこからこんな魔力が出てくるんだよ!


「ハァァァァァァッ!!」


 あれ……金……色?

 クリスから放たれている魔力の色は、金色だった。


 属性には色がある。

 風属性の俺は緑、水属性のサキは青、火属性のフェリシアが赤といった具合にだ。


 そしてクリスから放たれている金色は───


 光属性の証だった。


 一心不乱に俺の魔法を防いでいるクリスは、黄金の光に包まれている。そして、それに照らされた黒髪改め、藍色(・・)の髪は……蒼く輝いて見えた。


「ハァァァァァァッ!」


 キィィィィィィンッ…………


 光属性が加わり強度をました光の盾は、俺の魔法を完全に相殺しきった。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 全力を振り絞ったクリスは、荒い息を吐きながら、きらきらした笑顔を俺に向けてくる。


「えへへ……どうだっ!ぼくも結構やるもんだろ?」


「いやぁ……大したやつだ。正直、見直した」


「ふふん♪」


 クリスは胸を張ってこちらに微笑んでくる。

 光に照らされた(あお)にも見える藍色の髪……光魔法の使い手……薄々予感はあったが、ひょっとしてクリスは───


 ビリッ。


 突然、クリスからなにか絹を裂くような音が聞こえた。

 瞬間。クリスの戦闘服の胸部が、唐突に小さくポンッ、と膨らんだ。


「!@¥%&+!!」


 顔を一気に真っ赤にしたクリスが、くるりと後ろを向き、物凄い勢いで会場を走り去っていく。


「…………」


「クリス、場外。勝者、アルベルト!」


 その背中を呆然と見送る俺に、審判のシミラー教授が淡々と俺の勝利を告げる。


 俺は一瞬の出来事に唖然(あぜん)とする。


「俺が勝ってどうする……」


 俺の(つぶや)きに対して、誰からも返事はなかった。

 最近、PVやptがすごい勢いで増えてて、ビビりまくってます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 走って逃げて場外負け扱いなら アルベルト君も初戦からすればいいのでは? 知らなかったにしても相手の攻撃をワザと受けて 場外に飛んでいくとかで簡単に負けれたはずでは?
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