学園トーナメント(4)
本日の試合は全て終わった。明日はトーナメントの3回戦と4回戦が行われ、クラス代表が決まる予定である。
2回戦を勝ち上がったのは俺を含めて4人だ。優等生であるロベルトの勝ち上がりは順当だったが、なんとクリスも勝ち上がっていた。
「いよいよ明日、我が教室の代表者2名が正式に決定される。外部にも公開される学園トーナメントには、来賓として王族の方も来られるそうだ。
候補に残った8人のうち、選ばれる代表の人数は2人。代表者に選ばれた場合、その王族の方と直接お話しする機会があるかもしれんぞ」
シミラー教授がみんなに発破をかけている。
あー、確かこの時来る王族は、エリカ王女だったはずだ。
この人は王国の第二王女であり、シミラー教授みたいに舞台裏でゲーム主人公に協力するサブキャラだったと思う。
ゲームの展開だと、このトーナメントで主人公に興味を持ち、後に隣国の特殊部隊に拉致されかけたのを主人公が助けた事で淡い恋心を抱くんだったかな?
まぁ、とりあえず今回は関係ないからどうでもいいか。
ホームルームが終わり時刻は放課後だ。
クリスから大事な話があると言われて、俺は体育館裏に呼び出された。
用件はまぁ、さっきの試合絡みだろうな。
ーーーーー
体育館裏で待っていたクリスは、いつものニコニコ顔が鳴りを潜めており、緊張した眼差しでこちらと向かい合っていた。
「アルくん、来てくれてありがとう」
「……まぁ、お前に呼ばれたからな」
俺は多少警戒しながら受け答えをする。
「ぼくの事を友達だと思ってくれているのなら、ぼくの質問に率直に答えてほしいんだ。
アルくんの召喚したあの精霊は、一体何者なんだい?あの精霊は……あの夜に魔女が連れていた精霊ととてもよく似ているんだ。
……ひょっとしてキミは……あの魔女の関係者なのかい?」
クリスはいきなり訳のわからない事を言ってきた。魔女?全然わからんぞ。
「待て待て待て、クリス!お前の言っている事はさっぱり意味が分からないぞ!」
「人型を取れる精霊は、普通は上級精霊以上の霊格があるんだよ、アルくん。
それを自在に召喚できるだなんて、王国の宮廷魔法士にだってムリさ。
……そんな事ができる魔法使いが、ただの学生に身をやつしているなんて、なにか裏があるに決まっているじゃないか!」
しまったな。俺の行動方針が裏目に出てしまい、クリスに何かしらのいらん誤解を与えてしまったようだ。
ウィンディは、紆余曲折を経て1年前に俺の魂の隙間に勝手に寄生しているだけの風の精霊王の一部だ。
だから基本的に術者が精霊界から召喚する類の真っ当な精霊とは毛色が全然違うぞ。
俺は大きく溜息を吐き出す。
「……どうやらクリスはそもそも大きな勘違いをしているようだな。俺はそんな魔女なんかの知り合いでもないし、直接精霊を召喚しているわけでもないよ。
おーい、ウィンディ。ちょっと出てこい」
俺の呼び出しでウィンディが姿を現す。
ちんまいボディは相変わらずだが、風魔法で無駄に髪の毛を浮かべたり、空中から俺達を睥睨しながら地面に降り立ったりと、過剰な演出を付け加えている。
「汝、人の子らよ。この場に我を喚ぶからには相応の供物が必要なるぞ……具体的には今晩のご飯の時にカラメルソースのたっぷりかかったプリンを……」
「喧しい」
ポカッ。
「い、痛いのじゃぁぁぁ!じどーぎゃくたいなのじゃぁぁぁ!」
頭を押さえて涙目で蹲るウィンディ。面倒くさい場面で更に面倒くさい事をするんじゃない!
突然のウィンディの登場にびっくりしているクリス。
「えーっと確かクリスという名前じゃったかのう、お主。
ワシは風の精霊王のウィンディじゃ。気軽にウィンディちゃんと呼ぶがよいぞい。
さて、お主が見たというワシのマネっ子について詳しく話すがよい。聞いてやるわい」
さっさと立ち直ったウィンディが、薄い胸を反らして自己紹介をする。コイツ本当にタフだな。
「……えっ!?か、風の精霊王様ッ!?」
狼狽えて頭を下げてくるクリスを見て、ご満悦のウィンディ。こちらをちらりと見て呟く。
「これじゃよ、これこれ。これこそが精霊王に対する正しい人間の態度なのじゃよ、お前様」
このちびっ子、ドヤ顔である。
「クリス。コイツは確かに風の精霊王だが、所詮はその極一部に過ぎないからそこまで能力が凄いってわけじゃないぞ。
それに今は俺に取り憑いている浮遊霊みたいなもんだから居候、もしくは穀潰しみたいなもんだ。
だからあまり褒めて、つけ上がらせないでくれよ」
俺のざっくばらんなウィンディへの扱いに、クリスは苦笑いを浮かべる。
「スケールが大きすぎてぼくには全く理解できないよ」
ただウィンディのお気楽な感じが場の雰囲気を和ませたのか、先程までの緊迫した感じはなくなっていた。
ウィンディ、そこはGJ!
「クリス、何かしらお前の力になれるかもしれない。その魔女とやらについて俺達にも教えてくれ」
「……うん」
こうして俺達はクリスから魔女についての話を聞いた。
どうやら彼の兄貴は彼と双子の関係があり、その魔女に拐かされて家を出ていってしまったとのことだ。
そして平民であるクリスが無理をしてこの魔法学園に入学したのも、少しでもその兄貴の消息を追いたかったからだそうだ。
健気すぎて泣ける。
そういえばゲーム主人公は男女の双子設定だったな。
もっともあちらは、ゲーム導入部にて選ばなかった性別の方が事故で死ぬというファンからボロクソに文句言われた導入部だったわけだが。
詳しく魔女の話とその使役されていた精霊について聞いてみたが、闇夜だった事や魔女がフードを被っていたため詳しい容姿や能力については分からなかった。
唯一の手がかりは、その精霊の髪の色も、魔女の髪の色も真っ白だったことくらいだ。
「うーむ、ワシの知り合いに白髪の精霊なんておらんぞ。
そもそも精霊の髪の色は属性に強く影響を受けるのじゃ。ワシの緑の髪色は風属性ゆえじゃし、闇の精霊王だったら黒色という風にの。白色の属性なぞワシは知らんわい」
「…………」
俺は白色の髪と聞いて戦慄した。風の精霊王ですら知らない白髪の精霊。
実は俺には心当たりがあった。
ゲームでの俺は、ただの操られていたモブの悪役に過ぎなかった。
アルベルトがゲームから退場した後、その姿を現す真の敵。
そいつは、自分の使い魔として白髪の『時の精霊』を使役していた。
そしてそいつ自身は、『時空魔法』の使い手だった。
「ん?お前様、どうしたのじゃ?」
「……いや、何でもない」
そいつこそは、ゲームのラスボスの眷属にして、主人公達の宿敵となる白髪の妖艶な美女。俺の死亡フラグの大元と言っても過言ではない、ヴリエーミアと呼ばれる恐ろしい女だった。
最近、プロットにあるぼんやりとした設定を肉付けしているのですが、整合性に不安ががががが……




