学園トーナメント(3)
「あ、ご主人様!」
食堂にはサキとフェリシアが先に到着しており、俺達の席を確保してくれていた。
「よ。すまんな」
確保していた席は4人掛けの席だった。
俺は同性同士で、俺とクリス、サキとフェリシアの並びで座ろうと思っていたのだが、ぶつかるような勢いで腕を絡めてきたサキが、俺の横の席を強引に確保した。
そして苦笑しながらサキの対面の席に座ったクリスに対して、じろりと睨みつける。
そんな威嚇する猫のようなサキの姿に、流石の俺もちょっと眉をひそめる。
「サキ。流石にその態度は少しどうかと思……」
「ご主人様は、ちょっと黙っていてください。これは私達の問題ですから」
「……うぞ」、と言い切る前に、被せるように拒絶の言葉をかけてくるサキ。
怖い。
「まぁ、まぁ、まぁ。取り敢えず昼食をとりましょう、ね。サキ、クリス、それでいいわよね?」
イエス以外の言葉を受け入れるつもりのないフェリシアが上手く間をとりもってくれたため、その後はつつがなく昼食がとれた。
しかし、最後までギスギスとした雰囲気が残った。サキは一体どうしたのだろうか?
ーーーーー
午後になり、2回戦が始まった。
まず最初に、1回戦を勝ち上がった7人とシードの俺の計8人で、シミラー教授が準備したくじ箱を使って、改めて対戦相手を決めるくじを引いた。
そしてその結果、4つの組み合わせが確定した。
どれどれ、俺の対戦相手は――――
「くっくっくっ。どうやら我輩とアルベルト氏は、戦う宿命にあるようでござるなぁ」
あー、コイツが俺の相手かー。
俺の目の前には、見慣れた巨漢の男が仁王立ちをしていた。
《うー、気持ち悪いのじゃあ〜》
俺の横で浮いているウィンディがゲンナリとした顔をしている。
「ぐふふ、先程の試合にて我輩は新しい奥義を修得したでござるよ。
躊躇はせぬ、アルベルト氏に早速披露しようず!」
そう言うとエドワードは、謎の荒ぶるポーズをとって呪文を詠唱し始める。
「永久の闇より来たる至高なる闇の精霊王よ、古より結ばれた我との血の盟約に従い、その力を我に授けよ!」
《んー、闇の精霊王は普通に精霊界に住んでおるし、誰かと盟約を結んだ事もないと思うがのー》
精霊界の内情にとびきり詳しい風の精霊王サマが、エドワードの適当な呪文にブツブツとケチをつけている。
(とりあえずショボいの一発喰らってサッサとリタイアしよっと)
俺は無防備なままで長々と意味のない呪文を唱え続けているエドワードを半眼で見つめながら、溜息をついて見守った。
「ぐふふ……それでは行くでござるよ!
闇魔法究極奥義、”闇の結界”ッ!!」
エドワードを中心に暗闇が広がっていく。
完全な暗闇ではないが、メインフィールドの結構な部分を塞いでいるため、確かに見えにくい。
魔法構成は初級で、規模は中級といったところだろうか。
しかし『ダークネスグレンツェ』って……
確かにこの世界の言葉って英語等の言葉に近いような気もするが、なぜよりによって英語とドイツ語を混ぜたような言葉にするのか。
中二病世界の奥深さにちょっと感心していると、突然隣から凄い悲鳴が聞こえてきた。
「ギャアァァァァァッッ!!っこ、っこ、コワいのじゃあァァァァッッ!!」
暗闇の中をノソノソとこちらに近づいてくるエドワードが相当怖かったらしい(確かに女子供には中々見せたくない絵面だ)。
涙と鼻水を流して俺にくっつこうとするウィンディ。
コイツは俺にくっつくとそのまま実体化するクセがあるので、この場でくっつかれるのは大変マズい。
さっさと一発貰って降参する予定だったが、ウィンディを落ち着かせるために、仕方なく俺はエドワードから距離をとる。
「あれぇ、アルベルト氏〜 ?
どこに行ったでござるかぁ〜?」
暗闇の中でキョロキョロとこちらを探すエドワード。
どうやら自分が作り出した魔法であるにもかかわらず、自分だけ自由に見えるといった作りにはしていないようだ。
「ん〜、暗すぎてよく見えんでござるよ。この魔法は、一定時間が経たないと効果が消えないのがネックでござるなぁ……」
そう言ってエドワードは懐をゴソゴソと漁り、
何かの道具を取り出す。
あー、あれはトーチか。古代帝国で数多く使われていたため、たくさん現存しているし、ちょっと性能は落ちるが今の魔法技術でも作製可能なため、そこそこ裕福な家なら大抵あるような代物だ。
「ポチッとな」
謎の掛け声と共にスイッチを入れるエドワード。
フィーン……と高周波音が鳴り出し、ポッと明かりが灯される。
下を向き、光源を見つめていたエドワードが顔を上に向ける。
丁度顔の下からライトが照らされるような形になった。
奇妙にニタリと笑った顔が闇の中から浮かび上がった。
「ギャアァァァァァッッ!!」
俺はヤバいと思ったがもう遅い。
急に実体化したウィンディが、止める暇もなく俺から魔力を吸い上げて魔法弾を作り出す。
「あっちへ行くのじゃ、バケモノォォォォォッッ!!」
目を見張る速度で魔法弾をぶっ放すウィンディ。
「ウァラヴァッ!」
そして見事に顔面直撃ヒットして綺麗な放物線軌道を描いて空を舞う巨漢。
そのまま場外まで飛んでいき、エドワードは地面と派手にキスをしたのだった。
「……エドワード場外!勝者、アルベルトッ!」
一瞬だけちらりとこちらを見た審判のシミラー教授は、ウィンディの事には触れずに淡々と勝者のアナウンスをする。
「コワかったのじゃ……コワかったのじゃ……」
えぐえぐと俺にしがみついて泣いているウィンディを隠すために、俺は咄嗟にエドワードの魔法に被せて”幻影”の魔法をかけた。
「よしよし、もう怖くないから泣き止んでくれよ」
幸い、俺とエドワードへの注目は少なく(運良く同時開催されていた優等生のロベルトの試合に多くの注目が集まっていたのだ)、決定的な瞬間は多くの人には見られずに済んだ。
しかし審判のシミラー教授とあと1人は確実にウィンディの姿を目撃したと思う。
「…………」
無言で俺の方を見つめているクリス。
俺は敢えて見て見ぬフリをした。
お盆の季節なのでちょっとだけホラー要素を取り入れました。




