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学園トーナメント(2)

 学園トーナメントのクラス代表者を決める試合が始まった。

 とは言っても俺はシードなので2回戦が始まるまでは暇なわけだが。


 俺はぼんやりと知り合いの姿を追う。


 お、エドワードが試合を始めるな。

 相手は以前に俺が声をかけてデート寸前までいったが、サキのせいで脈がなくなったボブカットの女の子だ。


 エドワードは、いつもの俺に対する尊大で饒舌な姿とは違い、背中を丸めてえらく静かだった。


 一方、誰に対しても笑顔満点な女の子の方は、今日も元気はつらつだ。


「エドワードくん、今日は試合頑張ろうね!」


「ぉ、ぉぅ……」


 小さな声で、素っ気なく返事をするエドワード。いつもの覇気がまるでない。目は左右に泳いでいるし、決して女子と目を合わせようとしないのだ。


《えーと、これはあれじゃな。久しぶりに女の子に声をかけてもらえて舞い上がっておるんじゃが、それを女の子に悟られまいと自分なりにクールを装っているという痛々しいアレじゃ》


《なるほどそいつは確かに痛いな》


 俺は腕を組み、”念話”を使ってウィンディに返事をする。

 だって口頭で返事をすると、空に向かって一人でブツブツ呟くという姿になってしまい、俺のレベルが一気にエドワードレベルにまで降格してしまうリスクがあるからな。流石にそれは避けたいところだ。


 俺はエドワードの勝敗なんて全く興味がなかったので、もう一人のクラスの友人であるクリスの方に足を向ける。


 お、いたいた。


 クリスは、小柄な身体を学園支給の標準的な戦闘服に身を包み、目を閉じて精神集中をしていた。


 相手は下級貴族の少年だ。真面目な学生らしく、しっかりと装具の点検をしている。


「では4組ずつ同時に試合を行う。安心しろ、審判のために補助の講師達にも来てもらっているからな。

 ルールは最初に説明したとおり、殺傷度Cカテゴリ以下の魔法のみ使用を許可され、武器は素手か木刀や訓練用ナイフといった非殺傷用の物に限られている。

 試合は10分間で決着がつかない場合は、審判が各種評価ポイントに基づいて判断する。では、始めッ!」


 シミラー教授の合図で試合が始まる。

 クリスは木刀をオーソドックスに正眼に構え、相手からの攻撃に備えている。


 相手の少年は、小手調べとばかりに訓練用ナイフでクリスに対して接近戦を仕掛けてくる。 


 しかしクリスは冷静にリーチの長い木刀を使って、自分の間合いの中に相手を入らせない。


 接近戦の不利を悟った相手は、バックステップで距離を取り、次の手として”火球”の魔法を使った遠距離戦を仕掛けてきた。


 しかしクリスは遠距離戦には応じず、木刀に”魔力付与”を施したうえで、火球を弾き飛ばしながら、彼我の間合いを縮めていった。


 相手も頑張って火球をぶつけてくるものの、クリスの集中した木刀捌きによって全て防がれたうえで、徐々にその距離は短いものとなっていった。


 相手は一か八かの策として、特大サイズの”火球”の魔法をクリスに向けてきた。

 しかしクリスはそれを読んでいたのか、自分から相手方向に突っ込んでいき、”魔力付与”された木刀を使ってその特大サイズの火球を上手に受け流し、一気に相手との距離を縮めた。


「ヤァァァッ!!」


 流れるような所作で木刀を相手の胴に打ち込むクリス。


 ”火球”の魔法に集中していた相手は、その鋭い木刀を避けきれず、奇麗に胴へともらっていた。


「一本、それまで!

 ……勝者、クリス・ソシュール!」


「やったぁぁぁッ!」


 両手を上げて勝利を喜ぶクリス。


 以前、魔法は苦手だと謙遜していたが、なかなかどうして”魔力付与”(エンチャント)の魔法は構築も早いし丁寧な魔力錬成だった。


 惜しむらくは魔法式の構築が丁寧過ぎて、学生相手には通用しても実戦では事前に潰されて終わりそうなところだな。

 ただし、磨けば十分に使えそうな素質を感じるので、機会があったらそれとなく指導してやろうかと思う。


《むむむむむ》


 ふと隣を見ると、ウィンディが眉根を寄せてクリスを凝視している。


《どうした、ウィンディ?》


《いや……何でもないわい。ワシの気のせいじゃな》


 クリスから視線を逸らすと、ウィンディは何かを振り払うようにブンブンと首を振っていた。


《なら良いんだが》


 試合を終えたクリスがこちらに気付き、笑顔で手を振ってくる。汗をかいている姿が男のくせに妙に艶かしく、俺は慌てて視線を横に逸らしたのだった。


ーーーーー


 昼休みとなった。


 全員1回戦が終わり、昼休み終了後に2回戦が始まるとのことだった。


「おーい、クリス、エドワード。一緒に食堂行かねーか?」


 後から聞いたのだが、なんとクリスだけではなくエドワードも1回戦を突破していたのだ。


 俺は、エドワードのあのキョドリっぷりから、1回戦で絶対にあの女子に負けるだろうと思っていたのに、予想に反して勝ち上がってきたので少しコイツを見直した。


 どんな戦いぶりだったのか、食事をしながらでも聞こうかと思っていたら、「勝つために新しい戦法を編み出したのだぜ。2回戦が始まる前に、修行をしておくのだぜ」と、言い残し足早に去っていってしまった。


「多分、アルくんと一緒に食事を取ると、高確率でサキさんとかフェリシアさんみたいな美人がついてくるから、気後れしただけだと思うよ」


 クリスが苦笑しながらそう解説する。


「そういうもんかねぇ」


 俺は軽い気持ちでクリスに返事する。


「アルくんはいつも一緒に居るから、美人に耐性がついちゃっただけじゃないかな。

 ……やっぱりあの2人と比較しちゃうと、大抵の人は気後れすると思うよ?」


 クリスはちょっと寂しそうに笑った。


 俺はちょっとクリスの物言いに違和感を覚え足を止める。


「あっ……」


 俺が急に立ち止まる事を予想してなかったクリスは、俺に軽くぶつかってしまい、地面に倒れそうになる。


「危ないっ!」


 俺は咄嗟にクリスの腰を支えてクリスが倒れるのを防いだ。


(うわっコイツ男のくせにいい匂いがするな。それに腰も細いな……)


「あっ!……ありがとうアルくん……」


 慌てて俺から距離を取るクリス。なぜか頬がちょっと赤い。


「……じゃあ、食堂行くか」


「……うん」


 俺はなぜか感じている恥ずかしさに戸惑いつつ、クリスを伴って食堂に向かう事にした。

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