アルベルトくん14歳。プロローグ
切りどころが無かったので今回はちょっと長めです。
あと見切り発車で書いてしまっているのでちょっと話の整合性に不安ががががが。
「ご主人様~、お・は・よ♪」
目が覚めて早々に俺の専属奴隷のサキが甘ったるい声をかけてきた。
すけすけの際どい格好で、寝ている俺に跨がりながら。
掛け布団はすでにベッドの外に放り投げ出されており、簡易な平服をパジャマ替わりに着ている俺に対して、薄い生地のベビードールみたいな下着姿のサキは大変艶めかしい雰囲気だった。
跨がった部分をすり付けるように動かしながら蠱惑的に微笑んでくる悪魔。
(そういえばこいつと知り合ってからもう2年くらい経つのか)
俺も14歳となり、運命の魔法学園入学まであと1年、断罪イベント発生まであと2年となった。
これまで4年間、死か追放が待っている俺の呪われた運命を覆すべく、一生懸命努力してきた。
すっかり大きくなった身長は、それに負けないようしっかり鍛えて充分に動ける身体になっていた(余談だがそれでも対身長比で見るととても細く見える。ゲーム時代の俺は横も凄かったのでさぞかし押し出しが立派だったことだろう)。
また剣技についてもすでにその技量は専属の指南役だったボナディアのそれを凌駕し(実はボナディアは我が領でも1、2の実力を誇る腕前だったらしい)、今はひたすら実戦で鍛える毎日だ。
魔法に関しても大いに努力をしているところなのだが、どうしても長い詠唱が必要な高等魔法よりも、実戦で使いやすい中級魔法の方ばかり練習が偏りがちになってしまっている点は問題であろう。
「ご主人様!ご主人様!」
世間様でも俺の評判は悪くないらしい。考えてみればデブで傲慢でサディストだったのは遥か4年も前の事だ。
今の俺は品行方正で見目麗しい貴族の少年。
大丈夫だ。俺の破滅エンドは絶対に訪れない!
「ご主人様~だんまりを決め込むんでしたら私の誘いをOKと見做してそのまま童貞貰っちゃいますね♪」
「止めんか、バカたれ~ッ!」
エイやっと腹筋だけで上半身を起きあがらせてサキをベッドの上から追い落とす。
くるりと猫のように床に着地しながらニヒヒ、と笑いかけてくるサキ。
そうだこいつはサキ。俺をバッドエンドへと誘う破滅の少女その1だ。
出会った頃も可愛かったが、2年経って14歳となったこいつは(ゲーム設定通りだと同い年なのだ)、傾国の美姫と言われても全く違和感がないレベルの美貌の女になっていた。
すらりと細い手足に人形を思わせる白磁の肌と整いすぎた顔立ち。
枝毛なんてなさそうな腰まで伸びているストレートの黒髪にぴょんと飛び出た亜人の証である獣耳。
そして身体を包むベビードールみたいな下着の奧には男を悦ばす事にしか使い道のなさそうな細いスタイルに不釣り合いな豊満な肢体が蠢いていた。
「ふふふ、舐め回すように私を見ちゃってますね。惚れ直しましたか?」
こいつは悪魔だ。
なぜならばもし俺がこいつの色香に負けて襲いかかったとしよう。
恐らくそれがトリガーとなり俺の破滅エンドが確定してしまう。
その証拠にゲームでは俺に襲われて処女で無くなったことをこれでもかこれでもかと繰り返し自虐的に嘆いており、その事に対してゲーム主人公(設定で男女どっちも選べた。だから性別によっては恋人ルートやレズルートに分岐したりする。どっとはらい)が時に優しく、時に厳しく全力で受け止めて、最後には愛という尖塔を築き上げていくのだった。
(まぁその恋のスパイスとして俺が殺されちゃうんだけどね)
胸くそ悪いデブの悪役貴族がスカッと殺されるのは主人公に感情移入しているときには大変爽快感があるものだが、逆に殺される側になった身としてはたまったものではない。
だからこそ目の前で揺れる美味しそうな人参を我慢するのが常考なのだ。
(でもやっぱり惜しいよなぁ)
ここ2年ほどのサキとの暮らしを考えてみるに、明らかにサキは俺に対して悪くない感情を持っているハズだ。それは間違いない。
俺を悩殺しにかかっているのは多分その文脈で合っていると思うのだが。
(だから手を出しても、多分、大丈夫)
例えその先に。破滅だけが待っていたとしても。
俺はふらふらとニヒヒと嗤う淫魔の色香に惑わされかかるが、ちょうどそのタイミングで部屋の外扉が乱暴に開け放たれてその甘い雰囲気がぶち壊される。
「ちょっとアルベルト!次の依頼の件なんだけど……って、きゃあッッッ!!サキ!男の前で何て格好しているの!早くこっち来なさいッ!」
突然現れた女は俺に蹴りを入れつつ強引にサキを隣の部屋へと連れて行った。
とりあえず今日も俺は鉄の自制心で死亡フラグを回避することに成功した。
一つ溜め息を吐くと、俺はカーテンを開け放ち窓から外を眺めてみる。
そこには俺の人生で未だ一度もお目にかかったことのないレベルでの活況に満ち溢れた市場が形成されていた。
ただでさえ狭い石畳の道路の上には、道幅一杯に色とりどりの天幕が覆われている。
そしてそこからは多くの人々の活気にあふれた喧騒が聞こえてきた。
商売の声だ。
その物売りをしている人々の肌の色は俺の”国”の連中と異なり赤銅色がメインだ。
だがここはそれだけではなく明らかに人間ではなさそうな亜人の人々や明らかにヘンテコな服装をしている連中も特に違和感も無く混じっていた。
この国は俺の国の文化圏から遙か離れた異国。
というよりもこれまでの”ここまでに至った経緯”を考えると、本当に地続きかどうかも怪しいものだが……
「お待たせ~」
ちょうどその時、隣の部屋から服を着込まされて仏頂面となっているサキを伴って、さきほど俺に蹴りをくれた若い赤毛の女が入ってきた。
ちょっとつり目がちの大きな瞳。その顔つきはサキに負けず劣らずの美形だが、それ以上に目立つのは強い意志を感じさせるその青緑の眼差し。
髪は赤っぽい茶髪でちょっと癖のあるセミロングを無造作に後ろで束ねている。
スタイル的にはサキよりもちょっと背が高く、全体のシルエットはスレンダー寄りだが、これは単にサキの一部が大きすぎるだけだから彼女が貧相というわけではない(どこがとは言わない)。
そして、なんとなく偉そうな雰囲気のあるこの女こそが、現在俺達がこんなややこしい状況に追い込まれている原因を作った張本人だった。
改めてこいつの名前を教えよう。こいつの名前はフェリシア。
正式にはフェリシア・ディ・ローティス。
なんてことはない。俺の正式な許嫁で、ゲームヒロインの1人で、単に俺をバッドエンドへと誘う破滅の少女その2なだけなのだから。