結社のさいご(後編)
レビューが嬉しかったので昨日投稿しようと頑張りましたが、ボリュームが増えてしまい遅くなりました。ごめんなさい。
現在、自転車操業な執筆状態が続いております。
秘密結社憂国青年騎士団からの脱退は、ガンマ少年だけでは終わらなかった。
日が経つにつれて、更なる脱退者が続々と現れたのだ。
しかも全員がガンマと同じく、脱退理由を黙秘し続けた。
それは大変に不気味であり、恐怖心の伝播によって続々とメンバーから脱退者が出てしまい、あれよあれよといううちに、結社は解散へと追い込まれてしまったのだった。
ヴァルサリア魔法学園に入学して実に1ヶ月にも満たない時期であった。
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結社解散の翌日。
学園において幼年学校から連綿と続いていた貴族達による秘密の結社が、呆気なく消えてしまった。
なぜこのような事になってしまったのか。
ロベルトは、現実を受け止める事ができずにいた。
この日の授業はカヌーの乗船訓練だった。
その訓練の内容は、一人乗りカヌーの漕ぎ方の練習である。
ロベルト達は、ある程度の操船の訓練を終えた後、湖に設えられたコースにて実際にカヌーの操船をする事となった。
5艇が横一列に並び、スタートする。
ロベルトのカヌーが疾風の如く先頭を走る。なんとか喰らいつこうと後続のカヌーも頑張るが、みるみる引き離されていく。
「そうだ、私はロベルト!ロベルト・ディ・モールト!!この王国の将来を担う男なのだァァァ!!」
ロベルトはこれまでの鬱憤をぶつけるかのように我武者羅にオールを漕ぐ。
アドレナリンが脳内に充満し、思考がどんどんと先鋭化していく。
(クソ、そうだあいつだ!結社が解散してしまったのはアルベルトにちょっかいを出したからだ。だから全てあいつが悪いんだ!)
何の証拠もなく、完全な思い込みではあったが、ロベルトはアルベルトのせいで、今のような惨状が起きたのだと信じて疑わなかった。
(あいつに目にものを見せてやらないと俺の気が晴れん!)
支離滅裂な思考ではあったが、彼の中では確信に似た思いが出来上がりつつあった。
そして運が良いのか悪いのか、偶然にもアルベルトはロベルトと同じカヌーの班であり、ちょうど彼のカヌーが、周回遅れでロベルトの前をのんびりとオールを漕ぎながら進んでいるところであった。
(くたばれッ!!)
ロベルトは、脇目も振らずにアルベルトのカヌーの後方から、自分のカヌーを一直線にぶつけて転覆させようとした。
しかし、アルベルトはそれを知ってか知らでか、ふらふらと危なっかしいパドルの操作でカヌーを左右に小刻みに動かして、中々ロベルトのカヌーと接触させない。
湖の周りのギャラリーも、ピッタリとアルベルトの後ろに陣取っているロベルトの姿に、何か様子がおかしいと感じ始め、ロベルトとアルベルトの方に近づいて来ようとしていた。
(チッ、厄介な!)
彼は一瞬だけ視線をアルベルトからギャラリーの方に移してしまった。
そしてその瞬間。
急にアルベルトのカヌーが停止し、よそ見のせいで回避措置を取らなかったロベルトのカヌーと激しく衝突した。
ドッパァァァァンッッ!!
衝突時の衝撃は大きく、カヌーは2艇ともひしゃげてしまい、2人はカヌーから投げ出されてもつれるようにして湖の中に沈んでいった。
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(しまった、油断したッ!)
湖に沈みながらロベルトは自分の失態を恥じる。
まさか他所に目を移したせいでアルベルトのカヌーとぶつかってしまい転覆してしまうとは。
彼は息が切れる前に、なんとか水面に上がろうとするが、もつれるようにして自分にくっついているアルベルトのせいで上手く手足を使うことができなかった。
(クソ!コイツ邪魔をしやがって!)
ロベルトは”念動”の魔法を使って邪魔なアルベルトを吹き飛ばし、自分だけ脱出しようとした。
充分に熟練した魔法は、必ずしも口頭による呪文を必須としないのだ。
(バカな!なぜ魔法がキャンセルされる!?)
しかしどういう訳か”念動”の魔法は発動せず、状況に変化がなかった。
ロベルトは焦る。息が続かなくなってきており、急いで浮上する必要が出てきたため、段々と冷静さがなくなってきていたのだ。
そしてそんな時、アルベルトの側に動きがあった。
アルベルトは更に湖底に引っ張りこむようにロベルトを後ろから掴み、その喉に指を沿わせてくる。
「ゴボッ……ゴボゴボッ!(おい、離せッ!)」
ロベルトは必死にアルベルトを引き剥がそうとするが、万力で締められているようにびくともしない。
《安心しろ。お前の声は指に伝わる振動を経由して聞こえている》
アルベルトの声がロベルトの耳に押し付けられたゴムの袋を伝って聞こえてきた。
普段のへらへらしているアルベルトとは違い、感情を窺わせない静かな声音がより一層不気味さを醸し出していた。
「ゴボゴボゴボッ!(こんなことをしてただで済むと思っているのか!)」
自分が怯えていることを決して認めずに、ロベルトはアルベルトに凄む。
《……今、この場では魔法を使えないようにしてある。だがそれを知らない周りの連中は、常識に縛られて俺達が魔法で脱出するのを悠長に水面で待っているだろうさ》
アルベルトはロベルトの脅しを無視し、淡々と今置かれている状況を説明する。
ロベルトは淡々と状況を語るアルベルトの話に戦慄した。彼はこう言っているのだ。助けは来ない、と。
《ロベルト。魔法なしでお前はあとどれだけ息が続く?1分か、それとも2分か?》
アルベルトは穏やかな口調で質問を続ける。獲物を冷静に狙う肉食獣の気配を放つアルベルトに対して、ロベルトは不気味さを越えて恐怖を感じるようになっていた。
「ゴボッゴボッ!(一体何が目的だッ!)」
《俺や俺の仲間に構うな。俺達は静かに学園で過ごしたいだけだ。俺は魔法なしでもまだ5分以上息を止めていられる。お前はもう限界だろ?
言っておくが、俺はお前とお前の仲間達の主義主張には全く興味はない。
俺の希望を理解してくれたのならば、この場でのお前の面子を立ててやる。さぁ、どうする?》
「ゴボゴボボ(お前、本当にあのアルベルトか?)」
普段のアルベルトとは似ても似つかない機械のような行動と冷酷な雰囲気にロベルトは誰かの成り済ましを疑うのだった。
《さぁな。……では決断だロベルト。選べ》
アルベルトの恫喝に対して、ロベルトが選んだ選択は……
ーーーーー
「ハァハァハァハァ……」
「おい、大丈夫かロベルト!!」
自力で水面に上がったロベルトは、荒い息を吐きながら空気を吸い込む。
肺の中に空気が入る度に落ち着きを取り戻していき、彼の周囲に多くの学友が心配そうに見守っているのが確認できた。
「アルベルト君、大丈夫かい!?」
「アルベルト氏〜、しっかりするでござるよ〜!」
彼は慌てて目をアルベルトの方に向ける。
そこには気を失っているアルベルトと、彼の友達であるクリスとエドワードが一生懸命に彼を介抱している姿があった。
「なんだ、アルベルト気絶しているってよ」
「ロベルト君は彼を助けるために脱出が遅れたんだよね」
「あいつは本当に何も出来ないやつだなぁ」
アハハハハと、周囲のギャラリーがアルベルトをバカにしている。
少し前までならロベルトも一緒になってバカにしただろうが、彼の本性を知った今ではとてもではないが一緒に笑う気になれなかった。
暫くして意識を取り戻したアルベルトが、クリスとエドワードに介抱されながら立ち上がる。
2人と談笑していたアルベルトが、一瞬だけロベルトと目を合わせてきた。
ゾクリ。
(アイツは一体何者なんだ……)
射竦められ立ち尽くすロベルトを置き去りにして、アルベルト達3人は湖から去っていった。
追伸
誤字報告ありがとうございました。




