秘密結社憂国青年騎士団
寒暖の差が大きかった影響で執筆が滞っています(形式的誤謬の一種である後件肯定が疑われる事例)。
屋上では予想通りにサキとフェリシアがランチをとっていた。
「あれ、ご主人様?……申し訳ありません。今日は別々に食事をとるためお弁当は不要とのご命令でしたので、食事の準備をしておりませんでした。
……ご迷惑でなければ、私のお弁当を食べていただければと思いますぅ」
両手で俺に向かって自分の弁当箱を差し出しながら、獣耳をペタリと垂れて、しょんぼりとした雰囲気を醸し出しているサキ。
「気にするなサキ、もう食事は済ませた。
……さて、クリス。今更かもしれないが、一応簡単に俺たちについて自己紹介をしておこう。
俺はアルベルト。アルベルト・ディ・サルトだ。
んで、こっちの黒髪の子がサキで、あっちの赤髪がフェリシアだ」
「ちょっと、私の紹介が雑すぎでしょ!
……私はフェリシア・ディ・ローティス。よろしくね」
「あ、はい。よろしくお願いします。僕はクリスです。
……フェリシアさんとサキさんの事は噂で知ってます。すごい魔法使いだ、って」
ちょっともじもじしているが無事に自己紹介することができたな。
なお、サキは先日クリスが引き起こした俺に対する魔法事故の件が尾を引いていて、あまりクリスと話す気にはなれないようだ。
「さて、ここなら野次馬に聞かれることもないだろう。ではあのフードの男から何を脅されていたのか教えてくれ。
……もっとも大体の予測はついているがな」
話すべきか否か少し迷っていたようだが、クリスは結局俺たちに話してくれることを決めたらしい。
「はい……実は彼らに、言うことを聞かないと、学校から追い出すって脅されていました。
俺達にはたくさんの仲間がいて、お前のような平民を学園から追い出すのは容易なことなんだぞ、って」
「酷いですね」
「酷い話ね」
サキとフェリシアが憤る。俺も同じ気持ちだ。
「……因みにあいつらの正体は『秘密結社憂国青年騎士団』っていうんだ。
まぁ、どんな奴らが加入しているかというと、この学校の開明主義的な校風に不満を持つ貴族の子弟達だな。
大体、亜人や平民を差別している連中だ」
俺が補足してクリスを脅している連中についてみんなに教えてやった。
みんなは俺の発言にポカーンとしてしまっている。
「ご主人様、なんでそんなことを知っているんですか?」
なぜ知っているのかって?実はゲーム時代の俺は極度の貴族中心主義者だったので、この組織に所属していたりする。
そしてゲーム知識で、その首魁の名も、さらに裏で糸を引いている外国勢力についても予め知識として知っていたというわけだ。
「あまり詮索するな。とりあえず奴らが亜人を憎んでいるという事さえ知っておけばいい」
「あれ?ご主人様、それならどうして私が直接的に狙われないのでしょうか?」
サキが当然の疑問を投げかける。ふふふ、甘いなサキ。奴らの態度のデカさは一級品だが、戦闘能力自体は3流以下だという事実を失念しているな?
「あー、それは簡単な理屈でな。例えばサキ、お前が直接狙われて攻撃されたとする」
「はい」
「お前だったらどう対処する?」
「んー、そうですねぇ。私だったなら攻撃してきた人をとりあえずその場で血祭にあげますかねぇ。
そして一息ついたら背後関係を拷問で洗って、全員血反吐を吐かせる程度の軽いお仕置きをしちゃいますね」
笑顔でドン引きするような事をのたまうサキ。怖い。
「……こいつ本当に容赦ねぇなぁ。まぁそんなわけで、お前を直接襲った場合には、返り討ちにあうのは確実で、さらに唆した黒幕自体が逆襲されるリスクが大きすぎる。
だから怖いお前を直接狙わずに、亜人を擁護していると思われる実力の低い俺を、反撃される恐れが少なそうだという理由でこっそりと狙うことにしたんだろうさ」
「実態を知らないって怖いことね」
冷静にフェリシアが感想を述べる。
待て。俺は狂犬とは大分違うと思うぞ。
「……本当にごめんなさい」
俺達の話を聞いて俯くクリス。まぁ、当事者だし凹むのは仕方がないか。
「まぁ、大したことじゃないから気にすんな」
「で、でも……」
「お前は巻き込まれただけだ。元々の火種は俺達の側にあったのさ。だから俺達自身が奴らと決着をつけるのが筋だ」
「アルベルト、何か考えがあるの?」
「ああ、もちろんある。任せてくれ」
そんなわけで俺は、飛んできた火の粉を払うべく、作戦を実行することにした。




