小芝居
「おはようございます、ご主人様!
さて、私はどの生徒を殺処分すればよろしいのでしょうか!」
俺が暮らしている貴族向けの男子寮の個室に、セキュリティなんてお構いなしにズカズカと入室してくるサキ。
今日も朝から元気いっぱいだ。
「おはようサキ。あと朝からそんな物騒な事をテンション高く言うもんじゃないよ」
俺はそうサキをたしなめるが、今日のサキは引かなかった。
「何を言っているんですかご主人様!
聞きましたよ、昨日ご主人様はとある生徒から魔法攻撃を受けたそうじゃないですか!
これはもう、その生徒を血祭りにあげて己のしでかした愚行をサンズリバーで一生後悔させないといけないレベルだと思うんですよ!」
「……ただのちょっとした事故だからそこまで気にするな、頼むから」
俺は内心でドン引きしながらも激昂しているサキをなんとか宥める。
おそらく実行役の彼は、何か断れない理由があってやらざるを得ない立場に追い込まれていただけだろう。
俺は”彼ら”のやりそうな手口を熟知しているのだ。
「たっ、だ〜いま〜、なのじゃッ!」
その時、ちょうどタイミングよく、ウィンディが帰ってきた。
「よし、ナイスなタイミングだぞ、ウィンディ!」
「え、そ、そかのう?」
照れ照れしながらも満更でもなさそうなウィンディ。ふ、こいつチョロいな。
「で、首尾はどうだった?」
「バッチリじゃ!あの少年はどうやら脅されていたようじゃな」
そしてウィンディは一人でその時の状況を演技し始める。無論セリフ棒読みの大根演技だが、本人はとっても楽しそうだ。
「カンテラを片手に持ち、暗い森の中を足早に急ぐしょーねん。暫くすると『おい、首尾はどうじゃったか!』、と急に現れたフードの男がしょーねんに声をかけたのじゃ」
フードの男か……確信がますます強まる。
「その男に対してしょーねんは、『剣術の授業の最中にヤツめに魔法をぶつけたのですが、運悪く木刀に当たって失敗したのじゃッ!』といっしょーけんめーに弁解しておったわい」
「……ノリノリの所悪いんだが、ウィンディ。小芝居はその程度にして、フードの男が誰なのか分かったのか?
あと、少年がどんな内容で脅されていたのかも知りたい」
渾身の芝居を中断させられてしょんぼりとするウィンディ。
とても悲しそうな雰囲気に、悪いことをしたなと少し思ったが、長くなりそうな大根芝居を見続ける苦痛を考えると仕方がない。
「あー、そーじゃのー。少年がどんな内容で脅されていたのかについては、正直よく分からんかったのー。
じゃがフードの男については、名探偵のワシがこっそり後をつけて、どこの部屋に入っていったのかしっかり観察したのじゃ!」
「よし、でかしたウィンディ!……で、そこはどこだった?」
「えーとそれはじゃなぁ……」
そうして俺はウィンディからそのフードの男がどこの部屋に入ったのかを教えてもらった。
そしてその部屋は、俺が予想していたとおりの人物が暮らしている部屋だった。
ーーーーー
「よぉ。一緒に飯いいか?」
事件翌日の昼休み。
いつもならばサキやフェリシアと屋上でランチタイムなのだが、今日は別件のため、ぼっち飯だ。
俺は早速用事を済ませるべく、学生食堂でぼっち飯をしていた女顔の少年(確かクリスと言ったか)の対面に腰を下ろした。
「あ……アルベルト君……き、昨日はゴメンね……」
俯いてボソボソと謝罪するクリス。暗いな。
「ああ、気にするな。あれは不運な事故だったと思っているし、実際運良く被害もなかったからな」
俺は手をヒラヒラさせてクリスに気にするなと伝えた。辛気臭いのは苦手だ。
「……怪我がなくて本当に良かったよ」
固い表情を一瞬だけ柔らかくし、安堵の表情を浮かべている。これはコイツの本心なのだろうな。
「なぁ、少し聞いていいか?」
「……僕に答えられることならなんでも」
「どうして”あいつら”に脅されているんだ?」
俺の発言に目を見開き固まるクリス。コイツは嘘をつけない性質だな。
「べ、別に……ぼ、僕は誰にも脅されてなんて……」
「じゃあ昨日の夜、なんでフードを被ったヤツと会っていたんだ?」
俺は続けてカードを切る。
「ど、どうしてそれを……?」
俺に怯えた目を向けてくるクリス。警戒しているハムスターみたいだ。
「そう警戒するな。別に取って喰おうってわけじゃないんだ。
……ただちょっと気になってな」
暫く答えあぐねていたクリスだったが、「ここじゃちょっと……」と周りを気にしていたので、俺は勝手に私物化している屋上へとクリスを連れて行くことにした。
多分、サキとフェリシアが先客としていると思うしな。
誤字脱字のご連絡ありがとうございます。




