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忍び寄る悪意

「グフフ。で、ぼっちのアルベルト(うじ)は今日も拙者とペアなのですな」


「うるさい。お前だってぼっちだから俺とコンビなんだろうが」


 今は剣術の授業だった。

 剣術の授業は基本的に二人一組で行われる。そのため、組手を行うパートナーが必要なのだが、サキによるドン引き発言の一件以来、クラスで自発的に俺とコンビを組んでくれる人がいなくなってしまった。


 そのため剣術の授業を受け持っている師範は、上背が俺と同じくらいあり、同じくぼっちだったこの目の前の巨漢の少年を俺のパートナーに無理矢理据えたのだ。


 こいつの名前はエドワード。実はゲームにも登場するモブキャラだったりする。


 身長は俺と同じくらいなのだが横幅が全く違う。体重は俺の5割増しくらいあるのではなかろうか。


 その顔立ちは痩せれば結構イケメンなのではないかと思われる。どこかで聞いた話だ。そう、ゲームでの俺の話だ。


 実はゲームでは、コイツは俺と立ち絵がほぼ一緒な色違いのキャラクターだったりする。

 俺がモブ的な悪役だったことがよく分かるエピソードであり、泣けてくる話だ。


 ゲームとは違い、俺と顔立ち自体はあまり似ていないが、それでも大きな身体と、気持ち悪い中二病的な科白がゲーム時代の俺を想起させて中々感慨深いものがある。


「アルベルト氏。柔軟体操はそろそろ終わりにして組手をしようず」


 エドワードはよっこらしょと木刀を手に取り、合理性のない中二病的な構えをとった。俺もその真似をしてアホなポーズをキメる。


 エドワードが型も何もない、腕の力だけでフラフラと木刀を振り下ろしてくる。


 攻撃されると、自動的に相手の急所に素早く反撃しようとする物騒な自分の身体(兇器)が勝手に動かないように、俺は意識してへっぴり腰を演じながらその木刀を受けた。


「うはwww流石アルベルト氏!今の我輩の攻撃をよくぞ受けた!

むーん、これは我輩の習った天然気念流の奥義を見せざるをえませぬな!」


 驚いた。あのヘロヘロとした木刀の大振りは攻撃だったのか。ネタなのか本気の打ち込みなのか区別がつかなかったぞ。


 油断するとそのまま木刀ごと相手を切り飛ばしそうになってしまう。

 モンスターを斬り殺す事ばかりを念頭に置いた流派を習っていたので、こういったお遊び剣術はどうもやりにくい。

 実家に帰ったら、幼い頃からこの物騒な剣術を俺に仕込んだ師匠のボナディアにクレームを入れておこう。


 そんな感じで俺的にはのんびりと授業を受けていたわけだが、急に背後から魔法の気配が近づいてくるのを感じた。


 故意か偶然か。


 ただの小さな魔法エネルギーの塊なので、一般生徒ならいざ知らず、俺くらいの魔法に対する抵抗力(レジスト)があればぶつかっても実際には無害だ。


 しかしこの場でそれがバレて俺が目立つのは得策とは言えない。

 そこで俺は偶然後ろを振り返ったふりをして自分の木刀にその魔法エネルギーをぶつけた。


 バチンッ!!


 派手な音がして木刀が破裂する。勿論俺は大声を出して尻餅をつく演技を忘れない。


 俺は驚いている演技をしつつ、魔法を放った人物を観察する。

 華奢で小柄な、地味な印象のある女顔の少年だった。黒髪の奥に見える双眸には怯えの色が見え、顔が青褪めていて今にも倒れそうだ。

 確か最初の自己紹介の時に平民出身であることを話していたと思う。


「うひゃあアルベルト氏!だ、大丈夫でござるか!?」


 エドワードが興奮気味に声をかけてくる。


《ウィンディ聞こえるか?》


 俺は茫然自失の体でエドワードの問いかけを無視し、”念話”の魔法を使って、ウィンディに声をかける。


《なんじゃお前様。ワシはお昼寝中だったのじゃが?》


 何もなかった虚空に、突如としてウィンディが姿を顕す。

 もっとも、今の彼女の姿は精霊を見ることができる特殊な瞳を持った者か、宿主である俺くらいしか見ることはできないのだが。


《そいつは悪かったな。……実は頼みたいことがあるんだ》


 俺がそう話しかけると、今まで暇そうにぼんやりとしていたウィンディの瞳に力が入り、イキイキとしだす。


《よし、ずっと暇だったんじゃ!何でもワシに言うが良いぞ!》


《あの小柄な少年をこっそり追って、誰と会っているのか調べてほしいんだ。やれるか?》


《ガッテン承知の助じゃよ!》


 そう言ってウィンディは、自分の服装を某薬物ジャンキーな名探偵風に変えて、少年の後ろに陣取(スタンバ)る。


 俺はクラスで多少嫌われてはいるが、流石に魔法で直接的に攻撃される程には一般生徒から嫌われてはいないはずだった。


 少年がただの個人的な怨みを募らせて俺に魔法を撃ったのならば、(本当は良くないが)大して問題ではない。

 しかし、もし誰かの指示によるものだったとしたら、逆に少々面倒くさい事になる。


 俺は、学園でもその魔法の実力で顕著に目立っていた亜人(・・)であるサキと、ひと目も憚らずにいちゃいちゃしていた(内実はどうあれ、傍から見ればそうとしか見えなかったはず)。


 その事を理由に、俺に攻撃を仕掛ける動機がありそうな組織が、実はこの学園内には存在するのだった。


 俺は自分の予想が外れている事を祈りつつ、ウィンディの報告を待つことにした。 


「アルベルト氏、アルベルト氏〜」


 突然、能天気な声が座っている俺の上から聞こえてきた。


「ん、どうしたエドワード?」


「尻餅をつきながら、顔だけシリアスなのはギャグだと思われ」


 俺はテイッ、とエドワードの脛を足払いで蹴りつけた。

 続きを考えながら自転車操業的な執筆です。

 次話は来週予定ですが、早く上げられればいいなぁ。

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