学園入学
新章開始です。
細部の設定が中々決まらないので、暫くは週1連載します。ごめんなさい。
「みなさん。ここヴェルサリア魔法学園は、身分、国籍を問わず魔法の才ある者に対して誰もが平等に魔法を学ぶ機会を得られるよう、過去の偉大なる先達が……」
長い。
現在、ここヴェルサリア魔法学園の入学式の真っ最中なのだが、学長の話が長くてツラい。
俺は眠気をおさえるために、周囲の生徒に目を向けてみる。
フェリシアは姿勢を正して真面目に話を聞いている。優等生だな。
サキも真面目に聞いている風だが俺には判る。あれは全く関係のないことを考えている時の態度だ。
俺がサキに説教した時によくとられていた態度だから大体判る。
そしてウィンディはよほど暇なのか、学長の薄い頭で遊んでいた。
一生懸命に簾状の髪をどかそうと奮闘している。
ウィンディは現在、顕現していない状態なので、直接契約(寄生とも言う)している俺を除けば、よほど精霊に愛された者でないとその姿を見ることは難しい。
御蔭で大騒ぎになっていないというわけだ。
「……これで私の訓示を終わりにさせていただきます」
いつの間にか学長の話が終わっていた。
俺達生徒はだらだらと講堂から出て、各教室に入っていくのだった。
ーーーーー
このヴェルサリア魔法学園は、ゲーム”Fortune Star”の舞台となる学校だ。
この学校は王国でも一種の治外法権的な地位を持っているらしく、魔力があり学ぶ意欲のある者は、貴族だろうが平民だろうが外国人だろうが亜人だろうが差別しないという開明的な雰囲気を持っている学園都市だった。
もっとも王国の貴族で魔力を持っている者は強制的に入学させられたり、裏では色々と各国組織が暗躍していたりと、決して明るい面ばかりではないのだけれども、建前だけでも平等を謳うというのはファンタジー世界なのにすげぇなと素直に感じたりもするわけだが。
そんなことを教室でぼんやり考えていると、教室の前側の扉が開き、背の高い少し年嵩の男が教室に入ってきた。
「生徒の諸君、ご機嫌よう。私はこの学園で教授の位階を授けられているシミラーだ。
まずは入学早々で悪いが、君達がどれほどの能力があるのか今から試験をさせてもらう」
おお!ゲームと同じイベントだ!
このシミラーさんは度々ゲーム主人公を助けてくれるサブキャラで、色々と事情を抱えている実力者でもある。
渋いナイスミドルで、意外と生徒から人気があったはずだ。
「試験内容は簡単だ。ここに設置した的にどんな形であれ魔法をぶつけろ。
直接魔法をぶつけても良いし、魔法で何かを操っても可だ」
うーん、どうしようかな。
確かゲームでのアルベルトは、「平民共に実力の違いを見せつけてやる〜」と、息巻いて全力で魔法を使い、見事に制御に失敗して恥をかくという流れだったはず。
あまりにもゲームと違う行動を取りすぎると、『発生イベントの予測をしやすくするためにゲームの流れをある程度踏襲しつつ、要所でまずい選択肢を回避することで俺のバッドエンドを回避する』という方針と乖離し過ぎてしまう恐れがあることから、今回はゲーム場面を再現してみることにした。
丁度方針が纏まったところでお誂え向きに俺の順番が回ってきた。
「次、アルベルト!」
「おう!
よし、俺の全力を見せてやる!……”強風”!」
入学したての普通の学生が選ぶ魔法ならば、風魔法のカテゴリーで下から2番目くらいの難度である”強風”を使用するのが妥当だろうか。
いかにもコントロールができてなさそうなフリをして、左へ右へ風を動かし、まごつく俺。
周囲からは失笑とも嘲笑とも取れる笑い声が聞こえてくる。……中には本当に楽しそうな笑い声が聞こえてくるが無視だ。
「アルベルト……まぁ、いい。次ッ!」
どうやら俺の演技はバッチリだったようだ。
魔法が失敗したのにドヤ顔を浮かべている俺に対して、周囲は怪訝な表情を浮かべていたが、すぐ次の生徒の魔法に興味が移ったようで俺に対する注目は大幅に減った。
俺は暫くの間、上手く実力を隠して失敗を演出した自分自身を心中で喝采したのだった。
ーーーーー
(何者だ、あの学生?)
シミラーは内心で驚愕する。
傍から見れば、使った魔法は初歩に分類できる”強風”で、しかも一見失敗に見える結果だった。
だが長年、実戦を通じて魔法の制御を訓練していたシミラーには別の風景が見えていた。
(あいつ殆ど魔法に干渉することなく、暴走を演出していやがった!)
そう。あれは演出である。
通常、魔法の暴走状態とは、現象が発生している魔法に対して、加減できない形で追加の魔法力が加わる事で術者のコントロール外の挙動を発生させてしまう事を指す。
しかしアルベルトは、発動前の”強風”の制御式に、暴走に見せかけた挙動を全て織り込んでいたのだ。
あんなにも小さな魔法式に!
現代数学をかじった事のある人間には、単純な数式で複雑性のある挙動を再現するものとして、フラクタル幾何学やカオス理論等の記述式が思い浮かぶかもしれないが、この世界にはまだそのような概念はなかった。
(あいつは底が知れん。要注意人物に指定しておくか)
アルベルトの思惑とは正反対に、学園の実力者に目をつけられる事態となってしまったのだった。




