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閑話 翡翠の剣士(3)

祝10万PV突破。

ありがとうございます。

 冒険者達にとって災厄と呼ばれるモンスターはいくつか存在する。


 有名どころでは、


 王国の西に隣接する、ミモミケ獣人帝国の海底に眠る”海魔竜”リヴァイアサン。


 サル・ロディアス遺跡近郊の死の砂漠に潜む”暴食蟲”デスサンドウァーム。


 古代帝国首都の遺跡に一定周期で出没するといわれる”死の番人”キリングドール。


 などが挙げられるだろうか。


 この紅玉の(ルビー)ドラゴンは、それらほど有名ではないものの、場所を限定せずにランダムに現れて暴虐の限りを尽くすという点では、十分に災厄と呼んでも良いレベルの凶悪なモンスターだった。


「総員、対空戦闘体制に移れッ!」


 ラルフは一瞬で最悪の状況が現れたと悟り、呆けている仲間を叱咤し、防御の陣形を整える。


(しかし、よりによって紅玉のドラゴンかよ!……因縁があるのかねぇ!?)


 ラルフは誰にも話したことはなかったが、銀等級冒険者に成り立ての若い頃に、実は短い期間だけ金等級冒険者のグループに所属していたことがあった。


 そしていくつかの冒険をこなし、自分自身も金等級になれるかと思っていた矢先。


 不運にも紅玉のドラゴンに遭遇してしまったのだった。


 上空から舞い降りる巨大な朱い存在。


 地上に高速で舞い降りる度に仲間の死体が積み上がっていった。


 紅玉のドラゴンの討伐依頼は失敗に終わった。

 そしてラルフはその時の唯一の生存者だった。


 彼が強かったから生き残ったのではない。


 単に運良く見逃されただけだった。


 その日以来、彼にとって金等級になるという事は、もう一度あの紅玉のドラゴン(悪魔)と相対する事を意味するものとなり、彼にとって金等級というものは遠い存在になったのだった。


「り、リーダー、どうするか……?」


「て、撤退するのにも、この場所じゃ逃げ場所が在りませんぜ?」


「リーダー!」


「「リーダー!!」」


 ラルフはハッとする。いつもは気丈な仲間達も流石に恐怖を隠せないでいるようだ。


 そんな時には頼れるリーダーがなんとかするしかない。


 この銀等級パーティー”駿馬の稲光”は、長年コツコツと地道に成果を積み上げてきた、この地域でも1、2を争う名うてのパーティーだ。


 そのリーダーである俺が、これまでの信頼が、こんな事で裏切れるものかよ!


 腹に力を入れ、歯を食いしばり、なんとか生き残る策を考えようとするラルフだった。


「ていっ」


 そんな覚悟を固めた時、女はこちらの危機感なんて知ったことではないとばかりに、紅玉のドラゴンに軽い足取りで曲刀を叩きつけていた。


「あ」


 紅玉のドラゴンの攻撃をひらりひらりとかいくぐり、浅い傷を付けていたが、ついに業物と思われる曲刀がドラゴンの硬い体表に負けてぽっきりと折れてしまった。


「むぅ……じゃあ次」


 女は躊躇(ためら)いもなく柄だけになった曲刀をぽいっと投げ捨て、どこから取り出したのか分からないが、同じく業物と思わしき両手剣を取り出し、今度はそれで斬りつけていた。


 紅玉のドラゴンはこちらなどお構いなしに、女に攻撃を集中させている。


 女もさるもので、ドラゴンの鋭い牙や翼、鉤爪、死角から襲いかかる尻尾の攻撃を悉く避けて剣で斬りつけている。


 バキンッ!


 再び剣が折れる。しかし女は動じない。

 何故ならば気がつけば女の手には、肉厚な両刃の直刀が、左右片方ずつに握られていたからだった。


(……って、明らかにおかしいだろ!?)


 片方の刀でドラゴンの攻撃をいなしつつ、もう片方で激しく斬りつける女。


 もう何合撃ち込まれたのかは分からない程、全身を己の血で真っ赤に染める紅玉のドラゴン。

 しかしそれでも止まらない。決定打に欠けているからだ。


 女も困ったような表情を浮かべている。


 それから女はさらに何合か撃ち込み、またもやポキリと女の刀は折れてしまった。


 今度は新しい剣を取り出す事無く、ひらりとラルフの近くに舞い降りてきた。


「……あのドラゴン予想外に硬い。模造刀では……ダメ、斬れない。

 ……私を使うから協力を」


「は?え?は?」


 ラルフは状況が飲み込めない。だが彼を責めることはできないだろう。

 何故ならば、それほどまでに彼女の説明は要領をえないものだったのだから。


 女は帯を解き、素早く服を脱ぎ捨てる。


 女の豊満な肢体を見ても、ラルフはその姿に助平(すけべ)心よりも困惑の方を大きく感じた。


(コイツ一体なんなんだ!?)


 戦闘の真っ最中にいきなり全裸になった無表情の女は、スッとラルフの手を握る。

 女の手は柔らかく、そして冷たかった。


「……私を使うから、あなたを借りる」


「え」


 その瞬間、女から眩い光が溢れ、気がつくと男の手には妖しく輝く美しい太刀が握られていた。

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