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アルベルトくん14歳。解決

「ハッ!?」


 俺は閉じていた(まぶた)を開く。すると目の前には無表情な翡翠丸の顔が、どアップで映し出されていた。


「わわっ!」


 いきなり美少女顔が触れるほどの近くにあって焦ってしまった。


 とりあえず全身に負った傷の痛みで、女神の精神世界から無事に現実世界へと戻ってこられたことは分かったが、今の状況がまるで理解できない。


 キョロキョロと自分の姿勢を確認したところ、どうやら俺は寝かされていたらしく、なぜかは判らないが、翡翠丸が膝枕をしてくれていたようだ。


 とりあえず、翡翠丸に通じているかどうか判らないがお礼を言い、頭を上げて周囲を見回してみる。


 建物はボロボロで屋根は崩れ落ちているものの、ここが最初に女神と会った謁見の間であることは間違いあるまい。


 そして左に目を向けてみると艶々(つやつや)とした表情で、穏やかにこちらに小さな笑みを浮かべている女神様。


 どうやってこちらの世界に女神を引き戻したのか全く記憶がないのだが、確かな認識として、説得に成功したとの感触がある。


 そしてその女神の右手でアイアンクローをされて宙に釣り上げられているのがウィンディだ。


 ウィンディはジタバタともがいているが、あれだけがっちりと顔を掴まれていると脱出は難しそうだ。


 どうしてウィンディが女神様によってアイアンクローなんてされているのかよく分からないが、まぁ、多分大した理由ではないのだろうから放っておこう。


 次に右側に目を向けると、座っているサキと、彼女に抱き抱えられたままぴくりとも動かないフェリシア、そして穏やかな表情で2人を見下ろしながら側に立っているサルヴェリウスさんの姿があった。


 状況はイマイチ分からないが、とりあえずサキに挨拶をする。


「えーと、サキ。とりあえず……ただい……ま?」


 するとサキは、最初は色々な感情が綯い交ぜになってどんな顔をすれば良いのかよく分かってなさそうだったが、じわりと目尻に涙を溜めて、フェリシアを抱いたまま泣き出した。


「うわ~ん、ご主人様ぁ~!」


 サキは、えぐえぐと泣き続けて要領を得ない。

 困ってしまい、近くに立っていたサルヴェリウスさんに説明してくれと目線を向ける。


「……まぁ、彼女にも色々あったのだよ」


 そうか?


 そして、サルヴェリウスさんから詳細な話を聞くと、俺は表情を険しくさせていく。


「フェリシアが永遠に眠り続けるだって!?」


 こいつ、俺に何も言わないでなんつー決断をしやがった!バカやろう!


「まぁ、慌てなくていい。私が何とか彼女を起こそうと思う。

 ……ただしそれにはアルベルト君、キミの助けがいるんだよ」


「俺の助け?」


 サルヴェリウスさんの話だとフェリシアは、彼女の一族に伝わる秘術を使って、俺の精神をウィンディ経由で女神に接続したらしい。

 ただしその秘術には欠陥があって、結果として自身を解呪ができない永遠の眠りに導いてしまうとのことだ。


 俺の切り札の1つを使えば解呪できる可能性があったが、無理に力業(ちからわざ)で何とかするよりも、サルヴェリウスさんが調整した同系統の魔法を高レベルでかけ直す手法の方がフェリシアの負荷が小さいとのことで、そちらの案を採用する事になった。


「ではみんな、準備は良いかな?」


 サルヴェリウスさんの号令の下、俺達は配置につく。


 フェリシアを囲んで時計回りの順に、サルヴェリウスさん、俺、サキ、女神様、ウィンディ、翡翠丸という並びで立った。


 そしてサルヴェリウスさんと俺達は、儀式魔法を開始するのだった。


「闇の女神に願い奉る。彼の者の精神に安らぎたる夢を。”白昼夢”!」


 サルヴェリウスさんが、フェリシアが使った魔法系統の上位魔法をフェリシアにかける。


 俺はあらかじめサルヴェリウスさんから依頼された通り、フェリシアの身体をきつく抱きしめる。


 この魔法は副作用として激しく暴れる可能性があるらしい。

 だから荒事担当の俺の出番だ。


「……ん」


 お、フェリシアの瞼がうっすらと開いた。良かった。サルヴェリウスさんの魔法は無事に成功したみたいだ!


「……あれ、朝?」


 フェリシアはまだ寝ぼけているのかトロンとした眼差しをしている。

 特段暴れる様子もなく、なんだか拍子抜けしてしまった。


「起きたか、ねぼすけ」


「うん、おはよー」


 ちゅっ


「……?」


 一瞬、時が止まった。


「?……いつもの挨拶でしょ、どーしたのダーリン?」


 恐ろしい程のプレッシャーを周囲から感じる。

 特にサキと女神様からの圧がヤバい。……え、女神様が何で?


「フェ、フェリシア……俺は一応お前の婚約者という立場ではあるが、キスを毎日するような程には親睦を深めてなかったような気がするんだがな……」


 柔らかいフェリシアの唇にとてもドキドキする。ヤバい、どうしよう!


「フェリシア様、何をしやがるんですかっ!!」


 近くで事の成り行きを見守っていたサキが一瞬で沸騰する。


 フェリシアを心配していた分だけ、彼女が無事に起きたときの喜びが大きかったが、その喜びのエネルギーが驚きと怒りに急速に化学反応を起こしている感じだな。


「フェリシアさま!許せません!

 私だってまだ意識があるときのご主人様とチューなんてしたことなかったのに!

 抜け駆けなんて酷すぎますよ!!」


 俺は今のサキの発言にドン引きだった。


 え、俺って今のキスがファーストキスなんじゃないの?


「サルヴェリウス……あなた、ワザとあの小娘に白昼夢を見せましたね……」


 一方、何故だか知らないが女神様が激しくご立腹だ。


「女神よぉぉぉ、ギブじゃっ!ギブギブッ!!」


 女神様は憤りをぶつけるように、近くに突っ立っていたウィンディの首を掴んで、キツく締め上げている。


 必死にタップしているウィンディが切ない。


「女神よ、彼女は私の子孫なのです。ならば今回の彼女の努力に対して何かしらの正当な対価を与えるのも為政者の務めでしょう」


 柳に風の如く、女神の殺気をひらりと受け流すサルヴェリウスさん。大人だ。


 そしてそんな女神様達の漫才を、近くで翡翠丸がぼーっと眺めている。何を考えているのかはよく分からん。


 みんな本当に元気だな。


 一方で周囲がこんなにも荒れ狂っているのに、肝心のフェリシアからの反応がない。


 ちょっと心配になってフェリシアの顔を見てみると、フェリシアは顔を真っ赤な茹で蛸のようにしてフリーズしていた。


「わ、わたし……あ、あれ……え、えっと……?」


 こっちも暫くしないと落ち着かなさそうだ。


「やれやれ」


 騒がしい面子をぼんやりと眺めていると、緊張が和らぐのを感じる。


 何とも締まらない格好だが、俺はようやく日常が帰ってきたんだなぁと実感した。

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