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アルベルトくん14歳。風の女神(12)

 サキが自分の心の汚さに自己嫌悪をし、思考の袋小路に落ち込んでいた丁度その時、フェリシアから声がかけられた。


「これでやっと1つだけ、あなたに勝つことができた……かな?」


 囁くように呟くフェリシア。


「え、どういう事ですか?」


 突然のフェリシアの告白に戸惑うサキ。


「私ずっとあなたが羨ましかった……ううんそうじゃない。本当は妬ましかったんだ」


 フェリシアの言葉にサキは混乱する。


(だって羨ましいと思ったのも、嫉妬をしていたのも私の方で……)


「そんな……ローティス家の御令嬢であるフェリシア様のような方が、どうして奴隷の私なんかに嫉妬を……?」


「だって、あなたはずっとアルベルトと並び立っていたじゃない!

 いつだってアルベルトが頼りにしていたのはあなた。

 私はずっとお荷物だった……」


 フェリシアは激情を内包したような声音で、サキに訴える。

 そして、悲しそうな微笑を浮かべながら、膝の上で寝ているアルベルトの傷口を優しく撫でた。


(フェリシア様はご主人様に傷を負わせてしまった事を悔やんでいるのね。でもご主人様は絶対にそんな事を気にしないわ。

 昔、私がキングベアに襲われた時もそうだった。アルベルト様はいつだって誰かのために一生懸命なんだ)


 アルベルトに自分だけを見ていてほしい。


 その願望は常に有るけれども、自分がその背中を追い続けているアルベルトという男は、決してサキ(自分)だけを優先するような人間ではない。


 何故ならば彼は偽悪的に振る舞う事も多々あるが、その本質は正義の味方だと思うからである。


 見返りを求めて、何かをするのではない。


 常に出会った誰かのために、一生懸命なのだ。


 その姿に憧れた。だから自分も何かを彼に返したかった。


 そしてフェリシアも、そんなアルベルトに好意を抱き、何かを返したかったに違いない。


「私達、一緒だったんですね。

 ……私は今回のフェリシア様の勇気ある行動に、正直ジェラシーを感じておりました。


 私も昔、アルベルト様に命を救われたんです。それからその背中に追いつきたくて、助けになりたくて、ずっとこれまで走り続けてきました。


 ……正直ご主人様にはまだまだ追いつけていませんけど、いつかは本当の意味で、横に立ちたいんです」


 サキの率直な言葉に、フェリシアは自分と同じ想いを感じた。


「なんだ、お互い様だったんだね。あなたが私に抱いた想いと、私があなたに抱いていた想いは」


「そうですね」


 ふふふ、と笑いあう少女2人。


 しかしフェリシアの終わりが近づいていることを2人は予見しており、その笑みには悲しみの色彩が色濃く浮かんでいた。


「あぁ、せっかく自分の気持ちに気がつけたのに、私はこれで終わりなんだ……ちょっと寂しいなぁ」


 弱気な言葉を零すフェリシア。


「絶対になんとかフェリシア様を救ってみせます!だからそんなに簡単に諦めないで!」


 必死な思いでフェリシアを励ますサキ。


 丁度その時、パチパチパチと拍手の音が近くで鳴った。


「少女同士の友情とは、かくも美しいものなのだね」


 目尻に涙を浮かべて抱き合う2人のそばに、いつの間にかサルヴェリウスが立っていた。


「えっ!?

 ……さ、サルヴェリウスさんッ!?」


 ギョッとして、2人同時にサルヴェリウスを凝視する。


「いやいや失礼。意識が目覚めた後、女神がどうなったのかと思い、急ぎこの部屋に戻ってきたんだが、丁度白熱して話をしている君達の様子が気になって聞き耳を立ててしまったんだよ……」


「レディの話にこっそりと聞き耳を立てるなんて、紳士の風上にも置けませんね……」


 怒りのオーラを浮かびかけるサキを制して、サルヴェリウスは続きを話す。


「まぁ、そう怒らないでくれたまえ。

 代わりに君達にとってとても有意義な話を持ってきたのだから」


「有意義な話?」


 オウム返しに問うフェリシア。


「そうだ。君が今使っている魔法、その魔術構成に実は心当たりがあってね。

 どうやら年月の経過により私が知っている組成と大分違いができているようだが、全体の魔法式の組み立て自体にはそう大きな変化があるわけではなさそうなので、まぁ何とかなるかもしれない」


「え、ええとつまりどういうことなんでしょうか?」


 何が何とかなるのか?話が抽象的すぎていまいち理解が追いついていないサキ。

 そこでサルヴェリウスは端的に表現した。


「詰まるところ、私がその魔法を何とかして、フェリシア()が永遠の眠りに捕らわれるのを防ごう、という事だよ」


 サキとフェリシアは驚愕する。

 何故ならばつい今し方、実質的にフェリシアの魔法の解呪は不可能という結論を出したばかりなのに、この目の前の紳士は何とかなるかもしれないという。


「ほ、本当に何とかなるのですか?」


「確実とは言い切れないが、解呪の可能性は大いにあるとだけ言っておこう。

 ……さて、僕に賭けてみるかい?」


「どうせ他に手はないんです。あなたに賭けましょう!」


「果断な性格だな。為政者としてはもう少し熟慮を求めたいが、その曇りのない目は実にいい。

 流石はローティスに連なる者だ」


「あれ、サルヴェリウスさんってローティス家(うち)をご存知なんですか?


 うちの家系ってなんでか分かりませんが、代々猪突猛進な体育会系ばかりなんですけど、サルヴェリウスさんみたいな知的な人に知ってもらえているなんてちょっと嬉しいです!」


「……そうか。”猪突猛進な体育会系”か。……まぁ、家名が残っただけでも良かったと思うべきかな……?」


「ん、どうかしましたか?」


「いや、特に何も」


 こうしてフェリシアとサキは、サルヴェリウスの提案に乗って、魔法の解呪の手続きに入るのだった。

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