アルベルトくん14歳。風の女神 閑話
本当は9話か10話に組み込む予定でしたが、どっちにしろ中途半端にボリュームが増えてしまうため、間を取って閑話にしました。
一応これも本編です。
「フェリシア様は……その……ご主人様の事が好き……なのですか?」
アルベルトが女神の精神世界内で奮闘している頃、サル・ロディアスにてフェリシアと共に彼の帰りを待つサキは、これまで踏み込んでこなかったアルベルトに対するフェリシアの心情について、確認するのだった。
サキの質問に対して、フェリシアは茶化すことなく真っ直ぐに答える。
「好意が無いと言ったら……嘘になるわね。
……あぁもう、今更カッコつけてもダメね。いいわ、この際だからストレートに言う。
……私、あいつのこと、好きよ。すっごく大好き!」
フェリシアの真っ直ぐな想いを聞き、サキは心にズキりと痛みが走る。
サキは考えまいとしていたが、出会って以来ずっとフェリシアに対して劣等感を持っていたのを自覚する。
自分はご主人様にとって特別だ、と強がってみても、やはり正妻にはなれない。
今までは許嫁がいても所詮は形だけのとるに足らない女だと考えていた。
しかし実際にその許嫁と会ってみると、可憐で聡明で勇気がある、尊敬できる少女だった。
次に考えた事は、どんなに許嫁が高潔で立派な淑女で正妻になる身であっても、ご主人様への想いだけは自分が一番だという自負心だった。
しかし実際には、フェリシアは自分の身を投げ打ってでもアルベルトを助ける道を選ぶような、一途で情熱的な女性だった。
(負けた)
これが嘘偽りないサキの本音だった。
自分はいつでもご主人様のために命を捨てる覚悟があった。
そしてそれこそが自身の愛の証明だと頑なに信じていた。
しかしそれも先を越されてしまった。
この先フェリシアは、ずっとアルベルトの心の大事なところに居続けるだろう。
たとえ何かの奇跡が起こってサキがアルベルトの一番になったとしても、抜けない棘のようにフェリシアの存在はきっとアルベルトの心の中に遺る筈だ。
(ずるい)
フェリシアとは正々堂々と戦いたかった。これではフェリシアの勝ち逃げではないか。
不純な気持ちでフェリシアに助かってほしいと考える己の浅ましさに自己嫌悪し、また、これからは自分だけがアルベルトの心の傷を癒してあげられる存在になれると密かに仄暗く悦んでいる自分の心根の汚らしさに、出口の見えない心の葛藤を覚えるサキだった。




