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アルベルトくん14歳。風の女神(9)

 サル・ロディアス市が攻略されたその日。


 サル・ロディアス市の城壁の外では、雲霞のごとく蛮族の兵士が押し寄せていた。


「西の門に蛮族の先行部隊が張り付いた!第4中隊に応援に行かせろ!」


「蛮族の本隊に対して、第2連隊が遅滞戦術を行っているが支援が足りない!一気に持って行かれる可能性があるぞ!」


「第3支援中隊を回せ!

 ……住人の避難状況はどうなっている!」


「約8割の住人が都市からの脱出に成功している!

 だがこのままでは残り2割と俺達は包囲殲滅される可能性が高い!」


 今、俺達が眺めている場所は、サル・ロディアス市の政庁内のどこかの部屋みたいだ。


 どうやらサル・ロディアスを守備している軍の指揮所として使用しているらしい。


「残り2割の者はこの政庁内の地下に避難させなさい。

 そして軍の主力は北門及び南門より市外に退去!

 城壁内には最低限の守備隊を置き、残る全軍はすでに脱出している市民達の支援に回れ!!」


 お、サルヴェリウスさんだ。

 この市のトップの行政官であるにもかかわらず、逃げ出さずに直接防衛戦の指揮をとっているらしい。


 どうやら今俺達が見ているのは、蛮族が市内に突入する寸前の映像のようだ。


 状態としては、俺と風の女神であるヴェルデは精神だけの存在になって現場を観戦しているみたいだ。


 だからこちらからは彼等に干渉できないし、当然むこうもこちらを認識していない。


 ヴェルテはハラハラした表情でこちらをきつく抱き締めながら彼等に見入っている状態だ。


 暫くすると、軍の参謀達は去っていき、守備隊と偵察部隊だけが残ったようだ。


「敵本隊がついに西の門に到達!市内に残っていた避難民は全員地下に籠もったそうです!」


「よし。市内設備の封印作業を急がせなさい。

 そして最重要命令ですが、敵の上級指揮官を私と1対1で相手するように誘導しなさい。これはどんなに犠牲を払っても成し遂げるように。2割の避難民の生死に関わりますからね!」


「はっ!!」


 キビキビとサルヴェリウスさんの指示に従う軍の将校達。


 そして外の怒号や喧騒が近づいてくるのを感じた。


「来ました!蛮族の主力が一目散に此方に向かってきております!」


「ここが正念場だ!気を抜くなよ!!」


「「「はいッ!!!!」」」


 部屋の中にはサルヴェリウスさんだけが陣取り、他の人は前線や避難民の守備にと散っていった。


 事ここに至っては、サルヴェリウスさんは部下達の働きを信じるしかないみたいだな。


 ドカンッ!!


 数刻の後、部屋の扉が乱暴に開かれる。

 背の高い粗野な雰囲気がある赤毛の男と、その部下と思われる兵士2人が部屋に飛び込んできた。


「ん~、そのご立派な服装からすると、あんたがここの親分かい?

 へへ、ワリィが土産に首を戴くぜ?」


 ニヤリと笑う赤毛の男。相当に戦慣れしている感じだ。

 しかし結局3人が侵入してしまったのか。

 サルヴェリウスさん1人だと荷が重そうだな。


「君はその服装から察するに、傭兵の一部隊の長というところかな?」


 サルヴェリウスさんは腰から細身の剣を抜き、颯爽と構える。


「へへ、こう見えても一応は正規軍の前線指揮官の1人でね。

 ま、元の身分はあんたの推察の通りさ。

 ……よし、さっさと殺せ」


 赤毛の男の部下2人がサルヴェリウスさんに突進してくる。


 ヴェルテは、蛮族の兵士達がサルヴェリウスさんに剣を振り下ろす光景に驚き、目を瞑ってしまった。


 ……彼女が映像を見るのを拒否してしまったため、画面はとりあえずそこで固定されてしまったようだ。


「ヴェルテ、しっかり見届けるんだ!」


 俺はヴェルテを叱咤する。


「で、でも……」


 俺はギュッと正面からヴェルテを抱き締める。


「サルヴェリウスさんは無策で窮地に挑むような人じゃない。

 ずっとあの閉じた世界で見続けていた君なら分かるんじゃないか?

 ……だから信じて……彼の覚悟を見届けるんだ」


 俺は懸命に説得を続ける。

 暫く俺と肌を密着させて顔を埋めていたヴェルテはおずおずと涙目で顔を上げる。


「信じたい。私も彼を信じたいわ。

 ……でもだめなの……怖い、信じ続けるのがやっぱり怖いの……」


 本当にメンタルが弱い女神様だ。ここまで発破をかけてもダメか。

 ……仕方がない。説得を諦めてウィンディに授けられた作戦を実行するか。


「ヴェルテ……」


「ッッッ!!」


 ちょっと強引に、ヴェルテに無理矢理キスをする。最初は目を見開いて驚いていたヴェルテだったが、すぐに目を瞑りそれを受け入れる。


 どれくらい続けたのか。

 お互い貪るように堪能した後、唇を離す。


 ヴェルテは上気した頬を両手で触りながら、ぼうっとした表情で此方を眺めている。


「ヴェルテ」


「……はい」


「俺を信じてくれ」


「は、はい!」


 再び力強く抱き締めてキスをした。今度はヴェルテも積極的に求めてくる。


 ウィンディに授けられた作戦とは、単に『女神を手込めにして強引に従わせろ』だった。


 この風の女神(ヴェルテ)さん、壁ドンとかに弱いタイプらしい。

 だからちょっと強気に押せばイケるだろうとの事だったが、確かにうまくいったようだ。


 だけどこんなシリアスな場面でこんな解決方法で本当に良かったのだろうか。

 ちょっと迷うが、まぁ結果良ければ御の字だろう。多分。

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― 新着の感想 ―
うーん。ちょっとこの展開意味がわからない。やっぱ上澄みの作品読んだ後だとこういうのはしらけるな
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