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アルベルトくん14歳。風の女神(7)

(一体、この道はどこまで続くんだ……?)


 どこまでも続く一本道。後ろを振り返ってみるが、ウィンディの姿はもう見えない。


 俺はすでに数時間歩き続けているが、一向に女神がいる場所に辿り着けないでいる。


 周囲の牧歌的な風景に騙されそうになるが、実のところ、不毛の荒野を歩いているのと全く変わらないように感じられた。


(よくよく考えてみると今の俺って、ゲームでのアルベルト()よりも随分と悲惨な目に遭っているよなぁ)


 どんな死亡フラグにも負けない強い身体と精神を鍛えるために、前世の記憶を取り戻してから随分と無茶をしてきた自覚はある。


 一体何度死にそうな目に遭ったことだろうか。


 思い返してみても、背筋が寒くなってくるようなスリリングな冒険の日々の連続だった。


 黒き森でのキングベアとの死闘、地下ダンジョンのデストラップ、砂漠のデスサンドウァームとの死闘等々、枚挙に暇がないほどだ。


 本当によくぞここまで生き延びてきたもんだ。


 それに対して、ゲームでのアルベルトは、いつも安全な場所で自堕落な生活を送っていた。


 暴飲暴食、出無精で不摂生な暮らし、社会的に忌避されるような性的嗜好等、どう考えても人間の屑だった。


 最期は因果応報なのか、これまでの悪行に相応しい無様な死に方をしていたけれど、少なくとも今の俺のように日常的に死の危険を感じた生活はしていなかったはずだ。


 正直、死亡フラグ回避だけが目的ならば、他にもやりようがあったと思わなくもない。


 だが俺は、この冒険の日々を自分の意志で選んだのだ。


 この世界をもっと知りたい。


 この世界でもっと色々な人に会いたい。


 この世界で、俺はどこまで通用するのか試したい。


 ゲームだったならば、”たった一つの冴えたやり方”が有ったかも知れない。


 だが俺の目には、ゲーム時のようにデジタルなパラメーターは見えない。


 だから数値的なゴールが見えないからこそ、ただひたすら、がむしゃらに挑戦するのだ。


 その先に何があるのかを知りたくて。


 俺は歯を食いしばり、ゴールの見えない道をひたすら進むのだった。


ーーーーー


「サキ……お願いって言うのはね。

 ずっとアルベルトのそばに居てあげてほしいの」


 フェリシアのお願いにサキは何を当たり前のことを、と感じた。


「言わずもがなですよ、フェリシア様!

 私がご主人様から離れる事なんて未来永劫、絶対にありえません!」


サキの力強い宣言に、思わずフェリシアは苦笑してしまう。


(この子は本当に真っ直ぐね。でもこの子だったらきっと、アルベルトの事を十分に支えてくれるはず……)


「この旅先でずっとアルベルトのことを観察していたんだけれど……多分、彼は何か重要な事を私達に隠そうとしているわ。

 恐らく、それは彼自身の事だと思っているのだけれど」


「フェリシア様は何かご主人様のことを知っておられるのですか?」


 サキの問い掛けに、コクリとフェリシアは首肯を返す。


「彼には秘密にしておいてほしいのだけれど……ローティス家(うち)の密偵が調べたところ、彼の本当の父親は伯爵ではない可能性があるの」


 フェリシアはアルベルトの婚約者だ。だからローティス家は事前に相手の家の情報を調べた訳だが、どうやら伯爵と夫人が外国に旅行した際に、何かが有ったらしい。


 この事が婚約者であるにもかかわらず、フェリシアとアルベルトが長期に渡って会わなかった一つの要因であったのだが、この情報はサキにとってかなり衝撃だった。


「え!?ご主人様はその事をご存知なのでしょうか?」


「……分からないわ。でも彼は明らかに一歩引いて私達と距離をとりたがっている素振りを示している。

 あなたにも心当たり、あるんじゃない?」


 フェリシアに指摘され、サキは考え込む。

 そして確かに、アルベルトはどこか自分と距離を取りたがる素振りがあった事を思い出した。


「……はい、あります。つまりご主人様は……」


「ええ、恐らく自身の出生の秘密(そのこと)を知っているわ」


 そしてサキは、アルベルトが冗談めかして彼女に話してくれた彼の秘密(・・)を思い出した。


『いいかサキ。ここだけの話だが、実は俺には未来を見通す能力があるのだ。

 その結果、2年後に下手をすると俺は何者かに殺されるか身一つで国外追放されるかもしれない』


 未来を見通す能力なんて存在しない。にもかかわらず、彼は2年後に起こる自分の凶事を予言していた。


(ご主人様は誰かが(・・・)刺客としてやって来るのを予想しているのですね!)


 サキは、どんな事があろうとも、アルベルトから離れないようにしようと固く誓ったのだった。


 アルベルト本人がもしもこの場で彼女達の話を聞いていたら、全力で『俺、そんなこと知らねぇよ!』と、叫んだと思われるが、残念ながら彼はこの場に居なかった。


 彼が死亡フラグ回避のためにとっていた行動が、バタフライ効果のように様々な影響を周りに与え始めていたのだった。

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