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アルベルトくん14歳。風の女神(5)

 女神が繭の中に引きこもり、戦闘が一段落したと油断した時、突然に繭から白い巨人が出てきて全方位無差別に魔法鎖の攻撃が行われた。


 キン!キン!ガッ!ザシュッ!ザシュ!


「……くっ」


「いきなりなんじゃあ!みんな大丈夫かのぉ!?」


 謁見の間は、その巨人による突然の鎖の攻撃でほとんど瓦礫の山となっており、天蓋(ドーム)が崩れ落ちてくるのも時間の問題と思われた。

 

 ぽたっ……ぽたっ……


「あ、アルベル……ト?」


 俺の目の前には茫然自失しているフェリシアが地面にへたり込んでいる。

 良かった。怪我はないようだ。


「ご、ご主人様ぁぁぁぁ!!」


「……うるさい、静かにしろ」


 サキの絶叫が俺の傷に響く。

 サキは俺の警告が間に合ったようで、魔法でなんとか魔法鎖を弾いていた。


 しかし荒事の場数が足りていないフェリシアは、明らかに鎖を回避できる状況ではなかった。


 俺は考えるよりも早く、フェリシアへと向かっている魔法の鎖の前に身体を躍り出していた。


 最初の数発は翡翠丸で捌くことができたが、やはり全てを瞬時に弾くのは無理があったようだ。


 だから致命傷にならない位置で数発身体で受け止めただけだ。


「お主、大丈夫か?傷は相当深そうに見えるんじゃが……」


 フェリシアが魔法で障壁を張りつつ、心配そうに近づいてくる。


「魔法で痛みをカットしているんで片手と片足が満足に動かないが、まぁ基本的な戦闘行動に支障はないな。

 ただ、今までみたいな全力戦闘はあと1度きりだな。その後は多分ぶっ倒れる」


「女神があの状態になってしもうたら、もう腕力で倒すことは難しいわい。

 ……あれは女神が持つ一種の防衛機構でなぁ。

 あの状態になってしもうたら、もう物理的手段では外部から手出しはできんのじゃ」


 巨大な石像のような、もしくはゴーレムのような白亜の巨人が天に向かって吼えている。

 その大きな咆哮に呼応するように世界がガラガラと崩れようとしていた。


「女神が自我を閉ざしてしまったので、自動的に天の座から女神を護るあの巨人が召喚されてきよったのじゃよ。

 じゃが巨人(あれ)はえらく魔力を喰うのでな。そっちに多くの魔力を吸われてしまい、替わりに世界の維持が困難になってきておるわい。

 このまま”世界創造”の魔法が壊れると、この世界に捕らわれとるサル・ロディアス市民の魂達は勿論、ワシ達も全て吹っ飛んでしまうわい」


 事は一刻を争いそうだ。だがどうやって巨人の奥で心を閉ざしている女神と接触するか。


 とりあえずウィンディに相談してみる。


「うーむ、ワシならばあの巨人に取り付いて女神の精神世界に侵入することはできると思うんじゃが、眷属であるワシじゃとそのまま女神の精神に取り込まれてしまう恐れがあるわい。

 同じ理由で翡翠丸もダメじゃな。そやつも人工的に造られたとはいえ、ベースになっておるのは風の精霊じゃしなぁ」


 つまり人間でないとダメか。だが俺は精神世界に侵入するような魔法は使えないぞ。


 大体精神世界への侵入なんて、闇精霊に関する魔法の奥義に属する類だ。

 俺達の今のメンバーには無縁の領域だった。


 クソ、八方塞がりだな。なんとか方法を考えないと……


「……方法なら、あるわ」


 焦燥に駆られながらもなんとかならないかと悩んでいたとき、横から何か覚悟を決めた眼差しでフェリシアが声をかけてきた。


「フェリシア?」


 無言でコクリと頷き、フェリシアは話を続ける。


「ローティス家の一部の人間には、人の心を他者と短期間だけ繋げる魔法の力があるわ。

 だからまずはウィンディに女神の精神世界へと侵入してもらった後、ウィンディとアルベルト(あんた)の精神を私が同調させることで、多分あんたも女神の精神世界に入ることができると思うの」


 ウィンディがポンと手を叩く。


「ああ、ワシが女神の精神世界へのトンネルとなるのじゃな。女神の精神世界の入口部分までならワシも女神に取り込まれることはないわい。案内は任されたのじゃ!」


 ウィンディは納得したようだが、さっきのフェリシアの眼差しが引っかかるな。


「だけどフェリシア。何か懸案事項が有るんじゃないか?

 さっき、魔法の使用を躊躇っている風に見えたからさ」


「はぁ?……そんなわけないでしょ!

 単に制御が難しいから言い出しにくかっただけよ!」


 俺の質問に対して露骨に渋面を作るフェリシア。美少女がしてはいけない顔だよな……


「……ん~なら良いんだけどさ」


 若干フェリシアが何かを隠している気もするが、俺達には時間がない。早速始めてもらおう。


「ではちょっと行ってくるぞい」


 そう言うと緑色の弾丸となったウィンディが白亜の巨人に接近していく。


 白亜の巨人は、その大きな腕でウィンディをつかまえようとするのだが、左に右に、時には巨人の腕を足場にしてひらりひらりと舞うように回避するウィンディを捉えることができなかった。


 そして、スルスルと巨人の頭部にたどり着くと、急に(ひざまず)いた。



「それではいくぞい!そーれッ!!」


 ゴチーン!と距離が離れている俺達にも聞こえるような大きな音で、巨人に頭を打ちつけたウィンディ。 


 パタリと倒れ臥したが、同時に巨人の動きも停止している。


 タイミングは今だ!


「フェリシア!」


「オッケー!

 ……ローティスの名において願い奉る。闇の精霊よ、彼の者達の心と心を繋げよ”精神接続”!!


     ……ばいばい、アルベルト」


 何か最後にフェリシアが言っていたような気がするが、意識が徐々に堕ちていき、よく聞き取れなかった。

 次回更新は17日です。

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