アルベルトくん14歳。閉じた世界(5)
時間を飛ばして翌日。
今日も朝からひたすら山道を登る。
ただし昨日早めに休んだことが功を奏し、皆の体力には問題はなく、特に大きなトラブルに遭遇する事もなく昼前には依頼のあった高山植物が植生されているエリアに到着した。
「えーと、白い花が咲き、独特の葉の形をした……って結構大量に生えているな」
依頼のあった高山植物はこいつでOKだろう。
俺達は必要分を回収し、リュックに詰めこむ。
高山植物の摘み取り作業が一段落し、女子2人が「下山だぁ~♪」と抱き合って喜びはしゃいでいた。
ふふふ、喜ぶのはまだ早い。本物の地獄はこれからだぜと言わんばかりの勢いで、俺は浮かれている女子2人に非情な言葉を投げかけた。
「よし。ひとまず仮の仕事は終わったぞ。次は本命の山頂への登山だ!」
そう。先日スラム街で会ったサルヴェリウスさんの遣いの者の言葉を借りれば、真の依頼はこっちの方なのだ。
俺の発言に驚き固まる2人。ギギギと首だけこちらに向けてくる。
「「き、聞いてないわよ(です)っ!」」
だって言ってないし。
「今まで秘密にしていたが、この依頼こそがサルヴェリウスさんの真なる依頼だ。諦めてさっさと山登りを続けるぞ」
山ではリーダーの言葉は絶対だ。
2人は渋々俺の提案に従った。
よし、そんなわけで登山再開だ!
俺達は味気ない携帯食料をサキが魔法で出してくれた水で流し込む簡素な昼食を済ますと、山登りを再開した。
どんどんと山を登っていき、高山植物が植生されているあたりを越えてくると森林限界を迎え、山の景色は一変する。
これまでの緑溢れる風景から、剥き出しの岩壁が寒々とした無彩色の世界を作り出している世界へと変わったのだ。
また、その景色は標高の高さからくる温度の低下も相まって、一気に生物を寄せ付けない秘境の趣を醸し出す。
暫しの休憩をとった時、山を見上げてみた。
随分と山頂が近い。もうゴールは間近だ。
俺達は疲れた身体に鞭打って、その最後の道のりを踏破したのだった。
ーーーーー
山頂は小さく拓けた場所になっていた。
張り出した岩石が自然の力で複雑な石垣のように重なることで、上手く足場の安定性が確保されているようだった。
そしてその岩ばかりで無彩色の空間の中で、ドンと垂直方向にそびえ立っている緑色の石と、その上にちょこんと腰掛けている仙人、には見えない翠の髪の少女だけが、他の部分との鮮やかなコントラストを見せていた。
「ご、ご主人様!こんな山頂に、ひ、人が!人が居ますよぉ~っ!」
いきなりの少女の登場に驚くサキ。
そりゃそうだ。こんな何もないところに小さな女の子がぽつんといたら誰だって驚くだろ。
「お、やっときおったか。遅かったのぉ~」
そう言ってニカッと笑う少女。
「あの緑の髪、しかもこんな人気のない所にいる……大きいけど、下の石が要石だとすれば……
ひょっとして精霊……精霊なんじゃないの!?」
流石はフェリシア。俺もそう考えていたところだ。
因みに要石と言うのは精霊をこの世に固定しておくための特殊な石なのだが、こんなに巨大なサイズの石(というより岩だな)は見たことねぇよ。
「いかにも。ワシは風の女神第一の眷族である風の精霊王『ウィンディ』じゃ。よろしくのぉ」
ニカッと笑う少女。こんな子供が風の精霊王とはまさに驚きだ。
まぁ、精霊とは精霊力の塊であり、見た目はあまり重要な要素ではないらしいのだが。
しかしそれにしても見事な幼女だ。
なんといったら良いのだろうか。完成された子供体型とも言うべきか。
ぷにっとしたほっぺたといい、綺麗でパッチリとした目といい、もし俺がロリコンだったら完全に即死していたな。
「ほほう、お主ワシのプリちーさに萌え死にかかっておると見た。見る目があるのぉ」
ニンマリと嗤う少女。その発言にサキは「ご主人様は大きい方が好みなんです!」と、大層ご立腹そうな顔をしていらっしゃる。
「まぁ、貴様等がここに来たという事は、サルヴェリウスは本気で女神と向き合う覚悟を決めた、という事じゃな」
腕を組んで暫し瞑目するロリッ子。
「まぁその先に待つ運命が絶望しかないと薄々察してはいても、根っからの為政者であるヤツは止まらんのじゃろうてなぁ」
そしてウィンディは一つ溜め息を吐くと、俺たちに告げた。
「外から来た人間達よ。薄々解っておるかと思うが、この世界はお主らの世界と繋がった過去ではない。
ここは風の女神の後悔から生まれてしまった、言ってみれば彼女が作り上げた箱庭なのじゃ」
そう、この世界の真実について告げた。




