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アルベルトくん14歳。閉じた世界(2)

 ミニメガドラも出るのですから次はミニSSで。

 気を取り直して今日の午後の予定について3人で話しあう。


「じゃあこのあとはさっき話した通り、各自個別に行動でいいか?」


「ええ、私はそれでいいわ」


「私はご主人様と一緒に行動します!」


 素直に賛意を示すフェリシアとやはり一緒に行動したがるサキ。


 予想通りだが、今回は俺にも説得材料があるぜ。


「いや、たまには個人個人で動こう。例えばほら、サキにだって男と一緒だと買いにくい物とかもあるだろ?」


「ご心配なく。私でしたらご主人様と一緒に黒いスケスケの下着でも生理用品でも大人の玩具でもなんでも買いに行く所存です!」


 胸に手を当て誇らしげにドヤ顔で語るサキ。こいつ本当にメンタル太いよな。


「それじゃあ俺が羞恥プレイに晒されるだろうが!却下だ、却下!」


 俺の却下にぶーたれているサキと、ゆっくりアフタヌーンティーを堪能しているフェリシアを置いて、俺は1人街へと繰り出すことにした。


ーーーーー


「ふんふふーん♪」


 何だろうこの解放感。

 別にサキやフェリシアと行動していて辛いとは感じないが、たまには1人で歩くのも悪くないものだ。


 適当な露店を冷やかす。ここでは行商によってサル・ロディアス市に持ち込まれる様々な物品が並べられているが、いつもよりも若干品揃えが悪い気がする。


「おっちゃん、最近仕入れを減らしたの?だったら俺がそのアクセサリーとか多めに買うからさ、その分まけてくれよ。

 仕入れを増やすには元手が必要でしょ?」


 アルベルト流商売術秘技『店の足下を見る』作戦の実行だ。

 仕入れが減ってる→仕入れる金がない→売上が減ってる→店としては何としても売りたい、っていう店側の心理を突いた完璧な作戦よ。

 俺の隠された商人スキルが光って唸るぜ!


「勘違いすんなよ、兄ちゃん。単に贔屓(ひいき)にしている旅商人が別の街に仕入れに行っていて帰ってくるのが遅れているだけだ。

 ……しかし今までこんなに遅れたことは無かったんだがなぁ。ちょいと別の商人に頼んでみるか……」


 と店主のカウンターが見事に決まり、俺の作戦見事に討ち死。


 しかし余所の街に仕入れに行った商人がなかなか帰ってこない、か。

 まぁいつの時代も行商と危険は隣り合わせと言うし、不幸があったのかも知れないなぁ。


 俺は言葉少なに幾ばくかの魔法の効果があるアクセサリーを買い込み(くくく、元の場所(時代)に戻ったならば、これもきっと高値で売れる事間違いないだろう)、他にもいくつかの天幕を覗きながら、本日のメインイベントが開催される会場へと足を運ぶのだった。


ーーーーー


 歩くこと30分あまり。そこには喧噪に包まれた大きな石造りの会場(スタジアム)があった。


 会場の中は、まず目に付くものとして中央に楕円形の大きな運動場のような場所があった。


 そしてそれをぐるりと取り囲むように、据え付けられた階段状の座席がついており、そこから多くの観客が身を乗り出すようにして会場を注視していた。


 客の大半はむくつけき男共だったが、皆目を血走らせて大声をがなり立てながら、一様に手に掴んだ紙切れを固く握りしめている。


 街の気候は暖かい気温の割に湿気が少なく割合過ごしやすいものだったが、この会場内は観客の異常な熱気のせいで、不快指数が非常に高い状況であった。


 俺は受付でチケットを購入すると、比較的客席に空きが有りそうな場所に移動して座る。


 暫く待っていると、観客席の袖口の方から、会場の中にわらわらと何かの動物が入場してきた。


 そしてメガホンのような形をしている魔法道具らしい拡声装置を使って、司会らしい蝶ネクタイのおっさんが開会の挨拶をしゃべりだした。


『レディースアーンドゥジェントルメーンッ!ついにやってきました、月に1度の大レース!

 どのエラルドが史上最速なのか、ついに雌雄を決する時がキタァァァァァッッ!!』


 エラルドというのはこの世界で一般的に使われている騎乗型の動物で、見た目はガチョウを全体的に丸く太くしたような感じだ。


 俺は会場に出てきたエラルド達を遠くからぼんやりと眺める。

 隣に座っているおっさんは、まだ試合が始まっていないにもかかわらず天を仰いで祈りを捧げ始めている。


「3番来いっ!母ちゃんに内緒で給料前借りしてお前に賭けているんだ!頼む頼む頼むぅぅぅぅ!」


 うわ、こいつヤベーな。ゲームが始まる前から神頼みしてやがるぞ。


『全騎ゲートに入りました。緊張の瞬間です……(パンッ)今、全騎一斉にスタートしました!』


 ゲートがオープンし、8羽のエラルドが猛烈な勢いで駆け出す。


 速い。

 競馬と較べても遜色のないレベルのスピードだ。


 その中でも赤い色のエラルドが混戦を抜け出してトップを走っている。


『まずは1番人気のゼッケン1番”レッドバロン”が抜け出した!これは速い、速すぎるぅぅぅ!

 まさに音速の貴公子レッドバロン!レース前のインタビューで「何なら他のエラルドの3倍のスピードを出してみせるよ」と強気のコメントを出しておりましたが、レースもそのままぶっちぎるのでしょうか~っ!』


 解説がここぞとばかりに煽っている。それにつられて会場もヒートアップ。


 しかしそのまま圧勝かと思われた1番を外から来た黄色の5番が(まく)ってくる。


『おおっと、ここでサル・ロディアス1の暴れん坊エラルド、ゼッケン5番の”イエローペリル”が肉薄する!

 その憎しみが灯ったような闘争心は騎手すら止められません!なにが彼をここまで焚きつけるのか?私にも、全く、解りませんっ!!』


 1番()5番()がトップを争い激しくぶつかり合い、双方が消耗していく。


 そしてレース終盤、互いに消耗しているものの、この2羽のどちらかがトップを飾るかと思われたその時、その2羽を猛追してくる蒼い1羽が現れた。 


『おぉぉぉぉっと!ここでゼッケン3番”ブルーディスティニー”も優勝争いに颯爽と参戦だぁぁぁっ!

 結果に波は大きいのですが、出場エラルド1のトップスピードを誇る大会のダークホース!その常に上位陣を脅かす様は、まさに”戦慄のブルー”と呼べるでしょうっ!』


 最終コーナーを抜けた3羽はほぼ横一線。この距離ではどのエラルドが勝っているのかさっぱり判らない。


 3羽譲らず直線をひた走る。ただただ他よりも速く、疾く。


 そして決着はそのままゴールにまでもつれ込んだ。


『3羽横一線のままゴォォォォルッ!!写真判定によっての決着となりますので皆様、暫くお待ちください!』


そして待つことしばし。さっきまでの喧騒が嘘のように皆結果が発表されるのを固唾をのんで待っている。


「結果が出ました!優勝はゼッケン3番”ブルーディスティニー”!”ブルーディスティニー”です!!」


 その瞬間、会場内のそこかしこで歓喜と慟哭が()い交ぜとなった人間の咆哮がこだました。


「「やったぁぁぁ、キタァァァァァッ!」」


 俺は隣にいてずっと神に祈っていたおっさんと抱き合う。

 実は俺も3番に賭けていたのだ。

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[一言] う~んガンダム
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