アルベルトくん14歳。閉じた世界(1)
某所でのアドバイスを基にあらすじやタイトルを替えようか検討中。
元々見切り発車なので今後の話の展開も予想できないので中々コレといったアイデアが纏まらないわけですが……
「ほう。こいつはなかなか大したものじゃのう」
流星衝突の地より遙か彼方。
サル・ロディアス市を挟んで砂漠地帯の反対側にある巨大な山脈の頂上付近から、年寄りくさい口調の割に年若い女の声が聞こえてくる。
山頂付近はその標高の高さから森林限界を越えており、岩山の灰色の地肌が剥き出しになっていた。
そんな彩度の薄い世界の中、ただ1人若い女の鮮やかな緑の髪だけが、この峻険とした山の頂において唯一鮮やかに色づいているようであった。
「天空より飛来したるあの星の力は、この偽りの世界の表皮を力ずくで剥ぐような素晴らしい威力を持っておった。
女神め。きっと今頃慌てて世界環の維持に忙殺されておるのじゃろうな」
くくく、と少女は微かに嗤う。
流星の爆心地付近には、ブラウン管にちらつくノイズのように所々”世界が剥げかかっている”ような様子があった。
「しかし魔法をあんな風に使う奴がいるとは思わんかった。うつけなのか天才なのか判断を下すのは難しいところじゃがのう」
(元来、星の制御は神の領域。人の身でそれを制御する事は相当に難解だと思うのじゃが……)
この少女もまさか少年が前世にて学校で学んでいたケプラーやニュートンの物理学を応用し、運動体の目標点への自然落下軌道を精緻にシミュレーションし、それを戦略魔法として昇華させていたとは夢にも思わなかった。
(この壮大な茶番も間もなく終わりを迎えるのかも知れん)
そう誰もいない孤独の環境の中で、目を見張るほどに大きな翡翠の石の上にちんまりと腰掛けながら、翠の少女は独りごちる。
もしかして彼らならば。
この閉じて腐っていくばかりの円環を力ずくでこじ開けてくれるかも知れない。
彼等は近いうちに自分のところまできっと来るだろう。
ほとんど予言じみた確信を持ち、少女は彼等が自分のところまで足を運んでくるのをワクワクする気持ちで待つことにした。
ーーーーー
砂漠の騒動から数日が過ぎ去り、俺達の周囲にもようやくある程度落ち着いた空気が戻ってきていた。
「ご主人様~、次の依頼はどんなのでしょうかね。今度は簡単なものだと良いですねぇ」
「……はぁ」
のほほんとしているサキに対して、最近のフェリシアはちょっと元気がない感じだ。
多分、前回の依頼がハンパなくきつかったからだな。
あんなヤバすぎる案件、普通は金等級の冒険者でも受けんわ。
「ほれ、お前ら気合いを入れろ。サルヴェリウスさんに仕事がキツいと苦情は入れるが、当面の目標は国に帰るためにも女神に会うことだからな。しっかり働くぞ」
そして俺達はサルヴェリウスさんに会いに行き、苦情を入れて報酬の増額を要求しつつも、次の新しい依頼を受けるのだった。
ーーーーー
今までの経験上、どうせまた酷い依頼が舞い込んでくるのだろうなと半ば覚悟していたが、あに図らんや、薬草採取やゴブリン退治といった非常に難易度の低い仕事が数回続けて与えられた。
「ずっとこんな仕事だったら楽で良いんですけどねぇ」
そうだよ。こういうので良いんだよ、こういうので!
難易度の低い依頼は当然解決する速度も速い。
しかも今日の仕事はなんと午前中で終わってしまったのだった。
なので昼食を皆で食べた後はたまには個人個人で自由行動を満喫しようという話になった。
とりあえず3人で昼食を摂るために、近くの食堂に入る。
その食堂は、旅の宿屋と夜の飲み屋を兼務する、どこにでもあるタイプの店だった。
(考えてみると、数百年経った俺たちの時代でもシステムはあまり変わっていないよな)
古代帝国の先進性を褒めるべきか、俺達の時代の後進性を嘆くべきか微妙なところだ。
周囲を見渡すと、冒険者風の格好をしている男達や、旅の商人と思わしき荷物多めの人の割合が多いものの、老若男女問わず街の色々な職業の人も利用している大衆食堂の様相を呈していた。
太い樫の木で出来た店の柱は大層年季を感じさせるもので、荒くれ者共の荒い扱いにも耐える頑丈な造りをしている。
とりあえず俺は看板メニューにあったよく判らない動物の肉を使ったシチューと堅いパン、そしてヴィシソワーズ(によく似たスープ)とエールを頼む。
サキは俺と同じシチューに堅いパン、そしてサラダと葡萄ジュースを選び、フェリシアは魚料理と野菜の盛り合わせ、葡萄酒を選んでいた。
料理が恰幅の良い亜人のおばちゃんの手で運ばれてくる。このずんぐりむっくりな体型だとドワーフだろうか?
早速運ばれてきたシチューをいただく。
シチューは香辛料が強めに効いているビーフシチューのような味わいだった。
肉もよく煮込まれており、筋張った部分もなく豚の角煮にも似た柔らかい肉質がとても美味しい。
パンを手でちぎりシチューに浸す。それをパクリといただく。
美味い。
とても濃厚なシチューの味がパサパサだったパンに染み込み、柔らかく味わい深い物に変える。
口の中が濃い。そう感じたら迷わずエールだ。
エールの爽快な味が即座に口の中をゆすぎ、つぎの濃い味付けを受け入れる準備が整う。
そして俺は再び……
「って誰に対して長々と料理の解説してんのよ!」
む。どうやら無意識に言葉に出ていたらしい。フェリシアが耳を引っ張って注意してくる。
「いやちょっと皆に感動のお裾分けをだな……」
「全く、あんたってヤツは普段はこんなだっていうのに……」
ぐぬぬ、とまだフェリシアが何かぶつぶつ言ってる。怖い。
気を取り直してランチの残りをいただき、追加で食後のお茶とデザートを注文した。
しかしどんなファンタジー世界でも大抵はお茶のような飲み物が存在するというのは、やはり植物の有るところお茶あり、ってところなのかな。
もっとも前世の世界でだってチャノキ以外の茶も『茶外茶』として広義のお茶扱いしていたわけだし、そういった意味では前世も同じだったわけだが(麦茶、玄米茶、マテ茶、ルイボスティー等々数え上げたらきりがない)。
そんなことを考えていると、先ほどの亜人のおばちゃんが木製のコップに並々と注がれている黒色のお茶とフルーツが混ぜ込んであるカステラのような菓子を持ってきた。
「お茶にはお好みでミルクと砂糖を入れてくださいね」
ほう、ミルクティーみたいになるのか。
俺は試しに黒い色のお茶を飲んでみる。
……
………………
……うん。これ、コーヒーじゃね?




