解体魔法
連載開始して200回目の投稿です。めでたい。
「死ね死ね死ね死ねッ!!」
狂ったように神器の鎌である那由多を振り回してくる時の女神クロノ。
「ウォォォォォッ!!」
神鎌の一閃目で俺の剣は折られ、アイテムボックスから次の武器を逆手で抜き出す間もなく二閃目でそれも叩き折られ、迫る神鎌の三閃目にはなすすべもなく俺は後退を強いられる。
大振りで雑ではあったがほぼ同時に迫るその神鎌による三連撃は、クロノが勝負を決めに来たと判断できるものであった。
悔しい事だが三連撃を繰り返すその力押しは、何時までも捌き切れるものではなく、俺は刻一刻と追い詰められている自覚があった。
だが、その大振りな全力攻撃は逆に十分にこちらが付け入る隙があるものであり、俺は覚悟を固めて乾坤一擲のカウンターを仕掛ける事とした。
武芸者ではないクロノの全力攻撃は、神速ではあるがその攻撃は直線的で軌道も画一的。
だから───
「死ね死ね死ねッ!!! ………むッ!?」
俺は神鎌の初撃によって武器を斬られたと同時に、一歩を踏み出す。
ガキンッ!!
同時に逆方向から仕掛けられたクロノの二撃目は予想通りの軌道で俺へと迫ってきたため、アイテムボックスの中から引き抜いた刃を犠牲にしてそれを受け流し、さらにクロノへと一歩肉薄する。
「ぐっ!!」
迫る三撃目。俺は全力で左腕に魔力障壁を張りながら自分から神鎌へと向かって行く。
先にクロノの攻撃を二撃分凌いだ事によって得られた、二歩分間合いが近い超接近戦。
適切なる神鎌の間合いの内側に踏み込んだ事で、必殺を誇る神鎌の威力は大幅に減じていたのだった。
ザシュッッ!!
那由多は俺が全力で張った障壁を切り裂き、俺の左腕は深い所まで斬られた。
だが、切断までには至っていない!
「凌いだぜぇッ!!」
俺は卒倒しそうな痛みを歯を食いしばって黙殺し、残った右腕にありったけの魔力を乗せる。
クロノが慌てて放った神鎌の鎖分銅の部分”阿僧祇”が俺の背後の死角から接近してくるのが知覚できたが、俺の一撃には到底間に合わない。
「これで……終わりだァァァッッ!!!」
俺は渾身の一撃をクロノへと放つ。
───と同時に、背後から迫る阿僧祇の気配が那由多に変わった!?
「バカねッ! 那由多と阿僧祇は同じものよッ!」
しまった……ここにきて痛恨の読みミスだ!
間合いが変わった那由多の刃が、俺の首へと背後から急速に迫ってくる。
俺の首が那由多に刈られるのと、俺の一撃がクロノに刺さるのはほぼ同時。これでは良くて相打ちか……それではクロノの封印術式が無事に発動できるか……分からない。
(南無三ッ!!)
ここまできて最後は運任せなのか。走馬燈のようにこれまで俺が辿ってきた旅路を思い浮かべる。
……いいや運などとは違う。俺はいつだって一人ではなかった。俺はゲームシナリオを滅茶苦茶にしてみんなを助けてきた。と、同時に俺もまた、みんなからずっと助けられていたのだった。
だから───
「「ご主人様に……触れるなァァァッッ!!」」
俺の背後に迫る那由多を、横から現れた日本刀が叩き落とす。
「どうですか!? 私のご主人様への愛の力でパワーアップした、翡翠丸さんの威力は!!」
《……単にあなたの禁呪で刀身が概念補強されているだけですよ。愛じゃありませんね》
翡翠丸を構えたサキが、ドヤ顔で俺の背後に迫った那由多を迎撃してくれた。
俺の眼前には驚きで固まっているクロノの姿があった。
「女神、これで終わりだッ!!」
「ふざけ───」
直後、クロノの胴体に撃ち込まれた俺の右手から、直視出来ないほどの輝きが放たれた。
俺とクロノを中心に、空間を埋め尽くすような複雑な魔法陣が現れ、俺の魔力が『鍵』の姿を形成し、クロノから噴出した魔力によって形作られた『鍵穴』へと差し込まれていく。
「わ、私の力がぁ……抜けてぇ……いくぅ………?」
驚愕し怯えるクロノ。クロノから膨大な魔力が溢れるが、それが俺の虹色の魔力と溶け合いながら地中へとどんどんと吸い込まれていったのだ。
「クロノ、俺の身体を乗っ取った事が逆に仇になったな! これからお前はこの世界に混ざり、新しい女神の一柱になるんだよッ!!」
元・俺の身体に納まっているクロノの魂と言う名の強大な魔力。その力を創造神の魔力によって強制的に常世界法則へと書き加えられ、クロノの存在を他の女神たちと同様なモノへと書き換えていく。
───これこそが俺が創造神の残滓より託された、虹色の魔力の”力”だったのだ。
「ぐぐぐ……動けぬ。眷属達よ、こいつを殺せぇ!!」
クロノは必死に世界への溶け込みに抗っているが、もう俺の虹の魔力は俺のコントロールを離れ、ウィンディの制御下で淡々とクロノの解体を行っている。
俺も現状は解体魔法の維持で精一杯でありとても動ける状態ではなかったが、何も心配はしていなかった。
「アルくんには指一本触れさせないよ!」
みんなを代表してクリスが宣言した。
俺の仲間たちはクロノの一味と対峙し、俺へと近づけまいと警戒している。
みんなには秘密にしていたが、俺の今の身体はいわば創造神の魔力で編まれたものだ。
だからクロノの魔力を解体するのにほとんどの力を使ってしまうと俺の存在を維持できるのか微妙なところだった。
(保ってくれよ、俺の身体……)
解体魔法を発動してからどれくらい時間が経っただろうか。長かったのか短かったのか……。
その頃には解体魔法が99%くらい発動し、クロノの存在もほとんど世界へと取り込まれていた。
(何とか保ちそうだな……)
そう安堵していた時、俺へとススス……と近づいてきた人影があった。
「えへへ〜、アルベルトは〜ん♡」
ゆるふわな茶髪と優しげなタレ目が特徴的な美少女であるメアリーが笑顔で俺へと近づいてきた。
少しだけ訝しく思いながらも、俺はクロノの封印術式に集中していたので、俺の背後へとすたすたと近づいてくるメアリーをとりあえず無視した。
ふわり。
俺の鼻孔に、彼女の甘い香りが掠める。
と同時に、彼女は後ろから俺を抱きしめてきたのだ。
「!?」
突然背中に当たる柔らかい感触に、この非常時にメアリーは一体何するの!? と困惑したのだったが、周囲の反応はもっと殺気立ったものだった。
「メアリー!?」
「そ、それは……!?」
じゃらり。
俺の一瞬の意識の空白を突いて、メアリーは俺の首に何かを巻き付けてきた。
「……これでアルベルトはんは、ウチのもんやねぇ♡」
見覚えのある無骨な黒い首輪。
それは以前、俺の従者であるキリングドールにつけた、”服従乃誓約”という魔法道具だった。




