アルベルトくん14歳。砂漠の蚯蚓(5)
俺達は状況的にたろうちゃんの捕縛は諦め(というより一体どうすればデスサンドウァームを捕縛できるというのだろうか)、自衛のためにデスサンドウァームを殲滅することに決めた。
俺とサキは十分に作戦の流れを話し合い、段取りを詰める。
「では始めるぞ。”飛翔”!」
十分に作戦を詰めた後、状況を開始した。
俺は風の魔法を使い、空を飛ぶ。
「へ?な、なんで空なんて飛べるのよ!?」
地上でフェリシアがなにか騒いでいるが無視する。ふん、空を飛ぶことなんぞ風魔法に熟達すれば雑作もないことなのだ。
「にゃーん!にゃーん!」
「ふん、あたらなければどうってことねぇよ!」
俺自身が牛若丸のようにデスサンドウァームの周辺をランダムに飛び、言ってみれば”猫じゃらし”のような役割を果たすことで、デスサンドウァームの注意を惹くことに成功した。
俺の動きに合わせ、巨大なミミズはくねくねと上体を揺すっている。
見ようによっては大人のおもちゃの挙動に若干見えたりもするが、それはまぁ俺のような心綺麗な未成年者には縁無きことであろう。
よし。作戦通りデスサンドウァームは俺に夢中で周りに気づいていない。今がチャンスだ!
「サキ。やれ!」
俺が”風会話”で遠距離にいたサキへと声を飛ばす。
風魔法って直接攻撃の手段は少ないが、色々と応用がきいて便利だな。
「はい!ご主人様!
……邪なる者よ、久遠に臥せよ!”永久凍柩”!!」
長い詠唱を終えて、サキは水系統の最高位魔法の1つ”永久凍柩”を唱える。
この魔法は、水系統の分類の中でも高度戦術魔法にカテゴライズされるもので、広範囲に渡って生半可な手段では溶かすことができない魔法の氷壁を作り出し、相手を強制的に埋めて凍結状態にするものだ。
人間の軍隊や兵士が護っている城等にこれを1発ぶち当てると、大体それだけで戦いの趨勢が決まってしまうような反則じみた大魔法だったりする。
だがしかし、そんな魔法でもデスサンドウァームレベルの凶悪な魔獣になると、一時的に動きを止めるのが精々であり、如何に中ボスというものがデタラメな存在であるのか分かるものである。
何はともあれ、氷に覆われたデスサンドウァームは暫くは動けそうもない。
地上に降り立った俺は目を閉じ、両手を空に掲げると極度に集中して詠唱を始める。
俺自身の魔力強度では”それ”をコントロール仕切れない可能性があるため、翡翠丸の力も借りる。
検索。計算。予測。修正。検索。計算。予測。修正……
何度となく”それ”を探し、軌道を予測し、修正可能かどうかを計算する。
ひたすら上空に巨大な魔法陣を展開し、集中する事しばし。
必中の確信を得た俺は魔法の言葉を解き放つ。
「”流星召喚”」
……
………………
「……な、何よ。なにも起こらないじゃないの!
そんなことよりサキ!さっきの魔法は一体何!どこであんな凄い魔法を覚えたの?!……って、きゃあっ!」
テンション高くサキに詰め寄っているフェリシアを問答無用で小脇に抱え、サキが俺の首にしなだれかかるように抱きついてくるのを確認した俺は、迷わず”高速飛翔”で現場から離脱する。
「よし、ずらかるぞ!」
「はいっ、ご主人様!……どこまでも」
「えっ?なにっ?ちょっとぉぉぉぉぉぉーッ?」
状況を把握していないフェリシアの声をドップラー効果のように響かせながら、俺はデスサンドウァームから時間が許す限り距離をとる。
「んっ!」
「うぺっ!」
最後は飛行魔法の速度を落とすことなく滑るように地面に着地し、俺は有無を言わせず2人に覆い被さるようにして、サキとフェリシアを無理やり地面に伏せさせ、風の結界を張った。
その直後。
天空より飛来した一筋の禍つ星が地に堕ち、地上に巨大な太陽を現出させた。
ドゴォォォォォォォォンッ!!!!
デスサンドウァームが巻き起こした砂埃など比較にならないレベルで砂漠になにか巨大な爆発が巻き起こる。
そしてその爆心地より放射状に、激しい砂嵐が巻き起こった。
俺達は風の結界の中でじっと身を伏せて、砂嵐が収まるのを待つ。
一体どれくらい時間が過ぎただろうか。
未だ大気中には砂埃が溢れ、まだまだ空に浮かぶ太陽がハッキリとは見えない。
しかし少なくとも、さっきまで俺たちがいたあたりには巨大なクレーターが出来上がっており、デスサンドウァームの気配はどこにも感じられなかった。
俺が放った魔法は、国にバレれば間違いなく禁術指定が下されるだろう決戦用戦略魔法”流星召喚”だ。
通常の”隕石召喚”は、上空に小さな隕石を呼び出して地上に落下させ、その爆風等で城壁に穴を空けたり、大軍にダメージを与えたりする大魔法で、対軍用戦術魔法の1つだ。
しかし俺は上空に隕石を呼び出す代わりに、更なる高空の彼方に滞空している流星群を動かし、”隕石召喚”で呼び出す隕石よりも巨大な天体を、より位置エネルギーが高い天空より直接地上にぶつけるように改良した戦略級の魔法である。
おそらく霊体等の実体を持たない敵を除いて、物理攻撃が通用する相手には絶大な威力を発揮する言うなれば決戦魔法だ。
切り札なだけはあり威力は絶大なのだが、勿論いくつかの無視しえない欠点はある。
まず最初に、攻撃範囲が広すぎて、俺が巻き込まれるリスクが高い。
どんなに魔力障壁を張ろうと、近場でこれを喰らったら確実に俺は死ぬ。
次に威力の制御ができない点だろう。
だってこの魔法の打撃力は、俺の魔法強度に依存していない。
全て星そのものが持っている力を利用しているからだ。
俺の魔力はあくまでも星の制御や探索に全振り。通常の”風刃”なんかとは違うのだ。
更に制御にしくじれば強い星の魔力からバックファイヤーをくらい、やはり俺は死んでしまったりする。
それ以外にも消費魔力が多すぎて一発で弾切れになったり、詠唱に時間がかかるのも欠点として挙げられるがそんなものは些末事だろう。
切り札とは浪漫だからだ。
未だ理解が追いついていないようで、心ここにあらずな感じに茫然自失しているフェリシアと、キラキラした眼差しで俺を尊敬の眼差しで見上げているサキを眺めつつ、さてどのようにして街まで戻ろうかなと1人思案しながら、今回の大騒動はひとまずの決着を迎えたのだった。




