追い詰められて
謹賀新年。
今年はコロナの影響で数年ぶりに正月休みもなく働かされております。
誰か休みをくれ〜(泣)
「結構楽しかったけど、ここらへんが潮時ね。さようなら、神の傀儡さん」
クロノは那由多を振りかぶり、地面へと倒れ伏している俺へと振り下ろしてきた。
「ぐっ!!」
俺は無様に地面を転がって、辛うじてその死の鎌の刃を避けた。
「ちょっとぉ〜、避けちゃだめでしょぉ〜」
軽い言葉とは裏腹に、クロノによる鋭い斬撃は続く。
俺は2度3度と泥に塗れるのも能わず地面を転がりながら、必死にその攻撃を掻い潜った。
「もう、ちょこまかちょこまかと! 本当に鬱陶しいわねッ!」
無様にも必死に回避し続ける俺の姿に苛ついたクロノは、得意のミニブラックホールの魔法を織り交ぜて、俺が回避できない攻撃を放ってきた。
翡翠丸でも一合受けるのがやっとの、超硬重厚なる神の鎌。
俺は咄嗟に魔法の鞄から武器を取り出す。
俺は以前、最終決戦に備えて高難度ダンジョンを数多く踏破しており、サキ達にも多くの貴重な装備を渡していたが、その他にも伝説級の武器とかをいくつかストックしておいたのだ。
だが───
「チッ、マジか!!」
ゲームなら最終装備とかになりそうな伝説級の武器もクロノの神器を受けてあっさりと折られてしまい、防御用の魔法防壁諸共吹き飛ばされてしまった。
まぁ翡翠丸でも防ぎきれないような神鎌による攻撃なのだ。不意さえ打たれなければ多少は保つかと思ったが、鎌を1合受けるごとに武器を持ち替えなければならなさそうだった。
そうして打開策もなく執拗に続くクロノの攻撃を、俺は武器の残機を数えながら防ぎ続けた。
「……本当に呆れたしぶとさね。そのゴキブリ並みの生き汚さだけは正直感心するわぁ」
クロノは、こちらをバカにしたような顔つきでため息をついてくる。
一方的にクロノから攻撃され続け、こちらは全身泥だらけで血だらけの満身創痍な状況だ。
継戦能力維持の必要性から残存魔力を保たせるために致命的なダメージ以外には回復魔法を控えていたら、身体中痣や打身だらけとなってしまったのだ。
(アイテムボックス内の武器の残数も心許ない……相手の攻撃パターンはある程度読みきれたが、あの神鎌の攻撃を一度は防がないと有効な反撃はいれられねぇなぁ……)
俺は必死に状況の打開を考えるが、現状では手札に乏しく万策尽きつつあり、焦りが心の中に浮かんでくる。
そんな苦しい状況ではあったが、待ちわびた朗報が俺の脳裏に届いた。
《お前様、こちらの準備はほとんど済んだのじゃあ〜》
俺の体内で”儀式魔法”の準備をしていたウィンディから、待望の切り札の準備が整った旨が返ってきた。
よし! あとはなんとかクロノに一太刀さえ入れられれば、状況を劇的に動かせるのだが───
「……ん〜? ところであなたの身体の中にいるちっちゃな精霊ちゃんはずっと何をしていたのかしらぁ〜?」
げっ!? 早速こちらの気配の変化を、クロノは目敏く嗅ぎつけて来やがったか。
「はっ! 何か企んでるに決まっているだろうが。俺はお前を倒すためにここにいるんだぜ!?」
俺はふてぶてしく、嗤う。反撃のチャンスは絶対にくる。そう信じて食い下がるのだ。
「……まぁ、何を企んでいようと私の勝利は変わらないのだけれどもねぇ〜」
俺の態度にカチンときたのか、冷笑を浮かべ再び那由多を構えるクロノ。
「来いよ女神。まだまだダンスの途中だぜ」
俺の挑発を受けニヤリと笑い、鎌を振りかぶり吶喊してくるクロノ。
俺は死線の中に勝機を見出すべく、その死のワルツを真っ向から受けて立った───
─────
怖い。
それがサキの胸内に浮かぶ感情だった。
翡翠丸が戦線離脱して以降、アルベルトは一方的にクロノから攻撃を受けていた。
鎌が一閃される度、心臓はキュッと掴まれるような気分がし、それを紙一重で対処するアルベルトを見てようやく呼吸が再開される。そんなことを繰り返していた。
(ご主人様は強がっているけれども……)
誤魔化しながら戦っているが、手傷を負うごとにアルベルトの動きはほんのちょっとづつ悪くなっており、サキの目から見ても戦いの終幕が近づいているのが感じられた。
(このままだと───)
彼女の脳裏にフラッシュバックされたのは、クロノ復活の端緒となったあのアルベルトが死ぬ光景であった。
彼女に絶望と後悔をもたらした悪夢の記憶。
絶対にそんなことは二度と再現させてたまるものか。もしそうなる危機が起きたならばまずは我が身を挺身する───と、主人が再び彼女の前に姿を現した時に彼女は誓ったのだ。
今がまさにその時だと、彼女は思った。
クロノの攻撃を一太刀受け、せめてアルベルトが斬り殺される前に従者たる自分が先に死ななければと悲壮な覚悟を固めた時、彼女の心に誰かの問いかけが届いた。
《……サキ……サキ……私の声……聞こえますか……?》
弱々しくもはっきりとした意思が感じられる声音。
正直嫌いな相手ではあったが、主人を思う心には決して偽りはないという点のみは信頼している仲間。
(……翡翠丸?)
サキは地面に倒れ伏している翡翠丸を凝視する。
翡翠丸は倒れ伏したままであったが、その強い眼力だけは健在であり、それがずっとサキを捉えている。
《貴女が……私を嫌っているのは知ってます……ですが……今だけは……》
この絶望的な状況下で翡翠丸が何をしたいのか、サキには大体分かった。
それが己が命を賭ける事になることも。
《御主人様を助けるためでしょう? ここが命の賭け時です。何か策があるのなら……早く》
サキの瞳に再び焔が灯った。




