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 更新遅れてすみません。これからも社畜スピリッツを涵養し年末進行を頑張りましょう!

「ご主人様……」


 目の前で繰り広げられているアルベルトとクロノの超常の戦いを見て、サキは小さく呟きを漏らす。


 それは神話にて語られる類の、人間には踏み込めないレベルの攻防だった。


「GRUAAAAAッ!!」


 知能のない魔獣が数匹誤って二人の戦場に侵入した途端、鎧袖一触とばかりにあっさりと消えていった。


 強者2人の戦場は、すでに余人の立ち入る隙間はなく、知能のあるものは敵も味方も遠巻きに神々の戦いを見守る事しかできなかったのだ。


「……くっ」


 サキはアルベルトの戦いが少しでも有利になるならば、自己犠牲を前提とした肉の盾にでもなんでもなるつもりでいた。


 だが2人の戦いはあまりにも異次元であった。


 サキはすでに世界的に見てもトップクラスの実力者であったが、そのサキでさえも2人のレベルには到底及ばず、足手まといにならぬよう他の者と同様に遠巻きに見守ることしかできなかったのだ。


「ご主人様、どうか勝利を……」


 だからサキはただ一心に、アルベルトの勝利を信じ、祈り続けるのであった。


─────


「チッ、流石はラスボス。やっぱ一筋縄じゃいかねぇなぁ」


 俺は舌打ちしつつ、翡翠丸を構えクロノを見据える。


 今のところ状況はこちらが有利だ。クロノ(相手)を完全に封じ込めた上で、手傷をちまちまと与えている。


 一つ一つの攻撃は致命傷には程遠いが、このレベルの戦いではその小さな瑕疵が大きな差へと変わっていくのだ。


 このまま均衡が保たれれば、いずれこちらへと勝利の天秤が傾いて行くだろう。


 そんな時、クロノは大振りの攻撃を仕掛けてきて、俺は咄嗟に受ける。


 その反動を利用してクロノは俺から距離を取ると、一つ溜息をつき、両手をだらりとたれ下げる。


「?」


 そんな無防備な姿勢になる意図が分からず、俺は翡翠丸を構えて警戒する。


「………今はお前が強い、と認めよう」


 人間など塵芥(ちりあくた)と考えているプライドの塊である女神が、俺へと自身の劣勢を伝えた。


 その言葉を聞いて俺は逆に警戒感が高まる。クロノを中心として魔力が渦巻いてきたからだ。


「そもそも貴様には強力な精霊が2柱も協力しているではないか。それに対してこちらは私だけ。……これは不公平よな?」


 そう言うとクロノは掌を上に向けたまま両腕を高く掲げた。


 クロノから高まる魔力に危機感を覚えた俺は、先手を打つべく翡翠丸を構え吶喊する。


 だが、一手届かなかった。


 ガチンッッ!!


《ええっ!?》「!?」


 驚く俺と翡翠丸。数多の魔物の魔力を喰らい存在の強度を高め、”斬る”という概念に特化した翡翠丸は、例え相手が神といえども手傷を負わせられるほどの神器に匹敵する精霊剣だ。


 空間から現れた巨大な鎌。


 死神の鎌のようなシルエットを持つそれが、翡翠丸の斬撃を受け止めていたのだった。


「だからこちらも眷属を喚ばせてもらった。……紹介しよう、こいつは我が最初の眷属にして始祖の時の精霊”那由多(なゆた)”だ」


 禍々しい輝きと翡翠丸以上の魔力が籠められた時の女神の始祖精霊が、こちらへと牙を剥くのだった。


─────


「あはは! さっきの威勢はどうした? ほらほらこれでも受けなさいよ!」


「ちっ!!」


 俺は受け流すように鎌の軌道に沿って翡翠丸を当てる。


 翡翠丸の刃の上を滑るように鎌は移動し、なんとか俺はその攻撃を凌ぎ切った。


 だがそんなことでさえ両手には物凄い重圧がかかり、翡翠丸を取り落としそうになってしまうほどの衝撃がかかるのだった。


《マスター! 数合の打ち合いならばなんとか保たせて見せます! ですからどうか攻撃をっ!!》


 翡翠丸が必死に攻勢を願い出る。だが俺の見立てでは鎌と打ち合うならば保って1合だ。2撃正面から打たれたならば翡翠丸は折れて砕け、二度と復活できないだろう。


「却下だ翡翠丸。それに俺はまだ攻勢を諦めちゃいないぜ」


 俺はクロノから距離を取り、虹色の魔力を集中する。


「”加速”ッ!!」


 俺は身体強化系の最高峰の魔法を己にかけ、クロノへと吶喊する。


「どんなに素早く動けても、我が那由多からは逃れぬよ!」


 那由多()を悠然と振り回すクロノに対して、俺は不敵に嗤う。


「”完全幻影”ッ!!」


 一瞬で俺の姿が4つに分裂する。


 闇魔法の極北”完全幻影”。ゲーム時にはチート魔法とも言われた闇魔法系列の最後に覚える魔法だ。


 この魔法は幻影を大量に作る通常の”分身”とは違い、その存在そのものを多重化する魔法だ。


 ゲーム的には攻撃力が倍化したり残機分だけヒットポイントが増えたりする扱いであったが、現実化した今では、4人全てが本体でありかつ幻影であるという『不確定性』を利用した魔法だと理解できた。


 いわゆるシュレディンガーの猫、ってやつだな。


「猪口才なッ!!」


 空間を斬り裂くように振るわれる死の鎌。


 それは俺の幻影を3体まで一気に斬り捨てていた。


「───だが全部は斬れなかったなぁッ!!」


「うぬっ!?」


 土煙を突っ切って飛び出る俺。鎌を振るって無防備な姿を晒すクロノ。


「貰ったッ!!」


 俺は迷わず翡翠丸をクロノへと振り下ろした。


「───惜しかったのぉ」


 ガキン。


 空間を切り裂くようにして現れた鎖分銅(くさりふんどう)が翡翠丸をぐるぐると拘束し、その動きを一瞬だけ止めた。


 翡翠丸の切れ味の前にはそんな分銅はすぐに斬られたが、その一瞬の拘束が全てをご破産にしてしまったのだ。


《マスターッ!!》


 悲鳴のような翡翠丸の声で、空間を切り裂くようにして一瞬で現れた鎌の存在に気づいた俺。


 ついに俺はずっと避けてきた翡翠丸自身を使っての受けに回らざるをえなかったのだ。


《あああああああああああッッ!!!!》


 脳内に翡翠丸の絶叫が響く。それと同時に翡翠丸の刀身からも悲鳴のような音が聞こえてくる。


 俺は敢えて踏み止まらず、翡翠丸と一緒に鎌の一撃を受けた。


「ぐっ!!」


 恐ろしいまでの威力で吹き飛ばされ、地面に衝突した後も土を削りながらゴロゴロと転がされた。


 地面に横たわる俺。その手にあった翡翠丸は俺の手から零れ落ち、精霊としての刀の姿を維持できず、人間形態へと変化していた。


「翡翠丸ッ!」


「ん……」


 良かった。意識を喪っているが、弱々しいものの魔力はまだある。これならば命に別条はないだろう。


 俺は気力で立ち上がりクロノを睨む。


「ふふ……言わなかったが、我が始祖精霊は双子でね。鎌の部分は”那由多”が。そして鎖分銅の部分は”阿僧祇(あそうぎ)”が担当しているのよ」


 クロノの武器は死神の鎌ではなく、鎖鎌だったのだ。


「結構楽しかったけど、ここらへんが潮時ね。さようなら、神の傀儡さん」


 クロノは鎌を振りかぶった。

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