高嶺の花
祝1万pt到達です。読者様に感謝を。
「……さて、おはようみんな。昨日はぐっすり眠れたか?」
俺の挨拶を受けてみんなは元気に返事をする。
サキ達は俺が色々なダンジョンに潜って調達してきた最終決戦用の装備に身を包み、その使い勝手をめいめい確認していた。
「ご主人様、この装備すごく軽いですね!」
「あ、アルくん! こんな高そうな装備を貰っちゃっていいの!?」
みんな体調が良さそうだ。俺はため息をつきながらニコニコしているメアリーに確認する。
「んでメアリー。ここ3日ほど寝込んでいたけど、体調の方はもう問題ないのか?」
「本当にごめんなさい〜。もうすっかりええよぉ〜」
3日前に最終決戦にむけて出発しようとした時、起きてこないメアリーを心配して俺はメアリーの部屋の中へと入った。
そうしたら顔を真っ赤にしたメアリーが、半脱ぎの状態でフラフラとしていたのだった。
流石の俺もそんな状況で作戦を強行するわけには行かず、この3日ほど女神との決戦は延期されていたのであった。
「まぁ、ちょうど今から”門”の魔法で飛べば、王都の郊外でクロノと会敵できるだろ。みんな今から魔法を発動する準備をするから、リラックスして待っていてくれ」
”門”の魔法は、遠隔地に人間を送り込む事ができる闇魔法の奥義だ。
俺はその大規模な儀式魔術を行使するため、長い詠唱を開始するのであった。
─────
同時刻。
フレイン王国の首都から3日の距離にある大丘陵地帯に、数多の王国兵が集結していた。
聖戦を掲げ独断で動いていたラ・ゼルカ聖王国の聖騎士団が敗れた今、モンスター群集団による首都の蹂躪を防ぐためにはこの丘陵地帯にて敵勢力を粉砕する必要があったためだ。
「お前ら気合を入れろッ! 敵はアショカ騎士団やラ・ゼルカの聖騎士団をも撃ち破ったバケモンどもだッ! だがここを抜かれたならば我らが父祖伝来の地は全て灰燼に帰すだろう! だから俺達は退けないし退かないッ!」
馬に乗った指揮官が繰り返し兵の間を行来し、その戦意を鼓舞している。
王国兵は正直ラ・ゼルカの聖騎士団が敗れるとは微塵も考えていなかったのだ。
元々王国軍がここに陣を張っていたのは、あくまでも王国側も聖戦に参戦しているというアリバイ作りのために他ならなかったわけだが、今はそれが逆に幸いし戦力の集中という会戦における原則の一つがクリアされているのであった。
「王よ」
王国軍を指揮する幕僚が集まっている陣の中へと赤毛の偉丈夫が入ってきた。
「ローティス候よ、なにか」
王は、鷹揚にフェリシアの父親であるローティス侯爵の呼びかけに応じた。
「まもなく最前線部隊が敵の第一陣と接触します。……しかし王よ。本当にサルト元宰相家の兵を最前線に貼り付けておくのですか?」
「くどい。元宰相が我が娘と共謀し、外患誘致した事は明白だと”間諜”から情報が入ったではないか」
「”間諜”、ですか…… しかしサルト元宰相の行方が不明となっている現状では、あくまでも容疑者という扱いにして公平を期するべきかと」
「……本人からの直接の申し開きがあるならば再び検討しよう。だが元宰相があの”悪魔”を匿っていた事はすでに明白なのだ。しかも間諜の報告によると死んだと思われていたその悪魔は、実は生存していたらしい。これだけでも今回の仕儀の正当性は成り立つのだよ」
「”悪魔”……ですか。アレは私の娘の婚約者でもあったんですけれどもねぇ」
ローティス侯爵は溜息をついた。
王家は”間諜”からもたらされた情報によって、ここ1年以内に起こった数々の異常事件の顛末を知った。
大国エクスバーツが誇る大艦隊の突然の壊滅、ミモミケ獣人帝国内で発生した封印されし邪竜の討滅、そして数ヶ月前に王国内で発生した大規模テロ事件への関与……。
一個人で持つにはあまりにも危険な戦力。”悪魔”は、王権に対する何かしらの挑戦を意図し、サルト元宰相が禁呪に手を出して作り上げた人造生命体ではないかと王国諜報部は分析していた。
「まぁ、”悪魔”についてはモンスター群集団と敵対関係にあるらしい。我々としては悪魔をモンスターにぶつけて、共倒れを狙うのが筋だろう」
王が満足そうに話すがローティス侯爵はため息をつき反論する。
「……そもそも我々の戦力ではモンスター群集団に勝てるとは思えませんし、素直に”悪魔”──いや、アルベルトくんに助けを請うのが筋ではないかと思うのですが……」
ローティスは内心で、現状の危機的状況にもかかわらず変わらずに保身に走っている愚昧な王とその取り巻き達に吐気がする思いであった。
「悪魔の対処については、我が間諜に考えがあるらしい。お手並み拝見といこう」
王は邪悪に嗤うのであった。
─────
「………………」
天幕の中からとっても不穏な話が聞こえてきた。
フードを深く被ってもピンと飛び出た耳が隠せていないその銀髪の少女は、慌てて天幕を離れて駆け出したのだった。
─────
「───なぁ、アルベルトはん」
「ん、なに?」
俺は”門”の構築を終えて、移動座標の最終確認をしていた時、横からメアリーが声をかけてきた。
「……もしアルベルトはんがなーんも特技がない凡庸な男の子で。それでもどうしても彼女にしたい高嶺の花がおって。さらにその彼女にはたくさんのスペックの高いボーイフレンドが取り巻いていたとして。……どうやってその彼女を落とすかな?」
なかなかギャルゲーらしい禅問答だな。俺は作業しながら簡潔に答える。
「そりゃあれだ。こっちもトレーニングを重ねて他の男の子に対抗できる能力を作って、愚直に勝負を挑んでいくしかないんじゃねーかな?」
まさにパラメータを上げるギャルゲーの王道展開だな。
「正攻法やねぇ。じゃあ次の質問。その男の子は物語の脇役で、どんなに頑張っても絶対に彼女が振り向いてくれません。それでもやっぱり彼女に振り向いてほしい場合、どんな手段があるかなぁ?」
段々ギャルゲーというよりエロゲーみたいな展開になってきたな。うーん、冴えないモブがメインヒロインを毒牙にかけたい。だったら取れる手段は───
「その女の子はこっちにこれっぽっちも意識なんて向けてないんだろ? だったら洗脳アイテムでも使ってこっそり自分のもんにでもするかなぁ。まぁそんなもんでも使わないと正直無理筋だろ」
洗脳NTRみたいな展開になりそうだな、これ。
「……あは! やっぱりアルベルトはんは凄いわぁ〜。私も同じ考えなんよ!」
何がおもしろいのかケラケラと声を上げて笑うメアリー。女の子がエロゲーのNTR展開が好きとかちょっとエキセントリックすぎるのではないかと思ったが、まぁ趣味は人それぞれだろう。
俺は”門”を稼働し、みんなに声をかける。
「……よし。みんな準備はいいか?」
めいめい元気に返事をする仲間たち。ゲームのメインキャラで今では俺の頼れる仲間たちだ。
「いつでもいいわ、アルベルト」
キリッとしたフェリシア。
「ご主人様、いつまでもお供しますね」
相変わらずさらりと重い宣言をしてくるサキ。
「マスター、これが終わりましたら子づくりしましょう」
訳がわからん事を言う翡翠丸。……精霊ってそもそも生殖能力あるのかよ。
「あはは……アルくん、頑張ろうね!」
元気なクリスの声。
「私も頑張りますよ!」「そうやねぇ〜」
リーゼとメアリーが声を合わせる。
「ワシも頑張るのじゃ〜」「御主人、休んでてもいいデスか?」
ウィンディとミーアは相変わらずマイペースだな。
できる事は全てやった。どんな結末を迎えるかは分からないが、俺は俺ができる全力で挑むだけだ。
「いくぜ!!」
「「「おぉ〜ッ!!」」」
そうして俺たちは”門”へと突入した。
─────
(アルベルトはん……)
私は後ろを振り返らずに全力で走り抜けるアルベルトはんを見つめる。
いつも明るい太陽のようにみんなを照らすアルベルトはん。
本当に高嶺の花なお人や。
ちらりと周りを見ると、サキはんやフェリシアはん達はみんな頬を赤く染めてアルベルトはんを見つめていた。
今は危機的な状況だから自重しているけど、みんなアルベルトはんの事が大好きや。
それはもちろんライク的な好きではなくて、ラブ的な方や。
キスをしたい。身体を触れ合いたい。アルベルトはんを独り占めしたい。
みんな思いは一緒だけど、アルベルトはんは真面目な人だから多分ハーレム的な関係は受け入れないと思う。
だからアルベルトはんは露骨な大好きアピールをさらりと躱しているのだと思う。
じゃらり。
私は無意識のうちに、ポケットの中に仕舞ってあるそれに手をのばす。
一度アルベルトはんが死んでしまった時、ミーアはんの首についていたその首輪がぽろりと取れてしまったんや。
ミーアはんはあまりにもアルベルトはんの死の衝撃に打ちのめされていたらしく、その事実すら忘れているみたい。
魔力でサーチしてみると、機能はまだ使えるみたいやね。
「モブな女の子が、高嶺の花な男の子をゲットするのに手段なんて選んでいられないよね……」
私は、暗い嗤いを小さくこぼした。




