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矜持(上)

 今回も話が長くなってしまったので分割デス。

 コンパクトにまとめたいのですが中々上手くいかないですねぇ。

 ラ・ゼルカの聖騎士達が本気を出した時の女神(クロノ)一行に叩きのめされていたのと同じ頃、聖騎士団と行動を共にしていたフェリシア達にも悪い方向に変化が起きていた。


 ラ・ゼルカ聖王国から見て外様であったフェリシア達フレイン王国の一行は、主戦場からほど遠い聖歌隊の護衛を任されていたのであった。


 支援部隊の護衛なんて完全な貧乏クジではあったが、アルベルトの弔い合戦に参加できるのだからと自らに言い聞かせて、フェリシア達は黙々と作戦に従事していた。


 作戦開始当初は、以前戦った時と比較して大幅に耐久力や攻撃力が上がっている元魔獣達に驚かされたものの、魔獣達の動きの単調さや鈍重さに助けられて大した問題も起きず順調に魔獣達を駆逐していったのであった。


───先程までは。


「さっきまでと魔獣達の動きが全然違うわ! それになんなのこの異常な回復力はっ!?」


 フェリシア達は戸惑いながらも応戦を続ける。


 なんの前触れもなく、いきなり魔獣達の動きが敏捷になったのだ。


 更に魔獣達は組織だった連携もとり始めた上に異常な回復力も付与されていた。


 手強くなった魔獣達が相手では、フェリシアの現在持ちうる遠距離火力では魔獣達の回復力を圧倒することができないため、魔獣を一気に倒しきることができなかった。


「”土壁”〜ッ! 受け止めました〜。リーゼはん、フェリシア様、あとはお願いします〜」


「メアリーさんナイスです! 戒めよ、禍の動きを阻害せよ……”闇縛”!」


「ここで決めるわっ! ……”焔龍斬”ッ!!」


「「やった! 流石はフェリシア様です!!」」


「二人共気を抜いちゃダメよ! 次を狙うわ!」


「「はい、フェリシア様!!」」


 そのためフェリシアは、魔獣に対してリーゼやメアリーと共同して一匹づつ丁寧に近接戦闘で狩らざるえなかったのだった。


 一方でクリスは魔獣達相手に単独で善戦していた。


「”光乃盾”! ……からのぉ〜”光剣”ッ!」


 どうやらクリスの光魔法は魔獣達との相性が良いらしく、攻撃を魔法の光盾で受け止めた後に素早く光魔法の近接攻撃で魔獣の首をスパッと切り落としていた。


 フェリシアやクリス達が単騎を相手に防衛戦を仕掛けていたのに対して、サキとミーアは広範囲魔法等を使って大量の魔獣を相手取っていた。


「え〜い、しつこく復活しやがってなのデース! ……”爆導筒”射出なのデース! 木っ端微塵になりやがれなのデースっ!」


「……ご主人様のいないこんな世界なんてキライっ! みんなみんな凍り付けッ! ……”空間置換【氷】”……ケモノ共よ、臥して永久(とこしえ)に眠れ!」


 ミーアの必殺技によって回復速度が追いつかないレベルで爆散させられる魔獣達。そしてサキが放つ水系統の最上位魔法で次々と凍りついていく魔獣達。


 確実に魔獣達の数は減っていった筈だ。にもかかわらず、フェリシアの眼前には先程と変わらないほどの雲霞の如き魔獣達が暴れていた。


「これは流石に不味いわ。サキ! クリス! みんな、一度引くわよ!」


 最後に炎魔法で目眩ましの火の壁を作ると、全員で後方の聖歌隊の本陣へと向かったのだった。


─────


「え!? 聖女が……逃げたっ!?」


 聖歌隊の本陣へ這々の体で後退したフェリシア達を待ちうけていたのは、なんと聖女逃亡のバッドニュースだった。


「聖女様は決して邪悪からは逃げませんぞ! ……ただ少しお身体に差し障りがあったため、本国へと一時移動をお願いしただけなのですぞ」


 屁理屈を言う聖歌隊の隊長であったが、それを逃亡と言わず何というのかとフェリシアは内心思った。だがしかし、それを話すと議論は平行線になると思いひとまず黙った。


「それで今後はどうします? 8人の聖騎士達が敗北し、敵の攻撃圧力はかなり強まっているみたいですけど」


 幸いだったのは敵本体はこちらを全力で戦うべき敵と見做さず、フレイン王国の首都の方角へと向かった事だった。


 それはそれで大きな問題ではあったのだが、取り急ぎこちらが相手をすべき敵は、残置された魔獣の分遣隊と、ミーアの偵察で明らかになっている時の精霊、ミーアの姉妹機であるキリングドール、そして正体不明のフード被った剣士だけだった。


「第一の目標は、こちらに向かってきている魔獣達を殲滅することでしょう。王都へと向かっている敵本隊も可能な限り早期に捕捉しないといけませんが、そちらはひとまず棚上げにしませんとね」


 フェリシアは淡々と今後の見通しについて思案する。


 事ここに至れば聖騎士団の敗退は必死。次善の策は可能な限りこちらの戦力の損耗を抑えつつ、魔獣の分遣隊を排除しなければならないという難問だった。


 フェリシアはこちら側の残存勢力を使っての細い勝利の可能性を模索していた時、聖歌隊の代表からさらなる凶報が伝えられた。


「す……すでに聖騎士団には騎兵戦力がおりません。聖女様の護衛のため、共に脱出されました……」


「はい?」


 フェリシアは思わず間抜けな声を出してしまった。つまりこちらに残されている戦力は、徒士(かち)の聖騎士団下級兵士達と近接戦では足手まといとなる聖歌隊の面々だけなのか。


「我らの使命は、ここで聖女様の無事なる転進を支援することなのです。おお、神よ。我らに大いなる加護を……」


「話になりませんわね……」


 つまり逃亡の邪魔になる面々は、ここで遅滞戦闘に徹しろという暗黙の命令だったのだ。


 フェリシア達だけならばこの段階でも脱出することは容易だった。


 だが───


「女神は常に我らの味方。この苦難の先には女神の栄光があるでしょう。讃えよ女神を!」


「「「光あれ!!!」」」


 年端も行かぬ純粋な眼差しの聖歌隊に属する少年少女達が、魔獣の咆哮に怯えながらも必死に神へと祈っていた。


 フェリシア達だってまだまだ子供と言えるような年齢だ。


 だがしかし、それでも自分達より幼い子供を見捨てて不様な逃亡を選べるほど、フェリシア達は人としての矜持(きょうじ)を捨ててはいなかった。


「リーゼ、メアリー。貴女達は聖歌隊の支援を受けながら可能な限り障壁と拘束に注力してちょうだい!」


「「はい!!」」


「クリスは私と一緒に聖歌隊に肉薄してくる敵魔獣の撃破をお願いね!」


「任せてよ!」


「ミーアとサキは、全力で敵をやっちゃってね! でも魔力残量にだけは気をつけてよ」


「任せてほしいデース!」「分かりました」


 …………


 そこからはまさに消耗戦といった有様であった。


 最初は個々に応戦していた徒士の兵士達であったが、フェリシア達の戦いぶりを見て聖歌隊を護るように再結集し、魔獣の足止めに徹していた。


 脚が止まった魔獣をクリスとフェリシアが淡々と狩る。だが魔獣の回復力が物凄いため、一匹仕留めるのも大苦戦だった。


 そして最前線のサキとミーアは大魔法等の強力な攻撃を放ち続け、可能な限り魔獣を蹴散らしていた。


 当然大魔法の連発は魔力の消耗も激しく、早晩この戦術は破綻するはずだった。だがそれを支えていたのは、なんと聖女が逃走の足手まといだと判断し、戦場に残置した聖歌隊の少年少女達だったのだ。


「「癒やしよ!」」


「話には聞いていましたが、ラ・ゼルカの神聖魔法は素晴らしいですね。喪った魔力が回復していきますよ」


 これは”魔力譲渡”という神聖魔法の効果だった。聖歌隊の役目は強力な儀式魔法のための魔力供給だ。

 それを人間に応用して前線で戦う戦士達の魔力タンクの役割を担わせていたのだった。


「このままいけばあるいは───」


 率いる少年少女の部下達とは違い、死の恐怖で頭がいっぱいいっぱいであった聖歌隊の隊長は、善戦する味方を見て、生き残れるのではないかと希望の燈火を燃やしていた。


 だがそんな希望を嘲笑うかの如く、戦線では異常が発生していた。


「「うわぁぁぁぁぁッッ!!!」」


 何人もの徒士の兵士達が、上空高く吹き飛ばされていた。


「フハハ! 脆い! 脆いぞ人間! なのでアールっ!!」


 銀色のメタリックなボディが禍々しい、古代魔法帝国が産み出した狂える戦闘ゴーレム、キリングドール壱号機のシーアが戦場で突如暴れ出していたのであった。

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[一言] 早く主人公来てくれー!!
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