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亜神化

祝、50万文字突破です!

いっぱい書いたなぁ。

 じゅ〜 じゅ〜。


「アッくん、もうちょっとでご飯できるから、座って待っていてね!」


「…………」


 風の女神ヴェルテはニコニコと笑いながら、ホットプレートの上でお好み焼きを焼いていた。


 料理中のヴェルテの格好は、黒のオフショルダーのトップスとデニムのショートパンツという女神にあるまじきラフなスタイルだった。


 へそも見えているし。……これって一歩間違えれば痴女じゃね?


女神様(我が主)よ。料理なんてこれまでしたことないじゃろうが。女子力5のゴミの分際で、何『私は料理ができるんです』アピールをしておるのじゃ、たわけめ」


 俺にとっての頼れる相棒であるウィンディが、辛辣なコメントをヴェルテに投げかけていた。


 そう。今から丁度1時間ほど前、女神(ヴェルテ)と俺が狭いベッドの上で低レベルの争いをしながらグダっていた時、精霊界に戻っていたウィンディが俺の”復活”を聞いてすぐに助太刀に来てくれたのだった。


 その際、きちんと俺が着る服を持ってきてくれたりとか(因みに俺は白シャツにデニムという石を投げれば当たりそうなコーデです。まる)、完全版のウィンディは分御魂の時よりも何気に気が利くんですけどぉ!


 なおここで言う”復活”というのは色々ややしこい事情があるのだが、まぁ後で説明しよう。


「私の眷属のくせに生意気ね、ウィンディ。言っときますけど、私は料理が”できない”んじゃなくて、料理を普段”しない”だけだから」


 ヴェルテはフン、って不貞腐れながらこてを使ってお好み焼きをひっくり返す。


 べちゃ。


「「「…………」」」


 見事にホットプレートの外に半分ほど落ちたお好み焼きの姿を見て、俺達の間に重い沈黙の空気が流れる。


 すすす……


 その時、いつの間にかヴェルテの後方より現れた死んだ目をした風の精霊の眷属さん達が、失敗したお好み焼きが乗っているホットプレートをテキパキと片付けて、完成したお好み焼きが乗っている新しいホットプレートをさっと取り替えていた。


「じゃじゃ〜ん! 愛情たっぷりの私特製のお好み焼きがかーんせーいでーす♡」


 ヴェルテが何事もなかったかのように満面の笑みを浮かべながら、両の掌をこちらに向けたポーズをとっている。


「……え、でもさっき───」


「かーんせーいでーす♡」


 ヴェルテの後方でホットプレートを用意していた眷属達が(この鶏をデフォルメしたような顔をした精霊達は、ホットプレートの準備だけではなくお好み焼きの材料を切ったり、混ぜたりと大活躍のご様子だった)、首を振ってこちらにつぶらな眼差しを向けてくる。


 はっきりと『女神様をあまり刺激しないでください』という懇願の色が見えていた。何気にこの職場、ブラックすぎぃぃ!


「……あ、ああ。美味しそうだな。食べさせてもらうよ」


 俺は風の精霊達の努力を無にしないため、無言でお好み焼きを頬張った。完全に女神の手が入っていないそのお好み焼きは、焼き加減も完璧でとても美味しかったことをここに付記しておく。


「ほんと!? あは、嬉しいな。美味しくできたのか不安だったのよ私」


 (そりゃお前は作ってないから出来栄えなんてわからんだろうよ)と内心思いながらも、ここまで清々と自分頑張ったアピールをされると、本当にヴェルテが頑張ったような気分がしてきた。


 鉛のような釈然としないこの思いを、社畜スピリッツで強引に心の奥へと流し込み、俺はヴェルテとの会話を再開する。


「で、さっきの話の続きなんだがな、ヴェルテ。俺の亜神としての復活は大分早いペースだったんだったんだよな?」


「そうよ。魂の亜神化は通常だと早くても数年はかかるはずなのに、アッくんの場合はわずか3日だったからね。もう本当にびっくりだよ!」


 どうやら時の女神の策謀で使用させられていた、時の女神や創造神の欠片が混じっていたやたらスペックの高い我がボディに引っ張られるかたちで、俺の魂のスペックも相当鍛えられていたようだ。


 通常は人間の魂を亜神としての改変に耐えられるようにするまで相当期間の年月が必要だったらしいのだが、俺の場合はその期間をすっ飛ばしてすぐに亜神化プログラムがスタートできたため、わずか3日という驚異的な期間で魂の亜神化が図れたとのこと。


 なんか逆に怖いんですけど。


「……まぁ、早期に活動再開できたのは喜ばしいことだよな。じゃあヴェルテ、早速俺が地上に戻れるように手配してくれよ。仲間達も心配だし、時の女神が世界に被害を拡げる前に俺があいつを止めなくちゃいけないからな」


「あ、それは無理ね」


 俺がウキウキと時の女神(クロノ)との再戦に向けた脳内シミュレーションを始めた時、あっけらかんとヴェルテが俺の要望を否定した。


「え、なんで?」


「だってアイツに勝てそうな地上用ボディがないんだもの」


 ヴェルテの説明は簡単で、それ故に説得力があった。


 女神や精霊王、そして俺のような亜神(見習い)が地上で動くためには、依代や契約者等の器が必要になる。


 それでも地上へ降臨するだけならばそれほど難しいことではないそうだ(もっともそれは女神サイドの認識で、人間がこれら超常の存在を呼び出すためには最上位の神聖魔法や禁呪クラスの魔術を要求される等ものすごく難易度が高かったりする)。

 

 しかしその手の人間が準備した不完全な器では、神や精霊王が持つ本来のスペックを発揮することはとても難しい。


 それ故に例え地上に降臨できたとしてもそんな中途半端な力では、元・俺の身体を使い地上でも存分に神の力を行使できる時の女神(クロノ)を打倒することは相当困難だと言えた。


「だからと言って座視するわけにもいかないだろ……」


「座視するとは言ってないわよ。ただ方策を練るのに時間がかかるだけ。幸い常世界法則(世界のシステム)に綻びはないし、私達には無限の時間があるのよ。……まぁしばらく地上は大変な事になるかもしれないけれどね」


 俺は食い下がるがヴェルテは全く取り合わない。


 ……まぁ、それは仕方がない事だ。人間とは価値観が全く違う超常の女神と、その眷属とは言え人間の感情をまだ引きずっている俺との違いか。


 今のところ全く女神を説得する材料はないが、仲間達の危機を見過ごせない。大事な仲間達なんだ。絶対に助けたい。


 ピンポーン。


 そんな俺の真摯な願いが通じたのか、誰かがこのヴェルテの部屋の呼び鈴を押していた。


 タイミングよく助っ人か───


「べるべる〜、遊びに来たよ〜」


 ウィンディがドアを開けると、水色の髪の美少女が現れた。


「あ、エミューだ。どうしたの?」


 なんとこの眼の前にいるぽやぽやした美少女は、神話で語られる水の女神エミューだった。


 ……神々しさ0点だな。


「ふふふ〜、それはねぇ〜」


 水の女神がいきなりガバっと俺に抱きついてきた。


「な、何するのよエミュー!」


「えへへ〜、NTRだよぉ〜」


 謎の単語を発しながら俺にしがみついてくる水の女神。


 止めろ。これ以上女神の株を下げるな。


 キャーキャーとヴェルテとやり合っているうちに飽きたのか、エミューは早々に帰って行った。


 本当に何がしたかったのだろうか。


 ピーンポーン。


 しばらくすると次の客人がやってきた。


「……失礼する」


「今度はオスクね」


 今度は闇の女神オスクだった。全身黒ずくめで厨ニ感溢れる佇まいだった。


「……うわさの彼氏を見に来た」


 無表情に呟くオスク。そしておもむろに懐からスマホを取り出すとパシャリと写真を撮った。


「……本当に良い男。今夜のおかずに使う」


 オスクは淡々と呟くとさっさと部屋から出ていった。ねぇ、何に使うの?


 その後も他の女神が何故かひっきりなしに部屋へと訪れ、6人全員の女神と面識をもってしまった。


 幻想とは思い描くからこそ価値があり、本物に触れてもいいことなんてないよなと思わせる出会いだった。


 ピーンポーン。


 玄関から再びの呼び鈴。もうウィンディは死んだ顔をしながらドアを開けに行っていた。


「今度は誰だよ」


 たまにはまともな奴の訪問はないのかと思いながら、玄関に続く廊下をぼーっと眺める。


「知らないおっさんが来たのじゃ!」


 ダッシュで戻ってくるウィンディ。そういいつつも見知らぬ人を家に上げてしまうウィンディもどうかと思ったのだが、考えてみればウィンディがそんな常識を持っているはずがなかった。


「失礼するぞ」


 部屋に入ってきたのは大きな老人だった。


 背丈は俺と同じくらい。顔中に皺が刻まれ髪も白髪ではあったが、褐色の浅黒さと彫りの深さとも相まって、ただただ精悍という印象が強い感じの老人だった。


 あれ? 確かこの老人って───


「……なぁ、あんた。もしかしてカフェで会った……クーリエさん……だっけ?」


「おお! ワシのことを覚えておったか。中々の記憶力じゃのう、お主」


 ニカッと笑う老人。


 そうだ、このクーリエという老人は、あの変な現代世界で意味深なことを言っていつの間にか消えていた爺さんだ。


 でも何でこんなところに?


 その時、俺の隣では信号機のように顔色を変えている奴がいた。


 嬉しいような、怒りたいような、泣きたいような……まぁ色々な感情が混ぜ合わさったような感じだった。


 肩を震わせ、俺の隣の奴───ヴェルテは、(ほとばし)る激情を抑えられずに叫んでいた。


創造神様(お父さま)っ!!」


 はい?

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