その後の彼女達
こんちには。歌って踊れるみんなのアイドルこと、キリングドールのミーアちゃんデス。これまでのあらすじをちょっとお話しするデス。
ご主人と我々は、敵のボスである”白い魔女”ヴリエーミアが行なうとしていた時の女神復活の野望を阻止すべく、フレイン王国の辺境にある通称”闇の森”にやってきたのデス。
そこでみんなで魔獣の大暴走を食い止めたり、イカれた戦闘狂ヘルメスの相手をしたり、私の同型機と戦ったりしてなんとかヴリエーミアの目論見は阻止できたかなと思われたのデス。
と・こ・ろ・が、その目論見さえもヴリエーミアのさらにボスであった、”時の女神”クロノの策略だったのデス。
本性を現したクロノによって不意を打たれたご主人は、女神に身体を乗っ取られ、私にみんなを逃すよう最期の命令を下すと、哀れお空の星となり、今は我々をお空の上から温かく見守っている存在になってしまったのデス。
あらすじ終わりデス。
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「……で、ミーア。最期に言い残すことはそれで良かったのかしら? 良いなら───」
「ま、待ってほしいのデス、サキ嬢! あらすじで説明した通り、私はあくまでもご主人の指示に従ってみんなを脱出させただけなのデス! 八つ当たりに私を壊しても問題は解決しないのデースッ!!」
「……じゃあミーア、私をさっさと時の女神がいる場所に連れて行きなさい。……私は御主人様を助けに戻らなければいけないのよ」
「お、落ち着いて欲しいのデス、サキ嬢! 飛ばしておいた監視衛星端末からの情報通り、すでにご主人は女神によって肉体を乗っ取られ、敵戦力も漸次増強中なのデス。今戻ってもサキ嬢が犬死にするだけで終わるデスよ!」
ミーアは、時の女神との戦闘から離脱し、騎士団や避難民達と合流した後に、監視衛星端末を使ってその後の時の女神達の動きについて調べた映像を関係者に公開したのだった。
そこに映されていたのは、”時の女神”クロノの現世への降臨と、死んだはずの魔獣達が次々と蘇っていった恐るべき光景であった。
「…………ちっ」
サキのアイアンクローを喰らいながらも、金髪を振り乱して涙ながらに必死の説得をするミーアの頑張りによって、サキは渋々禁呪の詠唱を中断した。
その姿にホッと息を吐くミーア。今のサキはヤンデレを拗らせきって完全に地雷状態だった。しかもその戦力は今この場で間違いなくNo1であり、止められる者が誰もいない。
ミーアはさらにため息をつくと、周囲を見渡した。
すっかり夜も更けて、篝火の明かりだけが唯一の光源となっていた。
炎に照らし出された宿営地には多くの村人が蠢いており、その表情は一様に暗い。
信心深い彼らにとって、今のこの状況はこの世の終わりと同義なのだった。
周囲には生き残ったアショカ騎士団のメンバーが見張りについているものの、その戦力は魔獣との激戦でかなり消耗しており、辛うじて統制が取れているような有様であった。
「ミーア、みんなの状況はどうなのかしら?」
ぼーっとしていたミーアに、不意にフェリシアから声がかけられた。
フェリシアは騎士団一行と合流した後、ヴェルサリア魔法学園の生徒代表として機動演習に参加していた学生達を率いて、難民や騎士団のフォローに駆けずり回っていた。
「フェリシア嬢、お疲れ様なのデス。今はひとまずの仮テントが組めたので難民達の状況は大分落ち着いてきたと思われるデス。
もう少ししたら地面を掘って井戸を掘る予定デス。そうすれば魔法を使った水の精製で疲労している魔法学園の学生達も少しは休めると思うのデス」
「色々と手助けしてくれて済まないわね、ミーア。……あの映像も見れて良かったわ。私達の敵の顔も拝めたわけだしね」
神妙なフェリシアの横顔には隠しきれない疲労と悲しみの影が浮かんでいた。
「私は絶対にこの危機から世界を救ってみせるわ。それこそが許嫁のアルベルトを死なせてしまった私にできる、ただ一つの罪滅ぼしなのだから……」
「フェリシア嬢……」
その健気ともいえるフェリシアの気高き態度を見て、ヤンデレを拗らせきっている現状のサキが少しでも参考にしてくれたらいいのになぁと心密かに考えるミーアであった。
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「クリス……状況はどうかしら?」
「あ、フェリシアさん。お疲れ様です」
フェリシアは小さな天幕の中に入ると、中で騎士の治療にあたっていたクリスへと騎士達の状況を問いかけた。
王国でも癒やしの力である光魔法の使い手は希少だが、その貴重な光魔法を高いレベルで使えるクリスがこの場に偶然居合わせた事によって、普通なら助からないレベルの怪我を負った騎士達もなんとか一命を取り留めることができたのだった。
「ここに運び込まれた方の7割程度の人はひとまず一命を取り留める事ができました。……でも私が診た段階ですでに亡くなっていた方や私の魔法が不甲斐ないばかりに亡くなってしまった方もいっぱいいて───」
「そんな風に考えてはダメよクリス。貴女が居なければそもそも助からなかった人が多かったのだから。貴女はもっと貴女自身を誇りなさい」
「……で、でも……でも……アルくんを私は……私は……助けられなかっ……た……っ! ううっ……」
人目も憚らず泣きじゃくるクリス。
彼女にとってアルベルトは、白馬の王子様であり、絶対の勇者だった。
何時だってクリスを助けてくれて、どんな逆境でも決して諦めない。
物語の主人公のように、強く優しく輝いていたアルベルトがまさか敗北し、死ぬだなんて事をクリスは露ほども考えた事がなく、未だ彼が死んでしまった残酷な現実を受け止める事ができないでいたのであった。
「クリス……」
泣いているクリスを優しく抱きしめるフェリシア。
おそらく今のクリスにはどんな言葉も届くまい。だから今は無理やりにでも仕事をさせて、嫌な現実を考えさせないようにする必要があった。
(もっとも、それは私も同じなのかもしれないけどね)
自分自身こそ仕事に逃げている自覚があったフェリシアは、自嘲の笑みを内心で思わず浮かべてしまった。
サキのように狂おしいほどの激情を抱えられず、クリスのように一途の涙も流せない。
全てにおいて中途半端な自分が嫌でたまらなかったが、アルベルトの元許嫁としての矜持が彼女を支えていた。
───彼の死が穢されぬよう、時の女神は絶対に倒す。
手段は持たぬ。見通しも立たぬ。
だがそれでもフェリシアには鋼鉄の意思でそれを成し遂げようとの熱い想いが残っていた。
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「おお、ここにおられたかフェリシア様」
「……メイベルさん、どうかしたのかしら?」
忙しく働いていたフェリシアの下に、遠くから声がかけられる。
声をかけてきたのは生き残ったアショカ騎士団の重鎮である副長のメイベル・ディ・サファードであった。
「フェリシア様、お疲れ様っす。なんかこの避難地にフェリシア様を訪ねてきたお客人がいるみたいっすよ」
副長を差し置いて団員のオクトーがフェリシアへと要件を伝えてしまった。
「……オクトー隊員、貴女にはもう少し礼儀というものを教えこむ必要がありそうね」
「うわ! 先輩ちょっとタン………アイタタタっ!」
副長は騎士団に伝わるやたらと身体に巻き付くような複雑な関節技をオクトー隊員に仕掛け、折檻していた。
フェリシアは苦笑を浮かべながら2人に礼を述べると、自分たちを訪ねてきたという人物に会いにいく事にした。
そして───
「オーホッホ! はじめましてフェリシアさん! わたくしの名は、ナターリア・リアプノフ! ラ・ゼルカ聖王国で聖女の任を務めさせて頂いておりますわぁ〜!」
「……はい?」
そして、指定された場所にフェリシアが赴くと、居丈高に自身を聖女と名乗る、明るい薄青色の髪の少女が待ち受けていたのだった。




