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人質

「……ヴリエーミアッ!!」


 空間を切り裂き俺達の前に現れたのは、時の女神復活を目論む、敵の首魁である”白い魔女”ヴリエーミアだった。


 魔女は空中を漂うように浮かび、こちらを睥睨してくる。


「その男は私の部下よぉ〜。勝手に殺されるのは……とても困るわぁ〜」


 そう言って嫣然(えんぜん)と微笑む魔女。まさに傾国の危うさを秘めた魔性の美しさだな。


「……それにこれを見てもあなた達は勝手なことができるかしらぁ〜?」


 魔女の右手にはいつの間にか銀色に鈍く輝く鎖があった。それを魔女が引っ張ると空間に新たな裂け目が現れる。


 新たに空間を切り裂いて現れたのは3人だ。


 以前にも見たフードを被った剣士と───


「……親父……姫様」


 鎖に繋がれた俺の親父と第二王女の姿だった。


「息子よ!」


「アルベルトさま、助けて!」


 どうやらスタンピード以降、行方不明となっていた宰相(俺の親父)とエリカ姫は、予想通りヴリエーミアの人質になっていたみたいだな。


 ヴリエーミアの手から伸びた魔法の鎖は、親父と姫様の(かせ)となっている首輪に繋がっており、2人を逃がすためにはその鎖を何とかする必要がありそうだった。


 なお一緒に現れた背中に剣を背負ったフードの人物は、フードから覗く緑の長髪や背格好からおそらく女性だろう。


 積極的にこちらへと関与するつもりはないらしい。ヴリエーミア達3人からは少しばかり後方に距離をとって、腕を組んでこちらの様子を伺っている感じだ。


「ヴリエーミア、悪足掻きはもうよせ。お前達が目論んでいた村人の生命を代償とした女神復活の儀式魔術は頓挫(とんざ)したぞ。大人しく降伏しろッ!」


 俺は魔女に降伏勧告を投げかけた。だがヴリエーミアは相変わらず本心が読めない薄い笑みを浮かべながら、優雅に返す。


「あなた、よく私が儀式魔術を使っていたとわかったわねぇ。……まぁコソコソと鼠が嗅ぎ回っていた事は分かっていたから、こちらも罠を張ったのだけれども……まったくうちの子達は本当にダメな子達ねぇ」


 自身の企みが失敗したというのに、ヴリエーミアの態度にはまだまだ余裕が感じられた。


 すでに一度、ヴリエーミア(この魔女)は実力で倒した。今回は仲間のバックアップもあり以前よりもこちら側が優位なはず。


 にもかかわらず、魔女のこの余裕は一体なんなのだろうか。


 言い知れぬ悪い予感がした俺は、早急に人質を助けてヴリエーミアを無力化しようと決意する。


「戦闘開始だッ! ……サキとフェリシアは魔法でフードの女の足止めを! クリスは人質2人に防御魔法を! ウィンディとミーアは俺と一緒に魔女へと突撃だッ!」


「「了解ッ!!」」


 サキとフェリシアの魔法がフードの剣士へと伸び、フードの剣士は大きく後ろへと距離をとってそれを避ける。


「”加護”よ!」


 クリスの光魔法が親父とエリカ姫を優しく包みこみ、物理防御力が多少上昇したようだ。


「ヴリエーミアッ!!」


 そして俺は黒剣を両手で水平に構え、魔女へと吶喊(とっかん)する。


「全くもってアルベルトくんは猪突猛進ねぇ〜! 時魔法、”空間接続”ぅッ!」


 魔女は空間を捻じ曲げる絶対防御の魔法を展開する。


 前回は戦略魔法で無理やりこの魔法を攻略したが、今回は頼りになる相棒が2人もいるのだ。


 同じ展開には、決してならない。


「お前様はそのまま進めい! 邪魔をするでないわ魔女めが!」


「敵との会敵位置予測………ご主人、援護するのデース!」


 俺の突撃に合わせて、ウィンディとミーアの援護が入る。


「くぅっ!」


 俺の行動を防ごうとして放たれた魔女の魔法は、2人の援護と俺の攻撃とで瞬時に無力化される。


 俺はヴリエーミアが対処する暇も与えず、肉薄する。


 ザシュッ!


「チッ、浅いか!」


 俺の斬撃はヴリエーミアの防御を突破したものの、魔女の回避と俺が踏み込みの目測を誤ったことから僅かに魔女のローブを浅く斬るだけに留まった。


「だけどこっちは上手くやったぜ!」


 だが魔女への直接攻撃と同時に狙っていた、人質と魔女とを結ぶ鎖を切り裂くことにはなんとか成功した。


 俺は一足で人質2人を庇うような立ち位置へと移動する。


 これでもう人質の意味はなくなった。あとはヴリエーミア個人を追い詰めれば俺たちの勝ちだ!


「よし、2人は確保した! ミーアは2人を安全なとこ───」






 ずぶり……


 いきなり胸に鋭い痛みが走った。


「……ごほッ」


 俺は吐血した。そして呆然と自分の胸元を見やる。俺の胸からは鈍色に光る血に濡れた刃が生えていた。


 そして背中からは灼熱の痛みが走る。


 俺はよろよろと震えながら背中側を見る。そこには俺の背後から短剣を突き刺している無表情の男がいた。


「お、親父…………?」


 俺へと背後から不意打ちを仕掛けてきたのは、俺が護るべき対象であった親父その人だった。

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