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壮烈! ヒノちゃん、死す!

前回が中途半端だったので今回は早めの更新です。

「ええい、この頑固者め! 聞けい、フェリシア! ヒノ(こやつ)は聖獣! 長く生きた分御霊であり、炎の精霊王(本体)との繋がりはすでに絶たれて久しいのじゃ!


 じゃからこやつが精霊力を全て消費しきった場合……精霊界への帰還ではなく消滅になってしまうのじゃよッ!!」


「……え?」


 私はウィンディから不意に投げかけられた言葉を反芻(はんすう)する。


《……チッ。”風”の。余計な事を言いおって》


「何が余計なことじゃ! この愚かものめが!」


 ヒノちゃんが不快そうにウィンディに対して舌打ちし、ウィンディが激怒している。


 自失状態から復帰した私は、徐々にウィンディが言わんとすることを理解し、みるみる顔が青褪めていった。


「つ、つまり……この一撃を放ったら、もうヒノちゃんとは会えないってことじゃない!!」


《……まぁ、そうだな我が契約者よ。ここで、お別れだ》


「……な、なんで……どうしてそんなにも冷静なのよヒノちゃん! ……私はこんなにも……こんなにも辛いのに……ッ!」


 自分が消えてなくなると分かっているのに、どうしてヒノちゃんはこんなにも泰然自若としていられるのか。

 私はヒノちゃんの心情を理解することができなかった。


 その事が……私はただただ悲しかった。


《……契約者よ、少し我の話を聞いてくれ》


 神剣を抱えながらぽろぽろと涙を流す私に対し、ヒノちゃんが穏やかに語りかけてくる。


《我はこれまで、倦むほどに長く生きてきた。我は本来、ヤマタノオロチを討つためにこの世界に顕現した。そのくせ怨敵を倒し切ることは叶わず、生きる屍として無為に時間だけが永く経過してしまったのだよ。


 それが何の因果かお前たちと偶然出会う事ができ、悲願であったヤマタノオロチの討伐を成し遂げる事ができたのだ》


 ヒノちゃんは、”それこそが我にとっての奇跡であった”と私に告げる。


《その後お前と共に生きたこの半年は、我にとってはまさに神の計らいによるボーナスステージのようなものであったよ。

 ……本当に楽しかった、平和の時代というものは。ほとんどの人間は戦にかかわる事もなく、穏やかに生きており笑顔があった。過去の時代に較べると確かに神々が伝えた秘術や高度な魔法テクノロジー等が時間の経過と共に時の彼方へと消えていったのかも知れぬ。だがそんな超常の力がなくとも人々の暮らしや表情は穏やかであった、とても平和だったのだ》


 ヒノちゃんの気配が、笑顔を私にむけてくる。


《我はそれが何よりも嬉しい。お前達と出会えて、この世界の今が知れて、我は本当に満足しているのだ》


 そしてヒノちゃんの気配は一気に硬いものへと変わる。


《だがそんな時代に逆行するような輩がいる。あの悪魔や、魔女達だ。奴らはこの時代の中で異端とも言えるレベルで凶悪であり、それに対抗できるのは我らのみだ。我らがこの時代の防人(さきもり)であり、平和の護り手なのだ。


 ならばこの老骨に出来ることを我は正しく行いたいと思う。頼む契約者よ、フェリシアよ。どうか我の最後の我儘を、聞いてくれないだろうか?》


 私は最初で最後のヒノちゃんの頼み事を受け、覚悟を決める。


「……ヒノちゃんの想い、よく分かったわ。私達の覚悟、存分に見せてあげましょう!」


「フェリシアよ……ワシから言うことはもうないわい……」


 ウィンディはまつ毛を伏せ、寂しそうに呟く。私とヒノちゃんの覚悟が伝わったらしい。


《フェリシア! こっちの準備は整った! 一発デカいの、カマしてやってくれッ!!》


 お誂え向きなタイミングで、アルベルトから念話が届く。


「女フェリシア、一世一代の見せ所ね」


《お相手がアルベルト(お前の想い人)ではなく済まなかったな》


「ふふふ。今は貴方が私のダンスのお相手をしてくれるのではなくって?」


 私とヒノちゃんは軽口を叩き合いながら魔力を練り上げていく。


「舞い散る焔に宿りし魔力よ、私に集え、集え、集え───」


 神に捧げる神楽のように優雅に舞い、私は天に祝詞を捧げる。


 自分の実力以上の魔法を放つには、少しでもイメージ力を上げる必要がある。


 残念ながら私にはアルベルトやサキほどの魔法の才はない。


 けれども──


《我、炎の精霊王が聖獣”ヒノカグツチ”の名において命ず。炎の精霊力よ、我に集え、集え、集え───》


 私にはその差を埋める大事な相棒(ヒノちゃん)が、いる。


 私達二人が集めた膨大な炎の魔力・精霊力が螺旋を描くように集積し、神剣(ヒノちゃん)を強く光り輝かせていく。


 その色は真紅。血よりも赤き、深き朱色。


 逢魔(おうま)が時を染上げる、強き焔の緋色の輝き。


「───その名は高き、炎の精霊王の(かいな)が一撃! 賊滅の破邪の炎ッ!!」


《その輝きを持ちて、悪を討つッ!!》


 二人の祝詞が折り重なり、言葉が意思に、意思が力へと変換されていく。


「いざッ!」


《いざッ!》


「《いざッ!!》」


 そして私は全身全霊をもって神剣を振り降ろす。


「《炎魔法・終の術 ”不死鳥” 射出ッッ!!》」


 私とヒノちゃんの全力を乗せた一撃が、大悪魔(レライエ)へと一直線に進んでいく。


《フェリシア……ありがとう》


 振り降ろした姿勢のまま、掌からソラへと還る線香花火のような残火の輝き。


 その輝きに乗せて、小さなヒノちゃんの感謝の言葉が、私の耳許を通り過ぎていく。


 蛍の如く舞い散る小さな炎はやがて夜空にかき消え、そして何もかもがその痕跡をも残さず広い空へと散華していった。


「ヒ、ヒノちゃん……私こそ……私こそ……あ、ありが、ありがとう…………うぅ……うぅぅ……うわぁぁぁぁん!」


 私は大声で泣いた。誰(はばか)ることなく、泣いた。


 泣き止んだらまた戦うから……だから今だけは……今だけはヒノちゃん(あなた)のことを想わせてちょうだい………

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[一言] ヒノ・・・お疲れ様。(´;ω;`)ブワッ
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