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聖獣の理

「……ん……ここは……?」


「あ、フェリシア様! 良かったお目覚めになったんですね!」


 リーゼが私に覆いかぶさるようにして抱きついてくる。


「ちょ! 恥ずかしいから止めなさいよ、リーゼ。……まったくもうしょうがない子ね」


 ひっしと抱きついて大粒の涙を流すリーゼを見ては私もそう邪険にはできない。されるがままに抱きつかれる事とする。


「お、起きましたかぁ〜、フェリシア様〜。良かったですねぇ〜」


 相変わらず独特のテンションで声をかけてくるメアリー。思えばこの子とも付き合いが長くなったわね。


 私は改めて周りを見回す。


 ざわめく群衆の群れ。それを率いる騎士達。どうやら村人達を避難させている騎士の集団───アショカ騎士団と私は行動を共にしているようだった。


「……あれからどうなったのかしら?」


 私は自分より格上の、時の精霊と相打ちとなったところで記憶が途切れていたため、リーゼに私が倒れた後の事を聞いた。


「───あれが……悪魔の正体なのね……」


 戦闘地域からかなり離れているにもかかわらず、その威容が分かる大悪魔。アルベルトが相手をしていた化け物みたいに強い相手は、本当に化け物だったようだ。


 そしてそんな人外の化け物と、天変地異をも引き起こす超絶なる魔法や剣技でもって対抗している頼れる仲間たち。


「おお、神よ!」「我らを守りたまへ!」


 そこら中で遠目からその戦闘を眺めている村人や騎士達が、呆然と神話もかくやと言わんばかりの戦闘風景を見て、伏して神に祈っていた。


 私は以前、過去の世界に飛ばされて(こじ)らせた風の女神と戦ったり、神話級の化け物であるヤマタノオロチなんかとやり合ったことがあったけど、よくよく考えれば一般の人達にとってはこんな光景を見るのは生まれて初めてのことよね。


 あ〜これはまずいわね。今までなんとか隠していた本当の実力を、こんな衆人環視の前で堂々と発揮しちゃったら……まぁ、目の前の脅威を考えたらそんな悠長なことも言ってられなかったわけだけどね。


「───あ、アルベルトさんですか。……え? そこまでの大規模魔法ですと私やメアリーでもちょっと……はい、はい、ちょっと騎士団の人にも聞いてみます!」


 どうやらアルベルトからリーゼあてに念話が入ったみたい。


 リーゼが騎士のみんなに声をかけているがどうやら色よい返事は貰えなかったみたいね……


「何かあったのリーゼ?」


「……実はアルベルトさんから───」


 そこでアルベルトから、大悪魔を一瞬でも拘束できるような大規模魔術の行使の依頼があったことを聞いた。


 あのレベルの敵を拘束するにたる火力……アルベルトやサキが切り札で持っているような戦略魔法、あとは古代帝国の超兵器であるミーアさんの全力……


 ───そして私とヒノちゃんの全魔力を使っての一撃くらいかしら?


 でも私には躊躇(ちゅうちょ)があった。私の方はリスクはあっても超級の魔力ポーションを飲めば一撃くらいなら大魔法を使えそうな状態だった。


 でもヒノちゃんは……



《私の心配は無用だ契約者よ。あと一撃程度ならばこの身体は、保つ》


「ヒノちゃん……」


 神鳥であるヒノちゃんはその存在(魔力)が大分希薄になっていた。


 ヒノちゃんを構成する魔力が、先程の時の精霊との削り合いで大分磨耗していたからだ。


「でもヒノちゃん、あなたが魔力を使い切ってしまったら……」


《なに、精霊界へと帰るだけだ。お前が気に病むことは、ない》


 そう。力を使い切った精霊は、精霊界へと強制的に帰還させられる。


 ウィンディから聞いたのだけれど、ヒノちゃんの本当の正体は炎の精霊王の分御霊(わけみたま)だそうだ。


 だから一度精霊界に戻ってしまうと、再召喚するのは技術的にもコスト的にもとても難しい。


 でも──


「……また召喚するからねヒノちゃん。ちゃんと私の呼び出しに応えてよ」


《……うむ》


 ローティス侯爵家を舐めないでもらいたい。召喚の儀式に必要なものは絶対に揃えてみせるんだからね!


─────


「こちらフェリシア。アルベルトどう、聞こえる?」


 現在、私とヒノちゃんは、大悪魔レライエそのものとなっているヘルメスに感づかれないよう、障壁を張っているウィンディ達の近くで待機していた。


《こちらアルベルト、感度良好だ。正直お前が復活してくれて助かったよ!》


 念話の向こうから婚約者(アルベルト)の切迫した声が聞こえてくる。


 どうやら私の復帰はかなりギリギリのタイミングだったみたいだ。


《攻撃の合図はこちらから出す! だからいつでも撃てるよう準備だけしておいてくれ!》


 いつになく余裕が感じられないアルベルトの声。それだけ状況は切羽詰まっているのだろう。


「ヒノちゃん」


《うむ、承知》


 小さく燃えていたヒノちゃんは、燃え盛る焔の剣となって私の手に握りしめられる。


 夕闇が近い茜色の薄暗い空に、赤く輝く剣から天をも焦がさんと立ち昇る(くれない)の焔。


 神剣”ヒノカグツチの剣”が顕現した。


《……そういえばお主と知り合ってからもう半年くらいになるのか》


「突然どうしたのヒノちゃん?」


 常とは違う感傷的なヒノちゃんの声に、私は少しだけ戸惑う。


《私は長いこと存在していたが、お前とともに過ごしたこの半年は本当に楽しかった。改めて礼を言わせてくれ我が契約者よ》


「ふふふ。もう、変なヒノちゃんね。まるで別れの言葉みたい。魔力を使い切ったって精霊界へと帰るだけでしょ? 私絶対にあなたをまた呼び出すわよ? しばらく会えないだけなんだからあまりしんみりしたことは言わないでよね」


 私がヒノちゃんにそう冗談めかして小言を返した時、なぜかそれに鋭く反応したのはヒノちゃんではなくてウィンディの方だった。


「……おい! おい、貴様ッ! まさかコヤツに伝えてないのか!? 答えよ、聖獣!!」


 怒りすら感じるウィンディの剣幕に思わずたじろぐ私。


 どうやら私にではなく、ヒノちゃんに言っているようだけど……?


《言って契約者の決意(・・)が鈍ったらどうする”風”の。我が生たる目的は、ただ一振りの剣であらんがためなり。その(ことわり)を曲げることは能わぬ》


「ええい、この頑固者め! 聞け、フェリシア! こやつは聖獣! 長く生きた分御霊であり、本体との繋がりはすでに絶たれて久しいのじゃ!

 じゃから此奴が精霊力を消費しきった場合……精霊界への帰還ではなく消滅になってしまうのじゃよッ!!」


「……え?」

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