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知っていましたよ

祝300万PV達成。

年度またぎで更新滞り中。申し訳ないです。

「……ベル。実はお前は時の女神様の加護によって仮初めに生かされている存在なんだ。だからもしも時の女神様がアルベルトに倒されてしまったら────お前は消えてしまうんだよ」


 クリスティンは妹のクリスに今までひた隠しにしていた真実を衝動的に告げてしまった。


 そして感情の赴くままその言葉(爆弾)を吐き出した直後、彼は激しい自己嫌悪に陥ってしまった。


(感情に流されて僕はいったいなんてことをッ───!)


 そもそもクリスティンは妹のクリスのためにここまで頑張ってきたのだ。それなのに、苛立ちからその大事な妹を傷つけるような言葉を投げつけてしまった。


 内心で激しい後悔に苛まれているクリスティンではあったが、とてつもない秘密を告げられたはずの妹のクリスの方は、大して感情を揺さぶられているようには見えなかった。


「ベル……?」


 流石に妹の常と変わらぬ態度に不信感を抱いたらしいクリスティンは、思わず妹に疑問の声をかけてしまった。


 クリスは何気ない口調でポツリと呟く。


「兄さん……そんなこと、私はとっくに知っていました(・・・・・・・)よ」


「……なに?」


「兄さんだけじゃない。アルベルトさんも私に黙って勝手に……。みんな、みんな勝手ですッ!!」


 穏やかだったクリスが、吼えた。


「誰がそんなことを頼んだんですかッ! 世界を犠牲にして、大切な人や好きな人を犠牲にしてッ! そんな犠牲の上で私が無邪気に生きていけるわけがないなんて、ちょっと考えれば分かることじゃないですかッ!!」


 あまりの剣幕にクリスティンは思わず怯んでしまう。それくらい今のクリスは舌鋒鋭かったのだ。


「誰がお前にそのことを……ま、まさかアルベルトか!?」


「そんなわけないでしょッ! ……まぁ、ちょっと友人に調べてもらっただけですよ。……それはともかく───」


 クリスは光の剣を消すと、腰に差していた実剣に手を沿え、居合の構えをとった。


「私は別に自分が生きるのを諦めたわけじゃありませんよ。最後まで(あらが)って抗いぬいて──誰の犠牲も認めず最後まで戦ってやりますッ!」


 その瞳は真っ直ぐにクリスティン()を射貫く。これ以上は言葉は不要。己が主張を貫きたければ力で押し通れ。


 事ここに至ればすでに議論の余地はないと、長年兄妹をしていた二人が悟るには十分な対話だった。


 クリスティンは光の剣を垂直に構え、光の魔力を練り上げる。


 一方のクリスも、居合の構えのまま光の魔力を高めていく。


 クリスティンは光の剣を捨て、実剣を手にした妹の真意を考える。


(光の剣で斬りあえばジリ貧と踏んだか。だが実剣に光の魔力を纏わしたところで僕の光剣は突破できない……ん? そうか! 鞘に光の魔力を篭めて抜刀の初速を上げ、こちらよりも先に実剣を僕にぶつける気だなッ!)


 妹の作戦を予測したクリスティンは、自分の身体にも光の魔力をバリアのように張り、万全の体制を整えた。


「じゃあ、ベル……行くよッ!」


「来なさい、兄さんッ!」


 脇目も振らずクリスへと弾丸のように接近するクリスティン。


 彼の脳裏にはすでに確実な勝利への道筋が描かれており、あとはそれをなぞるだけの作業に過ぎなかった。


「黙って寝ていろ、ベルッ!」


 光の剣を振り下ろすクリスティン。


 そしてそれに合わせるかのように実剣を抜刀したクリスは、眼を瞑っていた。


 瞬間。


 キィィィィィィン!!


 クリスティンの視界が眩い光の奔流に曝され、消えた。


 そしてその直後、激しい音が彼の耳朶を激しく揺さぶる。


(い、一体何が───)


 バチン。


 彼は首元に一瞬だけ痛みを感じたあと、何が起こったかを理解する間もなく意識を手放した。


「アルベルトさんから以前教えてもらった道具を私なりにアレンジした”閃光音響”の術式ですが……”電光”の魔法と組み合わせると初見殺しが成立しますよね」


 現代で言うスタングレネードとスタンガンを光魔法で見事に再現したクリスは、不意を打つ形で見事クリスティンの無力化に成功するのであった。


─────


「流石だな、”悪役貴族”ッ! ならば今度はこれを受けろッ! ”緑の触手”ッ!!」


 ヘルメスは、悪魔レライエが持つ”腐敗”の権能を帯びた触手を、俺へと撃ちかけてきた。


 緑の触手と接触した場合、卓越した光魔法による回復か神の強力な加護でもない限りその腐敗は止まらず、その腐敗した部位を切り離さない限り侵食は止まらない。

 つまり接触は殆ど死と同義である。俺はその触手の尋常じゃない速度に対応するため、肉体にさらなる支援魔法を重ねがけする。


「ぐぐぐ……保ってくれよ俺の身体ッ! ”身体強化”ッ!!」


 すでに何度も重ねがけした”身体強化”の魔法。


 いつもの安全マージンなんて取っ払い、身体が耐えられる限界まで魔法を身体に纏わせている。


「たぁぁぁッ!!」


「これも避けきれるか。ははは、愉快愉快!」


 目の前の戦闘狂(ヘルメス)は、俺の必死な動きにいたくご満悦の様子だ。


 しかし、常人ならば1回、熟練者であっても3回も重ねがけをすれば限界と言われるこの支援魔法を、俺はすでに10回も重ねがけしている。


 これは幾多もの強敵達との死闘により、ゲームで言うところのレベルアップを達成した成果なのだろうか?


「しかしこうも避けられ続けるのも癪だな。よし、多少魔力を使うが俺も必勝の策を披露してみよう」


 嫌な予感しかしないが、なお余裕のあるヘルメスが、その悪魔の腕を掲げ、魔力を練り上げていく。


「では心して受けてくれ”悪役貴族”。……”緑の触手──腐敗庭園”ッ!!」


 ヘルメスの掲げた右腕から、無数の”緑の触手”が拡がる。


 触手の一つ一つは一本の蔓のようなものだ。だがそれが無数に合わされば。


 線から面へ。そして空間へ。


 急速にアルベルトを覆うように展開したそれは、緑の牢獄とでも呼べるような代物であった。


(逃げ場は……ない)


 俺は絶望的な拡がりを見せているソレを睨みながら、密かに覚悟を固める。


 回避は不可能。だからといって何もしなければ取り込まれて肉体が腐敗して終わる。


 ───ならば俺がとるべき手段一つ。


「強引に……こじ開けて脱出だッ!」


 俺は矢のような勢いで自分から緑の格子へと向かっていく。


 触手によって完全に囲まれる前に、隙間の大きそうな触手の格子へと全力の魔法を打ち込み、その威力でもって一時的にヘルメスの触手の繁茂を抑制することで、俺はこの致命の攻撃から抜け出そうと試みた。


「”烈風”ッ!」


全力の魔力を乗せた風属性の攻撃魔法は、目論見通りに触手の動きを一時的に止めた。


 俺はその僅かな時間を逃さず、触手網を抜け出すことができた。


───と思っていた。


「貴様ならそうすると信じていたぞ”悪役貴族”」


 ゾクリ。


 得体のしれない直感が働き、俺は触手網を抜け出した瞬間、無意識に技を放つ。


「”秋水”ッ!」


 俺は真空の刃を、見えない何かに向かってがむしゃらに打ち込む。


 剣に触れる感触は、まるで見えない蜘蛛の巣のように不可視の何か。


 一見迎撃できたかに見えたその不可視の糸は、だが全てを振り払うことができず、何本かが俺の右腕にまとわりつくように絡みついてきた。


 瞬間、右腕が燃えるように熱くなる。


「ぐわぁぁぁぁッ!!」


「貴様の行動を先読みし、罠を仕掛けさせてもらった。以前貴様が破った”不可視刃網”という術があっただろう。それと悪魔(ソレイユ)の権能を混ぜてみたのだよ。くくく、どうだ我が腐敗の味わいは? 人間にはきつかろう───む?」


 俺は咄嗟に右腕を切り飛ばそうと痛む右腕を無視して魔力を練り上げていると、不思議な事に右腕の痛みが消失していた。


 さらに先程まで腐敗の権能により炭化するように黒ずんでいたはずなのに、その傷もなくなっていた。


 俺は光属性の魔法使いではないので、ここまでの回復魔法は使いこなすことができない。


 自分自身のことであるにもかかわらず、わけがわからない。


 驚きでしばし固まっていた俺に対して、ヘルメスはポツリと呟く。


「なんだ……貴様はそもそも人間ではなかったのか」


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