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彼女の武器(前編)

仕事がちょっと立て込んでます。

後編はそんなに時間を空けずに投稿できると思います。

(これは……流石にダメかもしれないわね)


 時の精霊との戦闘を開始して早々。フェリシアは神剣を青眼に構えつつ、内心で弱音をポツリと零す。


 彼女にはゲーム時代の設定でアルベルトをも超える近接戦闘に関する圧倒的な天賦の才があった。


 その設定はゲームから大幅に逸脱した今でも十二分に効果を発揮しており、神剣をメインウェポンに選択した現在のフェリシアのステータスは、ある種才能を数値として換算した場合には、アルベルトをも超えて現状パーティー内でも最高のものと言えた。


 だが彼女の本質は炎系統の魔法使いであり、どんなに剣に関して天賦の才があろうとも実戦において数多の強敵と(しのぎ)を削ってきた純然たる戦士であるアルベルトには遠く及ぶものではなく、それはフェリシア自身がよく理解していることであった。


 中途半端な魔法剣士。


 それが自嘲的にフェリシアが自分を評価する言葉だった。


(なんとか攻撃を引き伸ばして、仲間の救援を待つのが最上の策、なのかしら?)


 時の精霊との戦闘を開始して間もないにもかかわらず、彼我の戦力差からすでに彼女は自分の敗北を半ば認めていた。


 だがその時、彼女の脳内に喝!とばかりに思念が(ほとばし)る。


《汝の泣き言、我は聞く耳を持たんぞ!》


(ヒノちゃん!?)


 その内なる声は彼女の神剣から聞こえてきた。彼女の剣であり相棒でもある神鳥の声であった。


《我にも分かる。あの時の精霊は、強い。汝よりも、そして我よりも強いのであろうな》


(そうよ、だから───)


《だがそれがどうした。1人で(かな)わぬのならば2人で当たればよいのだ。こちらには我と汝がいる。1人では無理でも我らが組めば倒せるとも》


 フェリシアにとって神鳥の言葉はただの詭弁に聞こえた。今だって神剣を握って戦っているのだ。すでに2人がかりなのだ。


 それでも……勝てないのだ。


 そんなフェリシアの内心の葛藤が伝わったのか、神鳥の声は優しい。


《未熟者め。それはあくまでも我を”使っている”だけよ。我の提案はその先──我と汝の”共闘”、なのだよ》


(共……闘……)


 片方が使うのではない。


 双方が、戦うのだ。


(……分かったわ! 私はヒノちゃんを……信じる!)


《よくぞ言った! ならば我の作戦を……聞けい!!》


 そして神鳥の思念にて作戦の詳細が聞かされる。


 まさに正気とは思えない馬鹿げた案だった。


 だが──


(任せて)


 フェリシアはあっさりとその作戦を受諾した。


─────


「サキはあのゴーレムに勝ったみたいね」


 フェリシアは時の精霊からは目を逸らさずにポツリと呟く。


 ”火之迦具土(ヒノカグツチ)の剣”を青眼に構え、時の精霊と相対しているフェリシアには、身体中に無数の傷が走っていた。


 並外れた剣の才と炎の精霊王の分御霊が宿る神剣を手にしてさえ、時の精霊相手には劣勢を強いられていた。


 なぜなら───


「時魔法……”加速”」


「!」


 フェリシアが時の精霊の攻撃を知覚できた時、それはすでに致命の距離にあった。


 ギンッ!


 時魔法”加速”。


 時間軸を限定的に捻じ曲げ、人の知覚では反応できない速度に物体を加速するシンプルなものであった。 


 単純。それ故につけこむスキが、ない。

 

 その致命の一撃を、フェリシアは並外れた戦士のカン、体捌きそして神剣の能力を駆使し、紙一重で弾く。


「……くっ」


「……ふむ、やはり浅いか」


 だが完全には防げない。当然だ。時の精霊が放つその加速された一撃は、常に必死の攻撃であり、逆に致命傷を受けずに防ぎ続けるフェリシアの天賦(てんぶ)の才をこそ驚嘆たるものと言わざるをえないであろう。 


 だが、そんな危うい均衡も時が経つ毎に崩れていく。


 なぜならば片や防ぐのが精一杯であり、片や常に攻勢であるのだから。


「あっ! しま──」


 ザシュッ!


 時の精霊による度重なる攻撃の連鎖が続き、かろうじて保たれていた細い均衡はついに破られた。


 フェリシアの脚には僅かな裂傷。


 常ならば、大したペナルティにもならない小さな傷であったが、今の状況で僅かでもフェリシアの体捌きを支える機動力に瑕疵(かし)ができることは即ち敗北と同義であった。


「その傷、つけこませてもらうぞ」


 ここぞとばかりに猛攻を仕掛ける時の精霊。


 劣勢でも諦めずに致命の一撃をギリギリで防ぐフェリシア。


 だが先程の脚への傷を呼び水として、フェリシアの身体に致命には至らない傷が累積していき、その動きは僅かずつだが徐々に精彩をかくものとなっていった。


 最初と同じく対峙する二人。


 だがその姿はすでに対照的なものとなっており、すでに勝敗は明確なものとなっていた。


「我は用心深い。そのため貴女に必要以上の手傷を与えた事は詫びよう。だがすでに我の懸念は消えた。その傷痛かろう。次なる一撃にて慈悲深く貴女を冥土へと送り届けようぞ」


「………」


 身体中傷だらけでも、それでも神剣を手放さないフェリシア。


 高まる時の精霊の精霊力。ついに最後の一撃が、来る。


「さらばだ。時魔法……”加速”」


 そして致命の一撃が放たれる───

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